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2021年7月3日静岡県熱海市での土石流災害について(第10報) 死者・行方不明者の発生範囲

 当方では,最近二十数年間の日本の風水害による死者・行方不明者の発生状況についての調査研究を続けています。そのあらましについては下記記事をご覧下さい。

 7月3日の熱海市伊豆山地区での土砂災害についても同様な調査を実施中です。このあと、近年の風水害と比較して特徴についての速報を出すつもりですが、先行して死者・行方不明者の発生範囲の推定結果について述べます。なお、限られた情報に基づく推定結果であり、今後大きく修正される可能性もあります

 下図が熱海市伊豆山での土砂災害にともなう死者・行方不明者について、7月27日までに得られた情報を元に推定した遭難場所と、第5報で述べた流失・倒壊家屋を重ねた図です。なお、遭難場所が正確に推定できるわけではありませんが、これまで得られた報道等の情報からは、自宅から大きく離れた場所で遭難したと推定できるケースはありませんでしたので、いずれも自宅の位置としています。これまでに推定されたのは、死者・行方不明者27人中21人(14箇所)ですが、いずれも流失・倒壊家屋に居住されていた、又は仕事先であったと推定される方でした。また、死者・行方不明者が生じたと推定される場所は、土石流が流出した谷出口から下流部まで広く点在していました。

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 土石流による死者・行方不明者の発生は、谷出口付近で見られることが一般的です。下図では2014年8月の広島市安佐北区八木3丁目付近の土石流による死者・行方不明者の発生地点(筆者調べ)を示します。地形断面図は、土石流が流下した渓流の谷底部と思われる位置を筆者が地理院地図上で計測して作図したものです。広島の方は複数の土石流が流下していますが、図中青天線で示した、八木3丁目32番地付近の土石流が流下した渓流を計測しています。

 広島市安佐北区八木3丁目付近では複数の渓流で土石流による人的被害が見られますが、いずれも谷出口付近に集中しています。これは、谷出口付近よりも下流側では、上流側に比べ勾配が緩くなり、土石流の形態で流下しにくくなるため(土石流としての力が弱まるため)と考えてよいでしょう。土石流により形成された扇状地状の地形では、こうした形状となっていることがよく見られます。一方、熱海市伊豆山の場合は、土石流により形成された地形ではありますが、谷出口より下流側でもほとんど勾配が緩くなっていません。こうした地形的な特性が(異常だとか特殊だとかここでしか見られないなどということはなく、こうした地形も各地で見られます)、下流側まで人的被害をもたらした背景である可能性があります。

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記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。