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2021年7月3日の静岡県熱海市での土砂災害に関するメモ

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寄稿 軽視できぬ長時間雨量 -熱海土石流

(2021年08月03日付静岡新聞への寄稿記事)

 7月3日に熱海市伊豆山地区で発生した土砂災害では、死亡・行方不明が27人に上った。県内の自然災害でこれを上回る人的被害の発生は、1974(昭和49)年7月の「七夕豪雨」(死者・行方不明者44人)までさかのぼる。本当に痛ましいことが起きてしまった。

 この災害の要因として「盛り土」の問題が指摘されている。県は災害発生直後から、盛り土関連を始め詳

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2021年7月3日静岡県熱海市での土砂災害による人的被害についての調査速報(2021年7月28日版)

2021年7月3日静岡県熱海市での土砂災害による人的被害についての調査速報(2021年7月28日版)

 熱海市伊豆山での土砂災害に伴う死者・行方不明者は27人に上り、7月28日現在でもなお5人の方の行方がわからないままです。大変痛ましいことが起こってしまいました。2021年7月3日静岡県熱海市での土石流災害について(第10報)でも述べましたが、当方では最近約20年間の風水害犠牲者の発生状況についての調査を継続的に行っています。あらましはこちらをご覧下さい。

 これまでもnoteでいくつかの報告を

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2021年7月3日静岡県熱海市での土石流災害について(第10報) 死者・行方不明者の発生範囲

2021年7月3日静岡県熱海市での土石流災害について(第10報) 死者・行方不明者の発生範囲

 当方では,最近二十数年間の日本の風水害による死者・行方不明者の発生状況についての調査研究を続けています。そのあらましについては下記記事をご覧下さい。

 7月3日の熱海市伊豆山地区での土砂災害についても同様な調査を実施中です。このあと、近年の風水害と比較して特徴についての速報を出すつもりですが、先行して死者・行方不明者の発生範囲の推定結果について述べます。なお、限られた情報に基づく推定結果であり

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2021年7月3日静岡県熱海市での土石流災害について(第9報) 死者・行方不明者数の規模

2021年7月3日静岡県熱海市での土石流災害について(第9報) 死者・行方不明者数の規模

 熱海市の土砂災害に伴う死者・行方不明者として総務省消防庁から発表される数は、7月11日に死者と行方不明者の合計が27人となって以降、発表の都度若干増減しつつほぼ変わらなくなっています。①発見されて身元が判明した方、②発見されたが身元が判明しない方、③発見されず行方がわからない方、の合計値となるため一時的に②と③が重複するケースが出るため若干増減するものですが、合計はこのまま27人となる可能性が高

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2021年7月3日静岡県熱海市での土石流災害について(第8報) 熱海付近の降水量(追記)

2021年7月3日静岡県熱海市での土石流災害について(第8報) 熱海付近の降水量(追記)

 熱海市伊豆山での土石流災害発生時の、付近での降水量については、最寄りの気象庁網代観測所のデータを使って、第2報として速報しました。

 その後の報道等から、土石流は複数回に分かれて集落に到達し、その時間帯は概ね7月3日午前10時半頃からだったように思われます。

 静岡県はこの土石流について詳しい情報を出し続け、崩壊源頭部付近にあった盛り土が崩壊して被害を拡大したと考えられること、その崩壊のきっ

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あらためて土砂災害の「前兆現象」について

あらためて土砂災害の「前兆現象」について

 土砂災害には前兆現象があるとよく言われますが、この「前兆現象」という「情報」には注意が必要です。これについてはこれまでも繰り返し述べてきましたが、まず、2018年5月9日付静岡新聞「時評」欄への寄稿記事を再掲します。

土砂災害-「前兆」頼りすぎるな(静岡新聞寄稿記事再掲) 土砂災害が発生する際には、「前兆現象」があるので注意せよ、といった話をよく聞く。このこと自体は何も間違った話ではない。たと

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2021年7月3日静岡県熱海市での土石流災害について(第7報) 流失家屋の形成時期

2021年7月3日静岡県熱海市での土石流災害について(第7報) 流失家屋の形成時期

 熱海市伊豆山での土石流災害について、被害を受けた家屋がいつ頃からこの場所に形成されていたかを検討してみました。

 検討対象は第5報で挙げた、空中写真等から読み取った流失・倒壊家屋です。「建物の数」ではなく、同一世帯の複数の建物は1箇所、アパートは複数世帯でも1箇所などとして読んだ「箇所数」です。第5報公表時以後に若干の情報が得られ、現時点では47箇所としています。

 今回土石流が流下した逢初

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自然災害は素因と誘因の組み合わせ

自然災害は素因と誘因の組み合わせ

 ここではちょっと基本的な話に言及したいと思います。「この災害の原因は?」とよく問われますが、多くの場合それを明確に判定することは困難と言っていいでしょう。また、「原因」を構成する要素にも複数のものがあるとも言えます。ちょっとややこしい話ですが、説明に使う場面もあるかもしれませんのでメモとして作っておきます。

災害と外力

 私がやる災害関係の講義、講演のほとんどで使うスライドです。まず、「災害

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2021年7月3日静岡県熱海市での土石流災害について(第6報) 7/6現地踏査雑感

2021年7月3日静岡県熱海市での土石流災害について(第6報) 7/6現地踏査雑感

 7月6日に、熱海市伊豆山地区を現地踏査しました。ただし、捜索活動のさなかであり立ち入りが規制されており、土石流が流れた範囲にはほとんど近づくことができません。よく誤解がありますが、私は災害時に何ら特殊な権限を持っているわけではないので、一般の人が入れないところには私も入れません。入ることができる範囲からの現地踏査です。

 最初の写真はこのあたりから撮影。

 広く出回っている土石流が流下する動

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土砂災害のハザードマップを見る上での留意点

土砂災害のハザードマップを見る上での留意点

 熱海市伊豆山地区での土砂災害に関連して、土砂災害に関するハザードマップを見る上で留意した方がよいのでは、と思うところをメモしておきます。

 7月5日午前までに得られた情報を元に、今回の土石流により流失・倒壊したとみられる家屋の位置を読み取ってみました。

 読み取った流失・倒壊家屋の推定位置を、重ねるハザードマップで土砂災害警戒区域(土石流)と重ねると下図のようになります。流失・倒壊家屋はいず

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2021年7月3日静岡県熱海市での土石流災害について(第5報) 流失・倒壊家屋(2)

2021年7月3日静岡県熱海市での土石流災害について(第5報) 流失・倒壊家屋(2)

 熱海市伊豆山での土石流災害について、報道の映像などから、流失・倒壊家屋を読み取った結果を第3報として報告しました。

 その後、7月4日の朝日新聞による斜め写真などが出てきましたので、改めて読み直してみました。下記がその記事ですが、タイトルは県のドローン(崩壊源頭部動画)を挙げていますが、私にとっては斜め写真の方が有意義でした。

 第3報の再掲ですが、ここでいう「流失・倒壊」とは、家屋が完全に

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自然災害による死者・行方不明者の「匿名化」について

自然災害による死者・行方不明者の「匿名化」について

 自然災害に伴う死者・行方不明者(最近では安否不明者と言うことも)の氏名を公表するかどうか、という事がしばしば話題となっています。7月3日の静岡県熱海市での土砂災害にあたり、この話題が関わってきそうな気がしましたので、これまでに筆者が書いたものを急遽簡単に整理しておきます。

死者・行方不明者の匿名化を巡って
※これは、月刊「Journalism」No.342(2018)に寄稿した記事の一部を再掲

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2021年7月3日静岡県熱海市での土石流災害について(第4報) 降水量既往最大値との比較

2021年7月3日静岡県熱海市での土石流災害について(第4報) 降水量既往最大値との比較

 熱海市伊豆山での土石流災害が発生した前後の、静岡県付近の降水量分布を作図してみました。

 まず、6/30~7/3の気象庁AMeDAS観測所における1時間降水量の最大値です。この5日間の中で最も多かった時間の降水量ですので、記録時刻は一定ではありませんが、石廊崎以外はいずれも7月2日又は3日に記録されています。最も多いところで60mm(非常に激しい雨)前後で、多くは20-30mmの「強い雨」にと

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2021年7月3日静岡県熱海市での土石流災害について(第3報) 流失・倒壊家屋

2021年7月3日静岡県熱海市での土石流災害について(第3報) 流失・倒壊家屋

 熱海市伊豆山地区での土石流災害では、土石流によりかなりの数の家屋が流失・倒壊したと見られます。土砂が流入するだけでも人的被害が生じることは少なくありませんが、流失・倒壊すると屋内にいた人に人的被害が生じる危険性はかなりあると考えられます。

 なおここでいう「流失・倒壊」とは、家屋が完全に破砕されている、家屋の形状はとどめているが別の場所に流されている、外観上明らかに大きく変形しているなどの大き

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