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スクラム採用はどう進めていくべき?【はじめての人事お悩み相談#6】#ディスカヴァー #人材マネジメント100のツボ

電子版5月28日、書籍版6月26日に発売の『図解 人材マネジメント入門』。本書では領域が広く捉えにくい人材マネジメントを、わかりやすく図解を交え体系的にまとめています。
そんな人材マネジメントの原理原則を詰め込んだ本書の著者である坪谷さんに、入社2年目にして今年の1月から人事担当となった弊社の社員井上が抱える悩みを相談してみました。

スクラム採用はどう進めていくべき?

井上:「スクラム採用」という言葉が盛り上がってきているなと感じています。

※「スクラム採用」とは全社員が一丸となり取り組む採用方法のこと。
「スクラム採用」は株式会社HERPによって提唱されました。

ディスカヴァーでも、新卒採用の担当者が自分を含めて2人ということもあり、現場の人たちの力を「借りながら」インターンシップや選考を進めており、スクラム採用をしていると言えます。しかし、スクラム採用は、現場の力を「活用する」というような、より現場が採用に積極的になる手法なのではないかと思っています。
普通の採用と「スクラム採用」の違いは何でしょうか?そしてどのように「スクラム採用」を進めていけばよいでしょうか。

坪谷:「スクラム採用」とは面白い言葉ですね。まずスクラムとはラグビーで選手同士が肩をがっちり組んで一丸となる姿のことです。そして、採用とはもともと全社一丸となって「スクラムを組んで」行うべきもの。会社として重要な取り組みですので、現場も関わるというのは採用の大前提なのです。ところが、わざわざ「スクラム採用」という言葉が生まれ、それが流行している。そこがとても興味深いです。おそらくアジャイル開発(システムやソフトウェア開発におけるプロジェクト開発手法の1つ)のスクラムが有名になったので、その語感を採用にも使ってみたのではないでしょうか。
そもそも、採用は人事部門だけで行うと偏りが出てしまいます。最適な採用チームは人事と現場が一体であるべきです。また、現場のメンバーが「採用の主体は自分たちだ」と思っていないと、採用した人たちへの受け入れにも責任が持てないでしょう。現場が責任をもって、「来てほしい人」を採用して受け入れるのが重要です。しかし、そうなっていない会社も多いようですね。

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そもそも「採用は全社で取り組む」のが当たり前

坪谷:なぜうまくいかないかというと、機能分化が進んでしまって、現場が「採用の仕事は自分たちの仕事ではない」と思い込んでしまうからです。逆説的に言えば人事部門ができてしまったから、採用が機能しなくなった、ともいえますね。会社が小さかったころには人事部門も存在せず、現場が当然のように採用をやっていたはずです。
ここで大事なのは経営のスタンスです。人事が「一緒に採用に取り組もう」と現場に言っても、場合によっては人事の責任逃れに聞こえてしまうでしょう。経営者が「採用は全社で取り組むべきことだ」と言えるかどうかが重要なのです。

井上:なるほど。普通の採用から「スクラム採用」を目指すというよりも、「採用はもともと全社一丸となってやるべきことだ」という認識をもって、経営や現場にどんどん協力を仰いでいきたいと思います。

採用にこそ優秀な人材を

坪谷:全社一丸となっての採用を実現するためには、まず優秀な人材を採用担当にするべきです。採用は新しく入ってくる人たちにとって、はじめの会社との接点です。そこでどんな人たちと接するかが、採用の質を左右します。アメリカの海兵隊では特に優秀な人材を採用担当者にすることで、優秀な人材を惹きつけています。同じように、優秀な人材の採用に成功している組織では、現場で優秀な人を採用担当者として送り出しているのです。一方、採用を軽んじる組織は、一流の人材には現場の中の仕事をさせて、採用には「そこそこの人材」を当てるので、結果的に、そこそこの人しか採用できなくなってしまいます。しかしそれでは組織としての未来が狭まっていきます。だからこそ、「良い人材ほど採用に当てよ」ということ。そこが経営者に見えているかどうかが重要です。

井上:今のお話しを聞くと、私は入社2年目ですし、優秀な人材とは言えないので不安になってきました(笑)

坪谷:私も20歳代前半で採用担当者になった時に、「自分が採用担当でいいのか?」という不安がありました。「就活の掲示板にネガティブなことを書かれたらどうしよう」という恐れもありました(笑)しかし途中で思ったのです。会社の顔であるポジションに自分を置いたということは、社長や上司が私に任せてくれているのだ、と。そう前向きに捉えました。そして「自分にできる最高の仕事をすることが、この会社にとって最高の採用活動だ」と考えました。さらに言えば、「うまくいかなかったら私を採用担当に決めたあなたたちも悪いんだぞ」と。開き直って胸を張っていこうと思うようにしたんです(笑)

井上:自分もそう思うようにします(笑)
自分も人事部への異動は今年の1月からで非常に唐突でした。最初は「いったい誰が自分を人事部に配属させたんだろう」と思ったこともありました。しかし、自分も「社長や上司が判断して採用を任せてくれたのだ」と自信をもって、会社の顔として働いていこうと思います。

全社一丸で行う採用の「カオス」が組織を活性化させる

坪谷:全社一丸となって行う採用には、組織を活性化させる効果もあります。リクルート社では組織活性化の秘訣を「一に採用、二に人事異動、三に教育」と言っています。もちろん、採用して新しい人が入ってくること自体がまず組織を活性化させます。ただ、それだけではなく採用に全社で取り組むプロセスによって起きる「カオス(混乱)」こそが、活性化の源泉なのです。「現場を巻き込み採用する」というだけなら簡単ですし、その意義は現場にもわかってもらえるでしょう。ただ、現場には現場の仕事がある。そして採用活動に引っ張り出したい優秀な人ほど忙しい。その現実の中でどうやって一丸となって採用活動を行うのか。この大変なカオス(混沌)の中で「採用をやりきる」ことが、人事だけでなく会社としての組織開発となるのです。これをリクルート社で組織文化を作ってきた大沢武志は「カオスの演出」と呼んでいました。

「スクラム採用」という言葉はあくまでも「流行」です。全社一丸となって採用するのは大前提として、「いかにカオスを生み出し、採用をやりきるか」が人事としての「本質」だと思います。


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<著者プロフィール>

坪谷邦生(つぼたに・くにお)

株式会社壺中天 代表取締役、株式会社アカツキ 人材マネジメントパートナー、株式会社ウィル・シード 人事顧問、中小企業診断士、Certified ScrumMaster認定スクラムマスター。 1999年、立命館大学理工学部を卒業後、エンジニアとしてIT企業(SIer)に就職。2001年、疲弊した現場をどうにかするため人事部門へ異動、人事担当者、人事マネジャーを経験する。2008年、リクルート社で人事コンサルタントとなり50社以上の人事制度を構築、組織開発を支援する。2016年、急成長中のアカツキ社で人事企画室を立ち上げる。2020年、「人事の意志を形にする」ことを目的として壺中天を設立。
20年間、人事領域を専門分野としてきた実践経験を活かし、人事制度設計、組織開発支援、人事顧問、人材マネジメント講座などによって、企業の人材マネジメントを支援している。
主な著作『人材マネジメントの壺 ARCHITECTURE』(2018)、『人材マネジメントの壺DEVELOPMENT』(2018)など。

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