外出予定を見合わせる 災害時 被害軽減に有効
(2021年02月03日付静岡新聞への寄稿記事)
災害時の「避難」とは「避難所へ行く」だけではなく、「難を避ける」ための行動全般を指す、と近年強調されている。「避難所へ行く」ことは目的ではなく一手段であり、場所や状況に応じた対応が必要ということである。
「難を避ける」行動のひとつとして「外出予定を見合わせる」が考えられる。たとえば、台風接近時に出勤などの外出を取り止めるといった対応である。「避難所へ行く」に比べ実施のハードルが低い対応かもしれない。また、「避難所へ行く」が有効なのは洪水・土砂災害などの危険性がある場所が中心だが、「外出予定を見合わせる」はその場所の災害危険性の高低に関わらず、ほとんどの人にとって有効な対応となりうる。
筆者の調査結果では最近約20年間の風水害犠牲者の約半数は屋外で遭難している。そのほとんどは避難とは無関係で、用事・仕事などで屋外に外出したケースである。また、すべての屋外犠牲者についての確認はできないが、その多くは自宅の倒壊など自宅にいても命を落とすような状況は生じていなかった可能性が高い。あくまでも結果論だが、「外出予定を見合わせる」ことでこれら犠牲者の多くは生じなかった可能性もある。
災害時に「外出予定を見合わせる」ことはすでに多くの人が実施している可能性もある。2019年10月台風19号の際に筆者が静岡県、神奈川県で行った調査では、勤務先への出勤予定があった人の7割前後、個人的な用事での外出予定があった人の8割前後が予定を取り止めたと回答した。
近年、荒天が予想される際に鉄道などが計画的に運休することが珍しくなくなった印象がある。あるいは、コロナ禍を経てのテレワーク推進や、体調が悪いときには無理して出勤しないという呼びかけの日常化などもあり、何らかの支障が予想される際に「外出予定を見合わせる」ことを私たちの社会が受け入れやすくなった面もあるのではないか。無論、災害の危険性が高い場所など「避難所へ行く」の重要性が高いケースはある。あらゆる時点・場面で「外出予定を見合わせるだけでよい」訳ではないが、「外出予定を見合わせる」ことも災害時に有効な被害軽減策の一つであるととらえることも重要ではなかろうか。
【note版追記】
風水害時の「避難」のあり方が多様であった方がよいだろう、というのはたびたび申し上げているところで、今回の記事もその話題の1つです。
「立退き避難」せず自宅にいたところ自宅が倒壊するなどして犠牲となった人について、「避難していれば助かったのでは」と考えることは自然なことで、それが間違いというつもりはありません。しかし、風水害犠牲者全体の約半数が屋外で遭難していることを考えると、避難場所等への立退き避難【だけ】で犠牲者を大きく軽減することは難しそうに思います。この記事で挙げた「外出予定を見合わせる」も、それが唯一の正解ではありませんが、犠牲者軽減手段の1つとしてもう少し注目されてもよいのでは、と思っています。
「外出予定を見合わせる」は、避難所等への立退き避難に比べれば「やりやすい」対応のようにも思います。とはいえ、個人的な用事ならまだしも、自分以外の人も関わるような行事等に「悪天候だから」という理由で欠席することは実際にはなかなか容易でないとも思います。実は、私自身が講師であった講演会を「悪天候」を理由にキャンセルしたり、取りやめを働きかけたことが何回かあります。そうしてとりやめた講演会主催地付近でそれなりの規模の災害が結果的に起きたこともありますが、何事も無かったこともあります。いずれにせよ、主催者や関係者のみなさまには迷惑はおかけしたと思っていますし、二度と頼みたくないと思われた方もいるだろうなと思っています。
「他人事」として「空振りを恐れるな」を言うことはたやすいですが、「自分事」、というか「他人も関わっている自分事」になると本当に難しいところだなと思います。
なお、「風水害犠牲者全体の約半数が屋外で遭難」については、下記記事をご参照ください。
「2019年10月台風19号の際に筆者が静岡県、神奈川県で行った調査では、勤務先への出勤予定があった人の7割前後、個人的な用事での外出予定があった人の8割前後が予定を取り止めた」については、残念ながら論文化等ができていないのですが、下記に集計結果概要だけは公表しています。
なお、2020年台風10号接近時の「外出予定を見合わせる」行動についての調査の概要を、3/19~20に行われる日本自然災害学会学術講演会で口頭発表する予定です。
【2021/04/16追記】自然災害学会で発表した上記の話題についての予稿集原稿は、下記に掲載しました。
牛山素行:2020年台風10号接近時の住民の「予定変更行動」について,日本自然災害学会第39回学術講演会講演概要集,pp.115-116,2021
静岡新聞「時評」欄へ寄稿した過去記事については下記にまとめています。
記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。