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メジャーリーグのボールはなぜ滑る

こんにちは。アメリカで子供がリトルリーグで野球をしています。私自身は野球経験はほとんどありませんが子供と一緒にリトルリーグに携わることにより知り得た情報・知識をシェアさせていただきます。

リトルリーグ使用球

ご存知だと思いますがアメリカに軟式野球はありません。ですのでアメリカ人にとってベースボールと言えば硬式ボールを使ったもののことです。

まず最初にT-Ballというバッティングティーからボールを打ってゲームをすることから始めます。5~7歳ぐらいですかね。使うボールは中がゴム製で表面が合皮で出来ています。

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その次からは硬式ボールです。ボールのサイズと重量はメジャーリーグで使用しているボールと同じ9インチ5オンス。ただしリーグの年齢に拠ってボールの構造、材質、表面に使用している皮、縫い目の高さなどが異なります。単純に言うと年齢が低いリーグでは安全性のために反発係数の低い飛ばないボールを使い、年齢が上がるにしたがって反発係数が高い飛ぶボールを使います。

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ボールのメーカーはローリングスが一番有名ですが他だとウィルソン、ダイアモンド、AD STARRあたりがよく使われています。

リトルリーグでも滑るボールを使っている?

メジャーリーグのボールを滑りやすくしているのは表面の皮質と縫い目だと言われていますが、リトルリーグから高校生リーグまでは縫い目が高いレイズドシームボールを使っています。ローリングスのサイトにはレイズドシームは握りとコントロールを向上させると説明があります。また縫い目が高くなることで空気抵抗が増えボールが飛びにくくなります。実際にうちの子供が使っているリトルリーグのボールを試してみましたが表面はさらさらして滑りやすいですが縫い目が高いので投げにくさはありませんでした。

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毎年8月にペンシルバニア州ウィリアムズポートで開催されるリトルリーグのワールドシリーズでは日本チームはいつも好成績を収めています。日本チームが滑るボールに苦労しているという報道は聞いたことがないので問題ないのでしょう。

ボール断面図

幾つかのボールを写真付きで紹介します。

図1は最も安い練習用ボールの断面図です。表面は合皮または質の落ちる皮を使っていて中身は合成コルク。

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次の2つはどちらもリトルリーグのレギュラーシーズン用(RSグレード)のボール断面図です。図1がダイヤモンド社製、図2がローリングス社製。中身はコルクとゴムの合成素材に毛糸が周りに巻かれています。このボールは反発係数が低く、価格もトーナメント用のボールに比べて安いです。

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図4がリトルリーグのトーナメント用RS-Tグレード(レギュラーシーズン アンド トーナメント)のボール断面図。中心からコルク芯、黒ゴム、赤ゴム、毛糸、牛皮。基本的な構造はメジャーリーグのボールと同じですが使用されている材質、密度、サイズが異なります。

皮のグレードはプロ,A,B,C,D、毛糸のグレードも天然や化繊などあり値段は使われているグレードによって変わってきます。

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図5がメジャーリーグで使用しているボールの断面図。中心からコルク芯、黒ゴム、赤ゴム、毛糸、綿糸、牛皮。毛糸はグレイ、白、グレイの3層。牛皮はペンシルバニア州産のものを使用。

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図6がNPBで使用しているボールの断面図。基本的な構造はメジャーのものと同じですが各素材や厚さの違いが反発係数に違いを生むと考えられます。使われている日本産の牛皮はメジャーで使用されているものより手に馴染みやすく滑りにくいと言われています。

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ボールの価格

アメリカではボールを専用バケットに入れて持ち運びします。6ガロン容量があるのでかなりの数のボールが入ります。野球をやっている子供がいるほとんどの家庭はこのバケットを持っているのではないでしょうか。トスバッティングする時とかはこの上に座って出来る便利物です。

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Dick's Sporting Goodsはアメリカ最大手のスポーツ用品店でスポーツをしている子供を持つ親達にはお馴染みの店ですが、子供が野球を始めたらまずここで販売されている廉価なボールを買うことが多いように思います。表面が合皮のボール24個とバケットのセットが$49.99、日本円で約5400円。本革のボールだと$69.99、約7500円。

ボールだけですとアマゾンでローリングスの図2のRSタイプで1ダース$35 (¥3740)、図4のRSTタイプで1ダース$56.65(¥6055)。他のメーカーだともう少し安いです。

日本のリトルリーグ用硬式ボールの値段はネットで調べたところミズノのもので練習用がダース9000円台、試合用だとダース12000円台なのでアメリカのものよりかなり高いようです。ボールの質は良いと思いますが経済的負担が大きいですね。

NPBとメジャーリーグのボールの違い

ボールの大きさは9インチ5オンスと定められていますが、日本製はしっかりその基準で作っているのに対しアメリカのボールは許容誤差範囲の上限で作られるので直径で0.6cm, 重さで7グラム程差があります。

              直径       重量

      日本     22.9cm      141.7g

    アメリカ     23.5cm      148.8g

皮は日米とも牛皮を使っています。アメリカでは1974年までは馬の皮が使われていたがそれ以降は牛皮に変更されました。

縫い目(シーム)も日米では大きく異なり、特にピッチャーに大きく影響します。記事によってはアメリカのボールの縫い目は日本より高いので変化球が良く曲がるとありますが、私はアメリカのほうが縫い目は平たく幅が長いと思っています。

特にこの数年メジャーのボールはMLB機構からは何のアナウンスもなしに変更されている疑惑があり、その一つに縫い目を低くすることで空気抵抗を減らしてボールを飛ぶようにさせていると言われています。昨年ヤンキースの田中将大投手の決め球であるスプリッターが急に落ちなくなり長年やってきた握りを変更しないといけなくなったことがありましたが、田中投手はその原因は縫い目が低くなったせいだと言っていました。

同じくこの数年メジャーのピッチャーを悩ませているのがマメ(ブリスター)が前よりも出来やすくなった問題で原因は縫い目に使う糸が太くゴツくなったせいだと言われています。大谷選手もブリスターには悩まされていました。

左がMLBボール、右がNPBボール。縫い目の幅が長いのが一目瞭然。

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メジャーの滑るボールについてアメリカでどう議論されている?

まずアメリカ人はメジャーリーグのボールを滑るとは認識していないのでないかと思います。日本人選手は日本のボールと比べるのでメジャーのボールは滑ると感じますが、アメリカ人にとっては野球のボールとはこういうものだと思っているのでしょう。ただ最近はボールが以前よりも飛ぶことが問題になっており、その飛ぶボールの要因のひとつが縫い目を低くしたことかもしれません。特に2017年のワールドシリーズではバーランダーや他の投手がボールが急に変更され前より滑る(Slick)ようになったので特にスライダーを投げるのが難しかったと言って話題になりましたが、今はこのワールドシリーズはアストロズのサイン盗みで注目されボールの変更の話題はかき消されてしまいました。

そしてご存知のようにメジャーでは異物を指につけて投げるピッチャーはたくさんいます。元をたどればボールに唾をつけるスピットボールなんかは100年以上前からやっていましたし、もっと過激な隠し持ったやすりやベルトのバックルでボールを傷つけることで変化させるエメリーボールなんてのもあります。

松ヤニ等の異物をつけることは一応禁止されていますが実際は黙認されているようです。まあ全員とは言わないですが結構な数の選手がやっているということでしょう。去年は菊池遊星投手が帽子のつばに松ヤニをつけているのがバレていましたが審判や相手チームからのクレームはありませんでした。最近ではヒューストン・アストロズのピッチャー達がボールの回転数を上げるために異物を使用していたのではとMLBのお騒がせ者のトレバー・バウアーから疑惑を掛けられています。

メジャーリーグの選手達はボールが滑るから異物を使うのではなく、もともとボールとはこういうものだがグリップを強くしてスピンレートを上げコントロールを上げるために使うのだと思います。結果的に同じだと思われるかもしれませんが、出発点が違うのではないかと個人的には思っています。

それと日本のボールに関してですが、余程詳しい人でない限り日本では一回り小さくて滑りにくいボールを使っていることを知らないので比較の対象になることはありません。

余談ですが、日本では試合前にボールを砂もみしてワックスを落としますがメジャーでは専用のデラウェア川の泥でもむらしい。2013年の記事に上原投手がこの泥がかえってボールを滑らせてやっかいだとあったので興味を持って調べてみると思った以上に本当の泥でした。

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ジュースド・ボール問題

前述したようにメジャーリーグでボールに関してここ最近で一番の話題は飛ぶボール問題です。英語ではジュースド・ボールと言います。

2019年のホームラン数はナ・リーグとア・リーグの合計で6776本で過去最高でした。この数十年間のホームラン数を見てみると90年代後半のステロイド時代に急激に上昇して5000本台になるが2007年には4000本台に戻り、その後2010年代はずっと4000本台だったのが2016年に5616本、2017年は史上初の6000本台、2018年は少し下がり5585本、そして2019年に6776本となっている。

この急激なホームラン数の増加は悪名高い現MLBコミッショナーのロブ・マンフレッドの就任期と見事に一致しているので、彼の画策だとみている人が多いようです。アメリカでは近年野球人気が停下してきているのでホームラン数を増やして派手なゲームをすることで人気復興させようという魂胆なのではないかということらしい。

しかもMLBはローリングス社を2018年に買収しているのでボールの変更は思うがまま。

実際にボールを検証した記事も幾つかあり、その一つは2014-2015に使用されたグループAと2016-2017に使用されたグループBのボールをCTスキャンして調べてみたところグループBのボールは図5の赤ゴムの材質が密度が減り重量が減っていることを発見している。それに加えてシームが低くなりボールの空気抵抗が減ることでトータルで8.6フィート(2.6メーター)飛距離が伸びると結論付けている。

https://fivethirtyeight.com/features/juiced-baseballs/

他の記事では2016年以降縫い糸が太くなったことでボールをきつく締め付けることになり、その結果ボールが一回り小さくなり、バッターが打った後にボールが歪む率が減ることにより球体の形を維持することでボールの飛距離が伸びるのではと推測している。

https://theathletic.com/381544/2018/06/06/how-one-tiny-change-to-the-baseball-may-have-led-to-both-the-home-run-surge-and-the-rise-in-pitcher-blisters/

この件に関しMLB側は以前より製造技術が上がったことによりコルクをボールの中心に正確に位置することが可能になったことがボールの飛距離に影響している可能性はあるが、それ以外はボール製造に関して何の変更もしていないと説明している。ただし多くの現役プレーヤーはそれだけではないと考えているようだ。

おわりに

以上アメリカのリトルリーグとメジャーリーグで使われているボールと最近の問題について書きました。この記事が少しでもご参考になれば幸いです。

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