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2023年7月15日の大雨による被災地現地踏査


秋田県五城目町大川西野田屋下

 7月20日に現地踏査。車が洪水に流され、運転していた方が亡くなったと見られる現場付近。なお現場付近は地名がやや複雑に入り組んでいるところですが、ここでは車が発見された場所の地名を挙げています。
 流された車は、この道路を通行していた可能性が考えられます。撮影箇所付近は浸水痕跡が不明瞭ですが、撮影位置の最も近い道路両側に街路樹があるあたりから浸水痕跡が見られ、ピーク時にはこのあたりから先は浸水していたものと思われます。写真中央付近では道路面から1.2~1.3m程度のところに浸水痕跡があり、撮影箇所からは緩い下り坂となっています。

 同じ道路を反対側から。撮影場所付近も浸水痕跡は不明瞭ですが、付近の浸水痕跡からピーク時には横断歩道あたりから先が浸水していたように思われます。やはり緩い下り坂で、どちらの方向から進入したとしても初めはさほどの浸水でなかったものが段々深くなっていったという状況と思われます。

 流された車の付近を道路側から。写真中央付近に見えます。現地での簡易計測と空中写真や地理院地図から判読すると、車はこの撮影箇所からはおよそ125mほど先、道路面からの比高は2mほど低いところにあると思われます。
 なお、この道路から流されたことが確認されているわけではないので、写真左手の馬場目川堤防上の細い道を通行しようとして転落した可能性もあるかと思います。堤防上はやや不明瞭ではありましたが、洪水が流れた痕跡らしきものもありました。

 こうした、緩い下り坂の箇所で車が洪水に流された犠牲者が出たと見られるケースは過去に繰り返し発生しています。数年前に書いた記事ですが参考まで。

 今年7月1日の山口県内の大雨でも類似のケースがありました。

 なお当日の調査風景がNHKで報道され、Web記事にもなっています。

秋田県五城目町内川湯ノ又金ケ沢

 今回の秋田の被災箇所を見て改めて痛感したことは、「(洪水・土砂災害に対して)とにかく地形は効く」ということです。たとえばメディアがよく報じた五城目町の内川川氾濫箇所(五城目町内川湯ノ又金ケ沢)付近の遠景がこちら。川があふれ浸水被害が出たのは写真右側の川沿いの低地ですが、その左側には明瞭な台地がみられ、台地上に大きな被害はありません(調査当日はまだ一帯が断水してましたので被害無しということはないですが)。

 この付近を地理院地図から地形断面図を作成すると低地面から比高約3mほどの台地面が読み取れます。この高低差が被害の有無を分けています。なにも不思議なことは起こっておらず、「災害が起こらないような場所で被害が出ている」訳ではありません。

秋田市楢山大元町

 「とにかく地形は効く」ということは、深い浸水が見られたという秋田市楢山大元町を見ても感じました。

 同地区では自分で測っても、道路面から2.5m程度の高さまで浸水した痕跡が見られました。

 地理院地図の「自分で作る色別標高図」機能を使って0.5m間隔で色を塗り分けた色別標高図を作成してみるとこのようになります。同地区で浸水の深かったところは、浸水の影響がほぼ見られなかった周囲に対して比高が2m以上低くなっていることがわかります。

 この場所は、地理院地図からだと1960年代の空中写真を見ることができますが、それによると当時はまだ環状になっている道の周辺には家屋がそれほど建っていなかったことが読み取れます。

 国土地理院のサイトで探すとこの場所は1948年撮影の空中写真もあり、それと見比べると、環状になっている道のあたりは1948年には川であり、その周囲に家屋はほとんど無かったように思われます。ここが旧河道であることは地形分類図にも示され、見慣れていれば1960年代の空中写真からも明白ですが、「旧」とはいってもかなり新しい(わずか数十年前の)旧河道であることがわかります。

国土地理院空中写真に牛山加筆

 こうした場所は、洪水に対する危険性がひときわ高いのですが、それが一般的な「常識」とは言えないでしょうね。もっとも、こんなことを災害後に賢しらに語ってもどうなんだろう、という気持ちは常にあります・・・

 ところで、「自分で作る色別標高図」は要注意な機能で、これをハザードマップ代わりに使ってはダメだと筆者は強く思っています。これについては別途記事にします。


記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。