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特別警報運用開始10年 具体的な危険性 例示を

(2023年9月5日付静岡新聞「時評」欄への寄稿記事)

 気象庁が発表する防災気象情報の一つに「特別警報」がある。通常の警報の発表基準をはるかに超える現象が予想され、重大な災害の起こるおそれが著しく高まっている場合に発表され、最大級の警戒を呼びかける情報である。8月30日に運用開始10年を迎えた。

 昨年2月に気象庁が公表した全国の住民2000人を対象にした調査では、大雨特別警報を「見聞きしたことがない」との回答は9%で、古くからある大雨警報を「見聞きしたことがない」という回答の5%とほぼ変わらない。特別警報という情報の存在はほぼ定着したと言ってよいだろう。

 運用開始当初の特別警報は広い範囲に出やすい場合もあったが、現在は危険性が高まった範囲に絞られるようになり、1市町村のみに発表というケースも見られるようになった。また、2021年改定の内閣府「避難情報に関するガイドライン」では、市町村が発令する「警戒レベル5緊急安全確保」を判断する材料となる「警戒レベル5相当情報」の一つとして大雨特別警報が分類されるなど、避難情報との関連性についても整理が進んできた。

 高潮特別警報が大雨特別警報と異なり「警戒レベル4相当情報」に位置づけられているとか、洪水警報はあるが洪水特別警報は存在しないなど、細部でまだ整理が必要と思われる面はある。しかし、防災気象情報としての基本的な意味や役割はこの10年でほぼ固まったように思う。大きく仕組みを見直すような必要性は低く、さらなる活用を図っていく段階ではなかろうか。

 特別警報の発表の有無だけに依存することは適切でない。昨年9月に台風15号に伴う大雨で県内では大きな被害が生じたが、大雨特別警報は発表されなかった。こうしたケースも珍しくない。さまざまな防災気象情報を合わせて活用していくことが必須である。

 特別警報に限らないが、過去の記録をベースとした「この防災気象情報が出た際には、このような被害が、この程度の割合で発生します」といった情報の整理がまだ十分進んでいない。「特別警報が出たから危険です」より「特別警報が出たときはこのような危険が生じています」の方が説得力があるのではなかろうか。こうした作業は地味ではあるが重要なことだ、という声を上げるとともに、自身でも取り組んでいきたいと考えている。

【note版追記】

 時期的に「関東大震災100年」の陰に隠れてあまり話題にならなかった感もありますが、特別警報が始まって10年の節目となりました。いくつか取材も受け、記事になったものもあるようです。

 特別警報が思った以上に急速に浸透したな、と感じていたのが5年目頃、最近では「あまりにもパワーワード化しすぎたなあ」という気持ちがあります。特別警報が出るのか、出ないのか。危険性の目安がそういったゼロかイチかという味方になっているように感じられ、懸念を持っているところです。なかなか解決策は無いのではありますが。

 個人的には、特別警報ができはじめた当時「これはいい情報だ、こういうものが必要だ、作るべき」なんて全く思っていませんでしたし、だからといってなにも変えるべきだと思っていたわけでも無いですが、まあその、いろいろと思いはあるわけですが、これだけ定着してしまったものは、もう止めることにメリットはないだろうなと思っています。

 そうであれば、特別警報とは何なのか、それが出るとどうなるのか、といった、情報の足腰をかためる作業に注力すべきかな、と思っています。上記コラムの後半に書いたのはそういう話です。気象庁でも部分的にそうした取組は始まっています。

 せっかくある情報ならば十分に活用したいものです。この情報が飽きられて、また「もっと強い情報を」なんて話にならないように・・・


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