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2021年7月3日静岡県熱海市での土石流災害について(第8報) 熱海付近の降水量(追記)

 熱海市伊豆山での土石流災害発生時の、付近での降水量については、最寄りの気象庁網代観測所のデータを使って、第2報として速報しました。

 その後の報道等から、土石流は複数回に分かれて集落に到達し、その時間帯は概ね7月3日午前10時半頃からだったように思われます。

 静岡県はこの土石流について詳しい情報を出し続け、崩壊源頭部付近にあった盛り土が崩壊して被害を拡大したと考えられること、その崩壊のきっかけとなったのは長く続いた雨だったと推定されることなどを指摘しています。

 この「盛り土」の形成時期についてもいくつかの報道がありますが、朝日新聞は2010年7~12月には既に崩壊直前と同様な盛り土が見られたことを報じています。

 これらの情報も踏まえて、熱海付近の当時の降水量について再検討してみました。まず、位置関係の図です。土石流は2kmほど流れていますが、崩壊源頭部(報道では「起点」とよく言ってますが砂防などの分野では源頭部というのが一般的)は、熱海市役所付近の北方約3kmほどのところ。源頭部の南南東約9kmほどのところに気象庁AMeDAS網代観測所があります。また、熱海市役所の近傍に、静岡県が設置した熱海雨量観測所があり、上記静岡新聞に掲載されている熱海の雨量はこちらのものです。

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 土石流発生2日前の7月1日01時からから7月3日24時までの網代の1時間降水量と72時間降水量の推移です。土石流発生(厳密に言えば集落到達)直前の3日10時の降水量(9:00~10:00の1時間に降った雨の量)がこの期間中では最も強いですが、それでも27mmで、気象庁で言う「強い雨」です。この上に「激しい雨」「非常に激しい雨」「猛烈な雨」という呼称の階級がありますから、それほど驚くような強さではありません。10時時点の72時間降水量は375.5mmで、これは同地点の1976年以降の72時間降水量最大値(422mm)に達していません。土石流発生後も雨が降り続け、3日24時時点の72時間降水量は411.5mmとなりますが、これでもまだ1976年以降最大値には達しません。

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 ただし、この422mmが記録されたのは2003年8月16日です。「盛り土」が形成されたのが2010年頃のようですから、2010年以降の雨について見た方がいいのかもしれません。2010年以降の最大値は、2014年10月6日の307.5mmですので、こちらと比べると、3日11時時点の72時間降水量は大きく上回っていると言えます。72時間以外の降水量についても2010年以降の最大値を計算して、今回の最大値と比較したのが下図です。やはり、短時間の降水量はさほど激しいものではない(2010年以降最大値を明確に下回っている)ですが、48,72時間降水量は2010年以降最大値を上回っています。長時間の降水利用で見ると、今回の雨は、2010年以降で見れば最大規模だったと言ってよさそうです。

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 ちなみに、静岡県の熱海雨量観測所について7月1日から3日の降水量の水位を見ると下図となります。なお県の観測所は過去のデータが得られないので、過去の雨と比べた議論はできません。網代よりは全般に降水量が多く、3日11時の72時間降水量は468mmで、網代より80mmほど多くなっています。ただ、雨の降り方のパターンは網代と概ね同様で、1時間降水量も強い時間帯で20mm台です。極端に降り方が異なっていたとまでは言えないと思います。

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 斜面の崩壊が大雨に伴って発生するとは言えますが、どの程度の降水量で発生するのかについては、簡単かつ明確な目安はありません。また、短時間の降水量、長時間の降水量のいずれが関係するかも一概にはなんとも言えません。過去の記録と比べて大きな雨が降れば、土砂災害や洪水災害は起こりやすくなるとは言えますが、どの程度「大きく」なれば起こるのかの目安も難しいところです。

 ここで言えるのは、今回の熱海付近の雨は、短時間降水量はそれほど大きくなかったが、72時間などの長時間降水量で見ると、この地域の2010年以降としては最も大きかった可能性が高い、というところかと思います。

 なお、観測所の観測値ではなく、解析雨量(気象レーダーの観測値を地上の観測所の観測値で補正した雨量)でみると、今回の崩壊場所を含む静岡県東部で、48,72時間降水量が、データが存在する2006年以降の最大値を上回っていたこと(最大値は地域によって大きく異なるので単に量的に多かった訳ではありません)が日本気象協会から報告されています。

 もっとも、これらの地域で今回被害が多発したわけではなく、長時間の降水量が大きいだけで必ず災害が起こるわけではありません。このあたりは難しいところです。なお、地上の観測所での1976年以降最大値の更新状況については、第4報でも触れました。



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