ハザードマップを厳格に読み込まない 「地質」ではなく「地形」を読む
「想定外」の場所で土砂災害なんだろうか
久留米市田主丸町竹野地区での土砂災害において、想定外の場所が土砂災害に見舞われた、といった声があります。
たしかに同地区を襲った土石流の一部が、土砂災害警戒区域の範囲外に流下し、家屋に被害を与えた場所があることは事実です。ただ、現地調査の記事でも触れたように、家屋が倒壊・流失するといった激しい被害が生じたのはほとんどが土砂災害警戒区域内で生じていました。そもそも上記記事で土石流が流下したと色づけされているところは、実際の土石流より図の左側に大きくずれています。
無論、家屋に土砂が流入しただけでも当事者にとっては大変なことであることは言うまでもありません。倒壊・流失でなければ被害は軽微だなどとは全く思いません。
ハザードマップは何でもそうですが、計算の仕方や、用いるデータによって計算結果(図に色が塗られる範囲等)が変わってくることが一般的です。「色が塗られている」ところだけが危険で、そこからちょっとでも離れれば確実に安全と考えることはあまり適切ではありません。
竹野地区で「色が塗られていない」範囲は、家屋のあるあたりの幅でいうとだいたい100~200m位です。このあたりは多少の専門知識が必要になってしまいますが、この「色が塗られていない」場所も、地形図で見ると「色が塗られている」場所に比べ明瞭に異なる地形というわけでもありません。一般論としての目安は示しにくいですが、「土砂災害警戒区域ではないが、そのすぐ近く」として「確実に安全とは言えない」と考えておいた方がよい場所とも言えるかもしれません。
防災上の知識としては「地質」より「地形」が重要でしょう
このように、ハザードマップの境界線を厳格に読み取られてしまうことの弊害は以前から懸念していたところです。久留米市土砂災害現場付近の山麓は地形分類図でみればことごとく扇状地。したがって、地形的に見ればこの地区において、谷の近くで土石流が流下しうる勾配のところで「土砂災害に対して確実に安全な場所」はないと言っていいでしょう。
とはいえ、地形分類図という知名度が低い上に癖が非常に強くて新たな誤解を大いに生みそうな情報を、すべての人が適切に利用しろというのも無理な話で、「ハザードマップは有効だが、あまり厳格に読み取らないで」ということを繰り返し言っていくしかないだろうな、とは思っています。
土砂災害が起きるとすぐ「地質や地盤を」とかいう話が出ますけど、そんなややこしいもんじゃなくて「地形」を見てくれよ!、と思います。地質はそもそも地中が簡単には見えない上に、どのような地質が危険で、どのような地質は危険でないのか(崩壊しない安全な地質[岩石]なんてそもそもないと思いますけど)、といった防災知識として簡単に説明できるような一般論はないと思いますし、地質図を見ても「どこが危険か」なんて、ある程度専門知識があっても明瞭には言えないと思います。地形だってそう簡単じゃないですけど、地形分類図は「どこが危険か」を定性的とはいえ示せるわけですし、地形ならば現地で目でも見えるわけですから、ある程度の専門的知識があれば、災害と直接の関わりが判読できるでしょう。地形分類図をもっとましなものにして、地形分類図を読んで普通の人に説明できる人を増やすところにお金をかけてよ、と本当に思います。
ハザードマップはピンポイントで読み込んではダメ
ハザードマップの境界線が厳格に読み取られてしまい、場合によると致命的な誤解につながりかねないわけですから、ましてや、最近「重ねるハザードマップ」で実装された「ピンポイントで災害リスクを教えてあげる機能」なんて本当に危険だと思います。「危険性が想定されている場所ではありません」なんて言われたら「ここは安全」と思うでしょう。下図はそのあたりについて説明した図です。
記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。