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日本の低反発バットとアメリカのBBCORバットは似て非なり

日本の高校野球で低反発バットが2024年から導入され、春の甲子園大会で本塁打数が激減したことが話題になりました。ただし低反発バットは他の国でも使われているので、日本だけの問題ではないと思われている方も多いと思います。しかし実状は日本とアメリカ及び他の国で使用されている低反発バットは別物なのです。この記事ではアメリカの高校で野球をする子供がいる親の目線からアメリカと日本の低反発バットの違いについて書いていきます。

アメリカ低反発バットについて


アメリカで低反発バットが導入されたのは大学野球が2011年、高校野球が2012年になります。導入の契機は日本と同様に、早い打球から野手、特に投手を守る安全性強化のためでした。

基準は皆さんご存知の通り金属バットのトランポリン効果を抑えて反発係数を木製バットとほぼ同じにしてあります。英語だと「Batted Ball Coefficient of Restitution」略してBBCOR(ビービ―コア)。今後この記事でもアメリカ低反発バットはBBCORと呼んでいきます。

低反発バットの長さ、重さ、直径

アメリカではバットの長さと重さの関係をドロップ何々で表します。

ドロップ数=長さ(インチ)ー 重さ(オンス)

例:
ドロップ10=30インチ:20オンス、31インチ:21オンス、32インチ:22オンス...

ドロップ5=30インチ:25オンス、31インチ:26オンス、32インチ:27オンス...

ドロップ3=30インチ:27オンス、31インチ:28オンス、32インチ:29オンス...

リトルリーグだとドロップ10などの軽くて振りやすい金属バットを使えますが、BBCORは長さ31インチ以上のドロップ3と決まっています。

直径は2 5/8 インチ(67cm)。

試合ではBBCOR認証ステッカーがついたもののみ使用可

導入後の反響


アメリカ大学と高校野球にBBCORが導入されてから数年後の記事を見ると、BBCORが学生野球を駄目にしたというものが相当数あり、現在日本での反響と非常に似ています。NCAA全米大学体育協会の野球リーグでは2010年の1試合当たりの本塁打数が0.94だったのがBBCOR導入後の2011年には0.52、2014年には0.39まで下がりましたその影響でNCAAは2015年にボールの縫い目を低くすることで空気抵抗を抑え飛距離が出るようにして投打のバランスを計り、その結果2015年の1試合当たり本塁打数は0.56に上昇しました。

中学生野球への導入


BBCORが中学生野球(年齢だと13U14U 日本でいうシニアやボーイズ)にいつから導入されたのかは不明ですが、去年14Uだったうちの子のチームが参加した9割以上のトーナメントはBBCORの使用が義務付けられ、ごくまれにUSSSAという飛ぶバット(通称違法バット)もしくは木製バットのみ使用可のトーナメントでした。ですので実質的にアメリカでは、リトルリーグを卒業した時点でBBCORに切り替えると言えます。

これはあくまで個人的感想ですが、中学生からBBCORに切り替わるのはタイミングとしては最適なのではと思われます。なぜなら中学生からフィールドのサイズ(ピッチャープレートからホームプレートの距離と塁間の距離)が大人と同じになるため、今までホームランになっていた当たりが外野フライになってもバットのせいなのかフィールドの大きさのせいなのか分からない。投手の球も距離が遠くなることで体感速度が遅くなりますがバットのスイングスピードも落ちているので良い塩梅となります。

最初の頃は重さに慣れるのに時間が掛かりますが、振り込んでいく間に段々慣れていき高校生になる頃には長打を打てるようになります。この年齢は成長期とも重なり、身体も大きくなるので重いバットに切り替えるには良いタイミングと言えるでしょう。

BBCORと木製バットの比較

こちらはいろんなバットを試し打ちするアメリカの野球系人気ユーチューバーThe Baseball Bat Brosの低反発バットと木製バットの打ち比べをしている動画。BBCORのほうが3マイル程打球速度が速い結果となっています。飛距離にすると約4.5メートル。BBCORより木製バットのほうが飛ぶのではないかと思われている方もいるようですが、アメリカの低反発バットBBCORは木製バットより飛ぶようです。ちなみにここで使用されている木製バットのドロップは2~3。


日本の低反発バットの特殊性

ここからはアメリカBBCORと日本の低反発バットの違いを説明します。前述したようにBBCORの重量はドロップ3(例33インチ30オンス)なのに対して、日本は最低900グラムとなっています。ドロップだと1.25に相当。最低900グラムというのは以前の金属バットの重量規格を踏襲しているのでしょう。

BBCOR vs. 日本規格低反発バットの重量比較

もっともポピュラーな長さ33インチ(84cm)で比較するとBBCORは850グラムなのに対し日本は50グラム重い900グラムになります。

重いバットの問題点

重いバットの何が問題かと言うとスイングスピードが遅くなり打球速度に影響することです。打球速度は飛距離に直結します

こちらは日本で最先端のテクノロジーとデータを駆使したトレーニング施設であるネクストベースさんの動画ですが、これに拠るとバットの重さが0.2キロ上がるとスイングスピードは3.6~7.2km下がるそうです。先ほどの例だとアメリカと日本の同じ長さの低反発バットは500グラム違いがあるのでスイングスピードは9~18km遅くなる計算になります。

こちらは大谷選手を含めた有名MLB選手が通うことで有名なドライブラインによる動画ですが、これに拠るとバットスピードが1マイル(1.6km)変わるごとに6フィート(1.8メートル)飛距離に影響するそうです。

結論としてバットが500グラム重くなりバットスピードが9~18km落ちると少なく見積もっても10メートル飛距離が落ちる計算になります。

MLB選手のバットサイズ

ここで参考までにMLB有名選手のバットのサイズを:

大谷翔平 86.4cm 893g
アーロンジャッジ 89cm 935g
マイクトラウト 85cm 921g
ムーキーベッツ 85cm 878g
ホセアルトゥーベ 84cm 878g

大谷選手でさえ900グラム以下のバットを使用していることから900グラムのバットというのがいかに重いか分かると思います。

日本の低反発バットは直径が細い?

低反発バットの直径はアメリカは67cmと決められていますが日本は64cmとなっています。バットは細いほど当てるのに技術が必要とされるので、この情報が確かなら日本の低反発バットはアメリカのものより重くて細い、パワーも技術も必要な仕様になっているようです。

まとめ

以上見てきたように、BBCORと日本の低反発バットは反発係数は同じですが重量と直径が異なり、それが打球速度及び飛距離に影響しているようです。要はアメリカの低反発バットBBCORの方が日本製に比べて軽いのでスイングスピードが上がるために飛距離が出るいうことです。しかも一般的に日本人はアメリカ人より小さい体格なので、重いバットの使用はより厳しいでしょう。

日本製の低反発バットより木製バットの方が飛ぶ理由も明白です。木製バットには重さ制限がないため軽いからです。日本の低反発バットはドロップ1.25に相当しますが木製バットだとドロップ2~3あたりになるので、スイングスピードが上がり飛距離が上がると考えられます。

飛ぶ順に並べると以下になるのではないでしょうか:
BBCOR>木製バット>日本規格低反発バット

これは全くの推測ですが日本で低反発バットの規定を決める際に、重量を下げてしまうと低反発にしたのにスイングスピードが上がってしまい、結果的に打球速度が落ちずに低反発にした意味がなくなってしまうのを危惧したのではないでしょうか。しかし、その結果とんでもなく飛ばないバットになってしまった、というところでしょうか。

日本の低反発バットが飛ばない他の理由として日本の野球用品メーカーは低反発バット開発に関してはまだ始めたばかりなので、基準を守ることに精一杯で飛びに特化したKnow Howを持っていないのかもしれません。アメリカでは各メーカーが値段が$100以下のものから$500以上のものまで複数モデル出しています。人気はLouisville Atlas, Marucci CATX, DeMarini Goodsあたりでしょうか。先にご紹介したThe Baseball Bat Brosの他の動画でいろいろなバットを試し打ちしていますが、おなじ低反発バットでも物により打球速度にはかなり違いがあります。今後日本の野球用品メーカーの低反発バット開発の技術が上がれば現在よりは飛ぶようになるかもしれません。

今後の展望

では今後どうすれば良いかと言うと、一番簡単なのはアメリカと同じ重量にすることですが、おそらくそう簡単にはいかないでしょう。そんなことをすれば選手達はまたバットを買いなおさなければならず、大問題になるのが目に見えています。

別案としてアメリカでやったようにボールを飛びやすくするという手もありますが、個人的にはやらないのではないかと思われます。とりあえず選手達が低反発バットに慣れてくれるのを祈りながら問題が沈静化するのを待つのではないでしょうか。

最後に

最後まで読んで頂きありがとうございました。出来るだけファクトベースでの内容を心掛けましたが、記事の後半は私論・推論も入っていることをご了承ください。






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