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性の目覚めとウルヴァリン

冬感強めの朝起きたときのあの感じ。毛布からはみ出た己の四肢が感じる冷たい室温と新潟らしい低気圧がもたらす片頭痛とのどの違和感。
だるいぜまったく、やれやれだぜ。
そう脳内で反復する自分のつぶやきは反響するうちに音となって意味を帯びる。

こんな有名な格言がある。
”思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。
言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから。
行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。
習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから。
性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから。”

気が付くと俺は会社に体調不良ゆえの休暇取得の連絡を行い、エアコンに22度にしとけ、とギアス発動して2度寝からの3度寝をぶっかまして11時過ぎにカッ!と目が覚め世界に「おはよー!」と元気いっぱいに声をかけて飛び跳ねた。
思考は言語となり行動を生み俺は会社を休んだ。
あとはこれが習慣にならぬように心がけるのみですな!と笑いながら最高の体調不良を満喫した。
言い訳に聞こえるかもしれないが朝頭痛かったのはマジだから。
そんなきっかけは俺の心の悪魔にとっては最高のエサになり気付いた時にはもう俺の正しき心は白目向いて気絶して意識が飛び、会社を休みぬくぬくと寝続ける物体と化していた。
恐ろしいこともあるものだ。気を付けなければなりませんな!

最近の僕ときたらヒゲを放置している。
このコロナ時代、半永久的にマスク生活をしている中で剃らなくてもよくない?と考え始めてほったらかしてみた。
というのは割と建前で正直言うとイケてる感じになるのでは?と期待していたのだ。
もういい年だしそろそろ俺も野性味あふれる、そしてもはや危うさすら感じてしまうほどの性的魅力がヒゲによって俺にもたらされるのでは?と夢を見たのだ。
最終的には町ですれ違う人々が口々に(ウルヴァリン?)と噂するような男を目指して。

「なんだお前、わざとヒゲ生やしてるんか」
可愛い次男坊の俺の顔を見た瞬間、半笑いで母は俺に言い放った。
母の言い方には「なんだお前、(それがかっこいいと思って)わざとヒゲ生やしてるんか」というニュアンスが含まれていた。
それを聞いた瞬間に俺の心の中でなんだか恥ずかしい気持ちと「あんたにはわかんないんだよ俺の気持ちなんて!」という怒りで瞳孔が開いた。
もし先述した格言に沿うならばその言葉をもし口にしていたら俺は憧れのウルヴァリンとなって爪で母親をシャシャシャシャッ!と八つ裂きにしていたかもしれない。

そんな気持ちになってふと懐かしさを感じた。
親という生物のデリカシーの無さに久々に触れた感じがしたのだ。
子がいつか親を離れるように男の子はいつの日か自分なりのカッコよさに目覚める日が来るものだ。
そしてその変化を親に悟られたくなかったりする。
要するに親に「お、色気づいてきたなこいつ」とバレたくない。
「性に目覚めた」ということを親に悟られたくない、という繊細で祈りにも似た思いをずっと心の中に持ちながら大人になっていったのだ。
思い返せば伝えることに勇気が必要だった分岐点が多くあった。

パンツをブリーフじゃなくてトランクスにしてくれないか、と伝えた日があった。
髪型に関してもう刈り上げは嫌だと泣いた日もあった。
「もうお風呂は一人で入る」と母を通して父に伝えてもらった夜もあった。
靴ももうスポルディングのいかついメッシュ効いた速く走れそうな靴じゃなくてアディダスとかナイキを履いていきたいよ、と震えながら懇願したりもした。

そんな諸々のタイミングで俺は常に少し怯えていた。
思春期手前の淡い性への目覚めに対して親が「なになに、好きな女でもできたん?女に興味出てきた?もてたいん?毛とか生えた?」と聞いてきたら俺は顔を真っ赤にして「違う!」と叫んで一生陽の届かない地下室でぶつぶつ「違う、違う違う……」と言いながら暮らすことになっていたかもしれない。
それくらい子どものころの俺はガラス細工だったのだ。

すでに親となった方、これから親になる方、もはや大部分の国民にお願いしたい。
人のファッション上におけるチャレンジに対して「あっ」と思っても心の中で留めておいてくれないだろうか。
世の中自分のオシャレのセンスに関して本気で信じ込める人というのはそう多くないはずで、いつだって一歩踏み込んだオシャレを行ったときは他人からどう思われるかビクついている人種というのが存在する。
そんな人種のオシャレチャレンジを何とか見逃してほしい。
今後俺が曇天の新潟で常にサングラスかけていてもハットとステッキ持って農道を歩いていたとしても剣に竜が巻き付いてこちらを睨んでいるネックレスや変なフォントの英語がいっぱい書かれたTシャツを着ていても何も言わないでくれたまえ。
いや、むしろ本当に俺のことを思ってくれるなら言ってくれたほうが良いような気もしてきたが。

俺のヒゲに関してだが俺の思ってた感じに生えないことに薄々気が付いてきた。
何かあごヒゲというより首毛って感じに育毛されてきて俺のそこらへんの毛根バグってんなって気付き始めた。
しかもまるで塩をまかれたカルタゴのように一切ヒゲの生えない10円ハゲエリアまである。
どうやら俺はウルヴァリンにはなれないらしい。

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