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2021年7月3日静岡県熱海市での土石流災害について(第5報) 流失・倒壊家屋(2)

 熱海市伊豆山での土石流災害について、報道の映像などから、流失・倒壊家屋を読み取った結果を第3報として報告しました。

 その後、7月4日の朝日新聞による斜め写真などが出てきましたので、改めて読み直してみました。下記がその記事ですが、タイトルは県のドローン(崩壊源頭部動画)を挙げていますが、私にとっては斜め写真の方が有意義でした。

 第3報の再掲ですが、ここでいう「流失・倒壊」とは、家屋が完全に破砕されている、家屋の形状はとどめているが別の場所に流されている、外観上明らかに大きく変形しているなどの大きな破壊が加わったとみられる家屋を指します。災害の統計で言う「全壊」ではありません。本報告で言う「流失・倒壊」はかなり限定的、というか、かなり厳しめに判読したものと捉えてください。

 今回は住宅地図も参照しました。住宅地図で、住家・事務所・店舗などと表記されている建物と、それらとしての表記はないが番地が記されている建物を読み取り対象としました。これらに該当しない建物の多くは物置・作業場などと思われますが、ストリートビューから住家と思われるような建物もありました。ただし今回はそのような建物は流失していても1箇所とは数えないことにしました。映像から複数の建物が読み取れる場合でも、同一敷地内で同一の世帯・事務所・店舗等であると住宅地図に表記されている場合は1箇所としました。つまり、流失・倒壊した「棟数」ではありません。また、複数世帯が入居していると思われるアパートが何カ所かありましたが、アパートは、1棟を1箇所と数えました。

 読み取り結果を図に示すと以下のようになりました。今回は少なくとも44箇所が読み取れました。第3報の時と読み方の方針が少し変わり、むしろ読み取り箇所数は減る方向に方針を変えたはずなのに、新たな情報を元に検討した結果、箇所数は増えました。いずれにしましても、1箇所の土石流による流失家屋としてはかなりの被害規模です。「1箇所の土石流による被害」と言っても明確に定義することが難しいので、何と比べてどのくらい、と言うことはちょっとできません。

[7月5日午後追記]新たに得た映像から、更に上流側に2箇所を読み取り、計46箇所となりました。図は本報では修正しないことにします。

[7月7日追記]更に、下流側に1箇所をみ取り、計47箇所となりました。図は本報では修正しないことにします。 

スクリーンショット 2021-07-05 103910

 読み取った流失・倒壊家屋位置を陰影起伏図に重ねると下記となります。第3報でも指摘したように、土石流が谷筋に沿って流下し、谷筋にあった家屋が大きく損壊した状況だったのかと思われます。

スクリーンショット 2021-07-05 105459

 先に挙げた朝日の写真やドローン映像を見たときにも感じたのですが、谷の中でも最も低い部分に立地していた家屋が流失し、そこから一段高いところでは流失は免れているようでした。流失しなくても、土砂流入や家屋の一部の損壊はあった可能性があります。

 試みに、流失家屋が発生したあたりの谷の方向と直交する形で地形断面図を作ってみました。図中の「始」という位置が断面図の左側になり、図中の黒太直線沿いの地形断面を示しています。「始点からの距離」という吹き出し下部の黒太線位置が、断面図中に「103.44m」と書かれているところです。流失家屋が存在している付近が最も低い面になっており、断面図左側の一段高く(5mほど、こういう高さの差を比高と言いますが)なっているところでは、家屋はありますが流失の被害は出ていません。

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 こちらはもう少し下流側になります。同様に、谷底の低くなっている面で流失家屋が生じているように読み取れます。こちらの断面では断面図の左側、地図の南西側にもう一本谷が読み取れるようですが、こちらには今回土石流は本体は流れていかなかったようです(全くゼロかどうかはわかりません)。

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 被害が激しかった場所は、地形的には説明がつく場所であったように思えます。極めて雑な読み取りに過ぎないので、ここからなにか「提言」をするつもりはありませんが、今後いろいろ考える参考としたいと思います。

 なお、土砂移動現象の物理的メカニズムについては専門外ですから詳しい言及はできません。こういうことを言うと「逃げている」とおっしゃる方がいますが、現に専門的知見がないことについて、適当な知識で広く社会に「解説」「提言」するのは誠実ではないと私は考えています。


記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。