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土砂災害のハザードマップを見る上での留意点

 熱海市伊豆山地区での土砂災害に関連して、土砂災害に関するハザードマップを見る上で留意した方がよいのでは、と思うところをメモしておきます。

 7月5日午前までに得られた情報を元に、今回の土石流により流失・倒壊したとみられる家屋の位置を読み取ってみました。

 読み取った流失・倒壊家屋の推定位置を、重ねるハザードマップで土砂災害警戒区域(土石流)と重ねると下図のようになります。流失・倒壊家屋はいずれも土砂災害警戒区域の範囲内であると読み取れます。いわゆる「想定外」の災害だったというわけではなさそうです。

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 ところで、この土石流の発生位置(砂防の人は源頭部とよくいいます)は、図の左上「リスク情報」の「リ」の字の下、点線道路がVの字になったあたりのようです。ならばハザードマップから完全に外れているのではないか?、と思うかもしれませんが、そういうことではありません。土砂災害警戒区域とは、こちらの説明にもあるように、「急斜面が崩れるなど土砂災害が発生した場合に住民などの生命又は身体に危害が生ずるおそれのある区域」です。上記リンク先(国交省 防災用語ウェブサイト(水害・土砂災害))の図を引用します。

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 土石流の土砂災害警戒区域についてみると、土石流が谷底を流下して、谷の出口から、「扇状地のような地形」(土石流が作る地形は専門的には扇状地とは呼ばないそうですが普通に通用する代替語が思い浮かばないのであえてこう書きます)の上を流れ下るわけですが、この「扇状地のような地形」で土石流が流れ下りそうな範囲が土砂災害警戒区域(土石流)となります。

 重要なのは、このような地形が存在したとしても、そこに住家等がなければ警戒区域にはならない、ということです。これは、土砂災害警戒区域(急傾斜地の崩壊)などでも同様です。「住民などの生命又は身体に危害が生ずるおそれのある区域」だから、ということなのかと思います。

 また、上の図では谷の出口付近で土石流が湧いて出てくるかのようなイラストになっていますが、こんなことはちょっと考えられなくて、一般的には、上流側でがけ崩れなどが発生して砕けた土砂、岩石などが生じ(土砂が生産され、などといいます)、それが水などと混ざり合って谷底を流れ下るのが土石流です。この、「扇状地のような地形」より上流側の谷底の渓流を流れ下る部分は、一般的には土砂災害警戒区域(土石流)には指定されません

 土石流を生じさせるようながけ崩れが起こったり、土石流が流下する渓流などの位置を示す危険箇所の情報としては、土石流危険渓流があります。土石流危険渓流とは、「土石流の発生の危険性があり、人家に被害を及ぼす恐れのある渓流」とされています(国土交通省 土石流危険渓流及び急傾斜地崩壊危険箇所に関する調査結果)。土石流危険渓流、という指定の仕組みの方が土砂災害警戒区域よりも歴史が長いです。土石流危険渓流は土石流を生じうる山地斜面とそれが流下する渓流の範囲を示す情報ですので、それだけでは土石流による被害を受ける居住地等の範囲がわかりにくいということも、土砂災害警戒区域という制度が作られた要因の1つと理解しています。

 熱海市伊豆山地区の流失家屋の推定位置を、土石流危険渓流と重ねると下図となります。この図では、土石流を生じさせた崩壊の場所も土石流危険渓流として「色が塗られて」いると読み取れます。一方、流失家屋の一部は土石流危険渓流の範囲から外れています。これは、土石流危険渓流を指定した際に用いられた地形情報の精度が低く、適切に読み取られていないと言うことと、主に渓流の位置を示しているため、土石流による影響を受ける範囲までは指定が及んでいないといったことが考えられます。このようなことがあるので、土砂災害警戒区域(土石流)の指定が重要だ、とも読み取れます。

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 なお、土石流が流下する上流側の渓流付近は、土砂災害警戒区域(土石流)のある意味定義上指定されることはあまりないと思いますが、仮のその渓流沿いに住家があれば、そこは土砂災害警戒区域(急傾斜地の崩壊)に指定される可能性はあると思います。上の字の範囲内の土砂災害警戒区域(急傾斜地の崩壊)は下図のようになります。土石流が流下した渓流沿いは土砂災害警戒区域(急傾斜地の崩壊)にも指定されていませんが、これは「安全だから」ではなくて、「住家等がないから」と考えるのが適当でしょう。この渓流沿いに住家があれば、土砂災害警戒区域(急傾斜地の崩壊)に指定された可能性はあるかもしれません。

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