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2022年9月23~24日の静岡県内での豪雨災害(第1報) 人的被害の概要

 9月23日夜から24日朝にかけて、静岡県内は台風15号の影響により発達した雨雲が生じ、県中部、西部を中心に大雨となりました。9月27日13時現在の静岡県の資料によれば、死者・行方不明者3人、住家の全壊・半壊・床上浸水が計1,661棟などのまとまった規模の被害が生じています。

 当方では,最近二十数年間の日本の風水害による人的被害(死者・行方不明者)の発生状況についての調査研究を続けています。そのあらましについては下記記事をご覧下さい。

 今回の災害についてもこれまでと同様な調査を行っています。9月26日に人的被害発生現場を現地踏査しましたので、その概要を速報として報告します。 

掛川市遊家

掛川市遊家の土砂災害現場

 住家の裏山が斜面崩壊して土砂が建物に流れ込み、1人が亡くなっています。同一敷地内に複数の建物があり、2階建ての離れで人的被害が生じた模様です。被災した建物の2階部分は形状をとどめていますが、1階部分は完全に倒壊したように見えます。崩壊の規模はそれほど大きくなく、被災箇所近くの地上あるいは空中写真(国際航業撮影)で見ても木に隠れてよく見えません。長さ数十m程度のように思われます。斜面崩壊による被害が生じた場所は、土砂災害警戒区域(急傾斜地の崩壊)で、一部は土砂災害特別警戒区域の範囲内と読み取れます。

袋井市大谷

 通行中の車が水に浸かり、運転していたとみられる74歳男性が、車からは脱出したものの亡くなられたとみられる被害が生じたと報じられています。

 遭難したとみられる道路は、高さ約4mの堤防越しに川を越える形になっていました。川の右岸側の道路沿いは、道路面を水が流れた形跡はあるものの、浸水した形跡は認められませんでした。一方左岸側は明確に浸水の痕跡が認められ、川を越えきったあたりでは道路面から1.4m程度のところに浸水痕跡が認められました。右岸側から進行すると橋を渡るあたりまで左岸側の道路の様子は見えませんでした。深夜でもありましたので、浸水していることに気がつかず進行してしまったのではないかと推測されます。

袋井市大谷の人的被害発生場所付近の略図

 筆者のこれまでの調査では、風水害犠牲者全体の約半数は屋外で遭難しており、屋外での犠牲者の3割は車で移動中の遭難、そのほとんどは「避難」とは関係なく、日常の移動行動の中での遭難です。車での遭難場所は、河川沿いの道路の路肩決壊に転落するケースや、緩い下り坂で浸水域に侵入してしまったケースなどが目立ちます。このケースも緩い下り坂での遭難例と言えるでしょう。筆者の調査では、堤防を越える道を通行し、越えた先の浸水域に進入して遭難したという、今回と全く同様なケースは、直近では2019年台風19号による災害時に、福島県南相馬市でも生じています。風雨が激しい際の屋外の移動にはかなりの危険が伴うことをあらためて痛感させられます。

川根本町下泉

 通行中の車が陥没した道路の穴に転落し、乗っていた1人は脱出したものの、70歳男性が9月27日現在でも行方不明のままです。現地に行ったときは捜索活動が行われており現場にあまり近づけませんでしたので写真は遠景です。深い谷底の川に沿った道で写真のカーブのすぐ先が被災現場です。

川根本町下泉の被災現場のやや下流側

 被災直後の写真が静岡新聞に掲載されています。河川側の護岸は残っていますが、護岸の道路側の土の部分が抜けるように落ちてしまったようです。

 こうした道路の欠損は水害時には時折みられます。筆者の調査では、全く同様な状況で通行中の車が転落して犠牲者を生じた例が、2019年台風19号による災害時に、栃木県鹿沼市でも生じています。

 静岡新聞は行方不明となった男性について、この地区の副区長とみられ、区長らと避難所を開設した後に周辺のパトロールに出たとみられることを報じています。

 「自主防災組織」としての活動と言えるかどうかはわかりませんが、地域での自主的な防災の取組の中での遭難である可能性がありそうに思われます。筆者の調査では、自主防災組織など地域の防災活動に伴って生じた犠牲者の例はほとんど確認されていませんが、2019年台風19号の際に宮城県石巻市で、避難を呼びかけに各世帯を訪問していた区長が、訪問先近くで川に転落して亡くなったケースがあります。

 2021年8月の大雨では、依頼を受けて住民宅を訪問した民生委員が、依頼者とともに水路に転落したと見られる状況で亡くなったケースもあります。災害発生中には、たとえ「自主防災」「支援」の目的であっても、まずは各自の身の安全の確保が重要であることをあらためて痛感させられます。


記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。