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スピーカーが正十二面体だと何がうれしいのか

3Dプリンターで正多面体スピーカーを作製した例を探していたところ、2015年のIOA年会でポスター発表したものと思しきAndrew Steele氏の報告を見つけました。

https://www.researchgate.net/publication/283072132_Development_of_a_3d-Printed_Dodecahedron_Loudspeaker_for_Improved_Omni-directional_Sound_Radiation

海外の学会のポスター発表は、42インチくらいのモニターを使って一定時間ごとに演者入れ替えでやったりするので、このような横長資料なんですよね。私は2018年AAPS年会のポスター発表のときに経験しました。

さて、この報告では、「500Hz以上の音域では正十二面体スピーカーは全指向性(omni-directional)ではない」という前提から始めています。全指向性でないと何がイヤかと言うと、全指向性スピーカーを音源として使用することが規定されているISO 3382-1(部屋の残響時間などを測定するための国際標準規格)で、測定誤差を生む原因となってしまうからです。

この測定誤差は、Polar plotで指向性を視覚化したときのギザギザ感(Acoustic lobing)として知られています。Steele氏は、この指向性のばらつき(Deviation of directivity)を改善する目的でドライバにウェーブガイドを導入した結果を報告しています。

ここでの学びは、「正多面体スピーカーの性能は、どの程度の広い帯域(高音域)で、どの程度指向性のばらつきを小さく抑えられたか」で評価できるということです。この評価のためには残響室か無響室が必要で、県の工業技術センターなどに相談するのがいいように思います。今すぐではありませんが検討したいと思います。

ウェーブガイドによる指向性改善という考えをサポートする他の報告もご紹介しましょう。Questedら(2014)は正十二面体を含めた全5種の正多面体スピーカーをモデル化し、多面体の直径やドライバ位置が、主に1000Hz以上の中高音域の出力の指向性パターンにどのような影響を及ぼすのか予想しています。さらに、それらを実測値と比較しています。

ここでは、正四面体、正六面体、正八面体、正十二面体そして正二十面体のうち、正十二面体が最も広い帯域で指向係数(Directivity factor)を低く抑えられること、そして、多面体の各面から見たドライバ開口角度は17°よりは31°のほうが、指向係数をより低く抑えられることが示されています。

具体的には、指向係数1.25以下となる最大の周波数は、正六面体(立方体)が1.9kHz、正二十面体が1.2kHzなのに対して、正十二面体は3.4kHzとされています(多面体半径が225mmのとき)。より高音域まで全指向性であるということですね。

開口角度というのは、多面体の面に対してどの程度内側にドライバが設置されているかを示すもので、度数が高いほど内側です。面に対してドライバが奥まった位置にある以上、そこにはウェーブガイドが必要でしょう。

近年、VituixCADを用いてスピノラマを測定している方々に、ウェーブガイドのシミュレーションや実装に取り組む傾向があるのを感じていましたが、少し納得できました。指向係数が低いスピーカーが良いスピーカーだ、という思想があるのですね。これは通常の直方体スピーカーにも正多面体スピーカーにも共通する方針なのだと思います。


スピーカーを自作するときの評価基準には、箱サイズ、振幅f特のフラットさ、最低音域の低さ、歪み率、ネットワークのつながりの良さ、群遅延などが挙げられています。ここに指向係数の低さが加えられることを今回学びました。

また、正十二面体スピーカーに求められるドライバの条件というものも少しずつ見えてきた気がします。そろそろ複数のドライバを調達して、3Dプリンターで試作しつつ方向性を調整したいです。

次回は「正十二面体スピーカーに求められるドライバの条件」についてまとめてみます。どうぞお楽しみに。


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