フォーエバーヤング

年を重ねるごとに青春というものが輝かしく見えてくる。
大人はみんな青春が大好きでいつまでも振り返ってその姿を確認してしまう。
きっと誰しもが青春に後悔があるのだろう。
それ故にあの頃自分に実際起きたことや学園モノのドラマアニメ映画すべてごちゃ混ぜにしてあり得たかもしれない自分の姿をどこかに探している。
可能性だけはどんな人にもあり得た時代を青春とくくって一生爽やかな後悔と「もしかしたら」の続きをほのかに夢見て憧れ続けてしまう、そんな病気なんだろうか。

少し前のnoteで中学時代に恋をした女の子の話を書いたが、そこからふとその娘が以前働いていたラーメン屋に行こうかな、と考えた。
フラレた男が勤務先にいきなりヌッと現れたらワンチャン爆サイに本名ごと晒しあげられかねないストーキング行為だがもうフラレて15年の月日が流れ刑事事件としてはすでに時効だし働いていたところに偶然出くわしたのももう10年も前の話だ。
さすがにもう働いてないだろう、と思っていたが心の何処かでは「いたらどうしよう」と変な期待と恐怖が混じった気持ちでいた。

やっぱり俺も年を取って何か俺の青春のかけらを感じ取りたくなってしまったのかもしれない。
クレヨンしんちゃんの映画で風間くんが言っていた、
「懐かしいってそんなに良いものなのかな」
という言葉が身に沁みて響く。
こんな俺でも人生を振り返るとそこに誰かと関わり合った思い出があるということが昔の話になればなるほど美しく見えてしまう。
風間くん、懐かしいって良いものなんだよ悔しいけど。
何より今実家に帰省して近いしGoogleレビューもそこそこだったし腹減ってるし行くか、と車でラーメン屋に向かった。

午後2時過ぎに到着し、一番の推しだという塩ラーメンの食券を買って店の中に入った瞬間、あ!めちゃめちゃあの娘いるんだが!と完全にカウンター奥で完全にラーメン作ってる完全にあの娘を見つけて心臓がツインペダルでドコドコ鳴りはじめた。
実に10年以上ぶりに姿を見て髪はタオルを巻いて口元にマスクを着けた姿だったが一瞬でわかった。
それはこちら側が心のどこかで意識していたからだが。
一人客用のカウンターはあの娘がラーメンを作ってる厨房のド真ん前で距離として2mほど。
もうYOSHIKIよろしく失神寸前に緊張した。
俺はマスクを鼻までしっかりと装着し虫を目で追うカエルのようにキョドって顔が残像だけ残して動いていたためあちらに気付かれてはいない。

ここで全集中・糖尿病の呼吸で落ち着きを取り戻す。
なるべくあの娘を見ないようにしながらもトムソンガゼルなどサバンナに住む草食動物が持つ180度に近い視野を呼吸法で手に入れた俺はチラ見しまくっちゃう。
顔は目元しか見えないがやっぱりあの頃と変わってないように見えた。
でも何だかすっごいガリガリじゃない?
こんなガリガリだったっけ?苦労してるのかしら……。

ここで一つの考えが頭をよぎる。

……ワンチャン話しかけてみるか?

ここからはもう脳内でギャルゲー的なシミュレーションで会話の選択肢が現れた。

A
突然今気づきました感出して「あれ!え!もしかして〇〇さん!?ヤバ!!」とはしゃぐ

B
わざとらしくジッと凝視して目が合ったら「……もしかして〇〇さん?覚えてる?俺だけど」と紳士かつねっとりと

C
バレないようにチラ見を続けてニヤつく

どれだろう。悩む。
この選択肢によって何かまた今後の恋模様に発展!とかそういうものを望んでるわけではない。
そんな気持ちを持つ余裕すら無かったしなんてったってあの娘は当時空手の有段者で全国大会に出てたし地元のやべえパイセンと繋がり深くて怖えしお子様ももう多分10歳くらいになってるママであられまして黄昏流星群的な「もう一度あの頃の恋を」という感じにはなれなかった。
俺が先輩から譲り受けたバカシブいセルシオ転がして駅南ドンキに毎週とりま集合すっから!っていう男になった際にやっと異性としてお近づきになれるレベルかもしれない。

結論、C!

カウンターでラーメンを待ちながらチラチラ見て俺はマスクの裏側でニヤついていた。
なぜだか分からんがニヤつきが止まらん。
笑いが止まらなかった。
あの娘からすればトムソンガゼルの両目をしたマスク姿の男がこちらをチラ見しながら笑っているのだ。
その恐怖から地元のパイセン呼びかねない。
そんな事態の中、あの娘は黙々とラーメンを作っていた。
そして一瞬、仕事仲間と何か会話を交わして笑った。
その笑った目元だけ、俺は思いっきり目撃した。
15年ぶりくらいに見たあの娘の笑顔で何だかハッとする。
結局俺はあの娘の姿を通して俺の青春を見たかっただけなのかもしれない。
やっぱりあの娘の姿に俺の心のどこかにあった後悔を映して見てみたかっただけだったのか。

あの娘の作ったラーメンをただの客として味わって帰る

あり得たかもしれない続きはいくつもあっただろうあの娘との青春が現実の結果として導いたこの答えは、恐らく最高の選択肢だったんだと勝手に自己陶酔に近い納得をして俺の青春は一つ、その時姿を消した。

塩ラーメンを食べ終え、スッキリとした面持ちで席を立ちお会計しようとレジをあれ?あれ?と8秒くらい探したあと、あ、食券制だったわ、と気付きクソ恥ずかしくて逆に大きな声で「ごちそうさまでした!」と言って店を出た。

タバコにむせながらどんよりとし始めた新潟の国道を走って帰る。
またいつか思い出せる一日が出来た。
良い日だったなぁとまた勝手に笑っていた。

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