誤解多い『内水氾濫』 既知の現象 冷静に議論
(2023年10月31日付静岡新聞「時評」欄への寄稿記事)
大雨に伴う現象の一つに「内水氾濫」がある。降った雨水が排水できなくなり、宅地や道路にあふれることを指す。河川の本流の水位が上昇し、支流の水が流れ込みにくくなって支流があふれることを指す場合もある。内水氾濫の対になる言葉が「外水氾濫」で、これは河川の堤防が決壊したり、堤防を越えて水があふれ出したりすることを指す。
内水氾濫は極めてありふれた現象である。外水氾濫以外はすべて内水氾濫であり、日常的に目にする「道路が冠水した」「低い所に水たまりができた」場合などはいずれも内水氾濫である。内水氾濫では家屋の流失や倒壊などは起きにくいが、雨の降り方や地形によっては家屋が水没するような深い浸水が生じたり、人や車が流されたりすることは十分あり得る。
内水氾濫は、河川と離れた場所で局所的に生じるようなこともあるが、相対的に低い場所が影響を受けやすいなど、起こることは基本的に外水氾濫と変わらない。そもそも個々の現場において内水氾濫と外水氾濫を区別することなど困難であり、被害を受ける側にとってはいずれも「水につかる、流される」ことであるのに変わりはない。
内水氾濫は河川に関わる人には日常語だが、一般的にはあまり聞き慣れない言葉ではなかろうか。このためもあってか、風水害時に「今回の災害は内水氾濫と呼ばれる現象によるものだった」などという話がニュースになり、ありふれた現象があたかも「最近発見された未解明で恐ろしい現象」かのように受け止められ、新たに特別な対策を取るべきかのような見当外れな議論が始まってしまう、といった光景を目にすることがある。「内水氾濫が起きた」から災害になったのではなく、「大雨が降った」から災害になったのである。
内水氾濫はありふれた現象であるが故に、当然関連する対策はさまざま積み重ねられているし、外水氾濫への対策は多くの場合、内水氾濫の軽減にも寄与している。無論対策は万全などということはないが、一から構築しなければならないような状況でもない。
災害関連に限った話ではないだろうが、耳慣れない言葉に接した際、それが「最近発見された未解明・未対策の現象」なのか否かをよく見極め、冷静な議論をしていかなければと考えている。
【note版追記】
10月の静岡新聞寄稿記事、noteに上げておくのを忘れていました。あまり余裕がないので追記は簡単にしますが、災害に関わる専門的な言葉については、丁寧に扱わねばならないなと思っているところです。冒頭写真は2006年10月の大雨で内水氾濫が見られた岩手県久慈市内の様子です。
記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。