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『緊急安全確保』の意味  避難所より次善の行動

(2022年11月23日付静岡新聞「時評」欄への寄稿記事

 災害時に市町村が出す避難情報には、「警戒レベル3 高齢者等避難」、「警戒レベル4 避難指示」、「警戒レベル5 緊急安全確保」の3段階があり、そのうち災害が既に発生または切迫した際(発生直前あるいは未確認だが発生の可能性が極めて高い状況)に発令できる情報が「緊急安全確保」である。9月の県内での豪雨時にも浜松市などで発令された。

 緊急安全確保は、2019年3月の内閣府「避難情報に関するガイドライン」改定で新設された「警戒レベル5 災害発生情報」が、さらに2021年5月の改定で改称された比較的新しい避難情報である。

 避難行動にはいくつかの形態があり、洪水浸水想定区域や土砂災害警戒区域など災害の危険性がある場所を離れ、指定緊急避難場所や安全な場所にある親戚・知人宅などに移動することは「立退き避難」と呼ばれる。高齢者等避難や避難指示で呼びかけられる行動は基本的にこの立退き避難である。

 一方、緊急安全確保の発令時は、もはや立退き避難は勧められない状況だ。最善ではないかもしれないが、今いる場所の周辺で少しでも安全性が確保できそうな場所に身を寄せるなど、いわば次善の行動が呼びかけられる。例えば、洪水や土石流など「流れるもの」は低いところに向かって流れるので、そうした危険性がある場所にいるなら少しでも高い場所に移動し、崖崩れの危険性がある場所ならば崖から少しでも離れる-ことなどが考えられる。

 あえて強く言えば、緊急安全確保とは「立退き避難はもう止めて、その場で少しでも安全確保を図れ」という情報だろう。5段階の一番上にあるからといって「緊急に避難所へ駆け込め」とか「立退き避難を強く呼びかける」という意味の情報ではない。「緊急安全確保ではないからまだ大丈夫」とか「緊急安全確保が出たら避難しよう」などという考え方は論外である。また、たとえ避難や何らかの支援の目的だとしても、緊急安全確保が出ている中を車や徒歩で移動するといった行為は極力避けるべきだろう。

 風水害犠牲者の約半数は屋外で遭難している。風雨が激しくなった際の無理な行動の抑制を呼びかける意味でも、緊急安全確保という情報の活用が望まれる。

※冒頭画像は内閣府ホームページより


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