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防災の数値情報の捉え方 細かく読まず大まかに

(2024年4月18日付静岡新聞「時評」欄への寄稿記事)

 数値で表されるさまざまな情報は、それぞれ異なる正確さの度合いを持っている。これが「精度」と呼ばれ、数値のばらつきの幅(誤差と言うこともある)などで表される。ハザードマップなどで用いられる地図も実は数値情報の集合体であり、地図上にさまざまな形で表現されている記号や標高などの情報にもそれぞれ精度がある。

 国土交通省が整備している「重ねるハザードマップ」の背景図として使われている地図は国土地理院が整備している「地理院地図」で、さまざまな地点の標高を表示できるが、この標高という数値の精度、すなわち実際の値に対するばらつきの大きさは場所によって異なる。「DEM5A」という高精度のデータが用いられている場所では0.3メートル以内とされているが、「DEM10B」というデータが用いられている場所では5.0メートル以内である。後者の場合、ある地点の標高が10メートルと表示されていても、実際の標高は5~15メートルの範囲のいずれかでもおかしくないことになる。

 地図上に記されているさまざまなものの位置情報にも精度がある。地理院地図を建物の形が分かるくらいに拡大した際の水平方向の位置の精度は17.5メートルとされている。例えばある地点が「重ねるハザードマップ」で土砂災害警戒区域の境界線から地図上で5メートル外側にあると読み取れた場合、その地点は実際に区域外かもしれないが、境界線から12.5メートル内側(区域内)にあるのかもしれないということになる。JR在来線車両の標準的な長さが約20メートルであることを思い浮かべると、17.5メートルというのは決して短くない長さであることがイメージできよう。

 数値で表される情報はいくらでも細かく示すことができるが、細かく示せば「正確な情報」になるわけではない。複数の数値情報の間に大小関係があったとしても、その数値の情報が持っている精度より細かな値であればあまり意味のある違いではない。実は防災に関わる数値の情報のなかで地図上の位置や標高という情報は最も精度が高いものの一つであり、他の情報の精度はこれらに比べると桁違いに低いものがほとんどである。数値の情報は、細かく厳格に読み取ろうとせず、なるべく大まかに捉えていった方がよいのではと思う。

【note版追記】


 記事中で触れている、地理院地図の水平方向および高さ方向の精度についての概略は下記に記述があります。

 DEM5A、DEM10Bなど、標高データの精度については下記に記述があります。

地理院地図上に記入した半径18mの円

 参考までに、地理院地図上で、中心点(+記号)から半径約18mの円を描いてみました。地理院地図の水平方向の制度を考慮すると、この場所の真の位置はこの円のいずれかということになります。この点の周囲にある建物はよくある校舎ですが、校舎の幅くらいの位置の違いを細かく「読み込んで」もあまり意味がないでしょう、と私は思いますが、そこは人それぞれの感じ方ですかね。
 細かい数字を一概に使うな、という話ではないです。数字の意味を理解したり、説明したりした上で使うのがよいでしょう、という話です。

 これまでの静岡新聞「時評」欄寄稿記事は以下から。


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