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その名はカフカ IV

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長編小説『その名はカフカ』収納箱その④です、その③はこちら→https://note.com/dinor1980/m/m036e5e244740
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その名はカフカ Modulace 1

その名はカフカ Prolog その名はカフカ 第一部第一話 その名はカフカ 第二部第一話 その名はカフカ 第三部第一話 その名はカフカ 第三部最終話 2014年9月リュブリャーナ  三ヶ月ほど前から急激に従業員が減り始めた組織の建物の中は閑散としていた。長年使い続けた本拠地を失うのは惜しかったが、こんな大きな建物を保てるほどの経済力は、今のイリヤの組織にはない。イリヤはため息と共に煙を吐き出すとタバコの火を揉み消し、別室に待たせてある来客の元へ向かうべく重い腰を上げ、自室

その名はカフカ Modulace 6

その名はカフカ Modulace 5 2014年11月ウィーン  秋のウィーンが好きだ。そんな言葉がプラハからウィーンまでの直行列車を降りたレンカの頭に浮かんだが、瞬時に「春でも夏でも冬でも自分はウィーンが好きだけど」と言葉をつけ足して、人々が行き交うプラットフォームを眺めた。  プラハにはもちろん愛着があるが、ウィーンに来るとプラハでは味わえない解放された空気を堪能できる、とレンカは常々思う。レンカがプラハに住み始めたのは大学に進学した十九の時で、あと四年ほど経てばプラ

その名はカフカ Modulace 14

その名はカフカ Modulace 13 2014年11月エゲル  エゲルと言えばワインだろう、買い出しは任せてくれ、と言って自転車で街へ飛び出していったペーテルを待ちながら、エミルは以前はIT技術者の研修所だったという無機質な建物の一室で仕事をしていた。  二日前、レンカとアダムはオーストリアへ向かったが、エミルはレンカに「カーロイの指示に従うように」と言われ、一人ブダペストへ車を走らせた。そしてブダペストでカーロイから受けた最初の指示は「ペーテルを連れてエゲルへ向かうこ

その名はカフカ Modulace 22

その名はカフカ Modulace 21 2014年12月ブルノ  ハルトマン病院長とレンカの契約更新のための会議は2006年以来、毎年六月の第一日曜日に、会場は病院内の会議室ではなく、病院長の自宅で行われていた。妻に先立たれ、子供たちも独立した後は病院の近くに構えていた邸宅が無駄に大きく感じられて、今は街はずれに以前の邸宅の半分ほどの規模で、庭が敷地の七割を占める家に一人で住んでいる。それでも人の出入りが多い家だが、レンカとの会議の際には庭先に配置している警備員以外は誰も

『その名はカフカ』Modulaceに関するあまり長くない追記

 本記事は先日連載を終了しました『その名はカフカ』の第四部Modulace(転調の意)の解説記事です。  今年二月から約二ヶ月間に渡って連載しました全22話を納めたマガジンはこちらです↓  これまでの解説記事よりは長くならないはず……と思いながら書き始めましたので、連載をお読みくださった方にサラッとお付き合いいただければ幸いです。  本記事で「その名はカフカって、何?」と思われた方はこちらからどうぞ↓ 執筆の速度と投稿頻度 今回も第三部Disonance同様、書き始めて