多国籍手つなぎ

バイリンガルとは何か?

バイリンガルとは文字通り、二言語を操ることができる人のことだと、以前は短絡的に思っていました。大学・大学院以降、渡米した人はバイリンガルなのか?という疑問に関しては、当時わたしのなかではNOで、どちらかというと、幼いころから外国にわたり、母国語と外国語の両方を学び、その結果バイリンガルが生まれる、というイメージでした。つまり帰国子女組がバイリンガルになる可能性がある、と思っていたんです。

けれども、それ以降、考えはグラグラぐらつきます。

それはひとつには、大学院以降渡米しているパートナーの英語力の上達によって。

彼は、留学当初、英語がまったくおぼつきませんでした。これは当たり前の話なんですが、難易度の高いTOEFLの合格点をクリアして(わたしから見れば)立派に、正々堂々と真正面からアメリカに渡った様子を見ていると英語の能力ははるか高くにあるように感じていたので、意外でした、少なくともわたしにとっては。

それをあらわすエピソードをひとつ紹介。わたしが娘を妊娠し、後発で渡米して一緒にアメリカの病院に行ったとき、看護師さんが「Urine,please」といいました。わたしは何を言われているか、まったくわからなかった。聞き取れもしなかった(聞き取れていたとしてもその英単語を知らないからわからなかったんだけど)。隣にいた彼も、はてな?という顔をしていた。

そのあと、看護師さんは、ややいらついた様子で、「ピーピー」といいました。その単語も、ふたりしてまったくわからなかった。

看護師さんの様子からして、難しい言葉を言っているのではない様子。

そののち、ピーピーとは、英語の幼稚語で「おしっこ」のことであり、Urineとは「尿」のことであると気付くわけですが。

と、このように彼は、わたしよりはるか高みの英語力を有しているようにみえたけれども、どうもそれは幻想で、TOEFLの点数がどれだけ高かろうが、それはバイリンガルの力を保証するには遠く及ばないと知りました。だって、病院で交わされる一般的英単語さえ知らないんだから。

言わずもがな、ですが、彼は自分の専門分野に関する英単語の蓄積はどんどん多くなるけれども、日常使う英語に関しては、決して多くなるわけではなかったのだと今ならわかります。

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