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警戒レベル5「緊急安全確保」 意味に応じた運用を

(2021年10月06日付静岡新聞への寄稿記事。上記画像は内閣府「避難情報に関するガイドライン 令和3年5月」より)

 今年5月に内閣府「避難情報に関するガイドライン」が改定され、警戒レベル5の情報名称が「緊急安全確保」となった。避難情報の警戒レベルは、2019年のガイドライン改定時に導入された概念で、導入時に「災害発生情報」だった名称が、緊急安全確保に変わったものである。

 警戒レベル5緊急安全確保は、洪水・土砂・高潮などによる災害が発生または切迫(ほぼ確実に起こりそうな状況)し、今いる場所から避難場所等へ移動する(立退き避難)ことがかえって危険な状況になった際に発令しうる情報である。もはや立退き避難は推奨できない段階で、ベストな方法とは言えないが次善の行動として今いる場で少しでも安全確保を図るように行動を変えることを呼びかけるものである。

 「緊急安全確保」の名称を議論した際、「立退き避難を呼びかける情報」と誤認されないように、「避難」に類する単語は用いない事が配慮された。「緊急安全確保」が「避難指示より更に強く避難場所への避難を呼びかける情報」のように受け止められてしまっては、警戒レベル4避難指示の軽視につながりかねないことも懸念された。

 災害時には市町村が災害の発生・切迫を的確に把握できない事も考えられるため、「必ず発令される情報ではない」こともガイドラインには明記してある。したがって「災害が発生したのに即時に緊急安全確保を発令しなかった」と事後的に批判することは適切でない。また、立退き避難を呼びかける情報ではないのだから、「緊急安全確保が出たのに避難所に避難した人が少なかった」といった見方も見当外れだろう。

 緊急安全確保は災害発生またはほぼ確実な発生が見込まれる状況下で出すもので、「災害のおそれがある」程度で出すべきものではない。災害発生のおそれが高まった地域に立退き避難などを呼びかける情報は警戒レベル4避難指示である。

 避難指示を出すべき状況下で、「念のため」緊急安全確保を出すようなことは、「避難指示は軽い情報であり緊急安全確保になって動けばよい」といった不適切な理解につながるのではと懸念される。避難情報にはそれぞれ意味があり、その意味に応じた的確な運用が行われることが望まれる。

【note版追記】

 きちんと調べたわけではないので、なんとなくのイメージですが、今夏の各地での大雨の際に、「緊急安全確保」が、本来の意味に対してやや濫発気味に出たのでは、という印象があったため、そもそも「緊急安全確保とは」について、自分の見方をまず整理する意味で書いたものです。情報の「受け手」というよりは、「送り手」の視点からの内容になったかもしれません。

 なお、もし「緊急安全確保」の運用に課題があるのだとしても、「わかりにくいから改定」という方向は極力避けるべきと思います。災害情報に関する名称いじり、制度いじりは、本当にもういい加減にすべきだと考えています。無論、現在のものが最良なのだから手をつけるな、という話ではありません。名称や制度を変えることには多大な手間がかかるのですから、その手間に見合うものなのか、よくよく考えるべきでは、という話です。制度いじりよりはまず普及と活用だと思います。これについては、7月の「時評」寄稿記事にも書きました。

 静岡新聞「時評」欄へ寄稿した過去記事については下記にまとめています。


記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。