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小説のつづき Part 2 2

ユミがオーディションを受けたサニーミュージックは、かつて音楽業界の挑戦者だった。
日本で最後のエレクトロニクスメーカーとアメリカのメジャーレーベルが手を結んで日本の音楽シーンに満を持して登場した。
発売するレコードは音楽業界を席巻し、やがてCD開発メーカーの優位を活かし絶頂へと登り詰める。
しかし今、その面影はどこにもない。

音楽に造詣の深かった社長が退任してからは、ますますそのシェアーを落としてゆく。今では、優秀なスタッフはゲーム部門へと移り、会社も国内音楽市場への興味を完全に失っていた。

得意だった携帯音楽プレイヤーもデジタル配信への変化を見誤り後塵を拝していた。

こんなにも音楽が溢れていても、かつての音楽の時代ではなかった。

「黒木君、これ以上予算は出せない。君のやりたいことは分かる。しかし、役員会の判断はノーだよ」


「部長!その金額では経費を切り詰めても4月までしか持ちません。彼らの契約は一年です。どうするんですか!」


「じゃあ、4月までに結果を出すんだな。パイロット盤も作ってやる。ただ、パブリシティは自分たちでやれ。本社はそれには関われない」

好きな音楽を自由にプロデュースしたい。その思いでサニーに残った黒木に容赦なく重圧がのしかかる。

黒木は来週の予定を早め、河口湖の別荘へ急いだ。
彼らの仕上がり具合に関係なくスケジュールを前倒しに組み直さなくてはならない。
ユミにはさらに大きな負担をかけることになる。

少し古びたボルボのウインドウ越しに、初めて会った時の彼女の顔がふと思い出された。
懸命に音楽について語る彼女の表情が。

                             つづく