3.モラルハラスメント

「専業主婦って、昼間何するのー?」

仕事を辞めるとき、女友達に聞かれた。彼女にとっては恐らく純粋な疑問であり、他意は無かったと思う。けれど私は、蔑まれた気持ちになった。それは何より、その時の私が専業主婦の価値を見出すことに必死になっていたからであって、過剰反応、被害妄想と言われてしまえばそれまでだ。それまでだし、私自身、こんな風に言うのはカッコ悪いという気持ちがあるけれど、あえて言う。彼女の言葉は、私に対するモラルハラスメントだった。

「専業主婦 モラハラ」で検索すると、「モラハラ夫」という言葉がたくさん出てくる。私は、夫からモラハラを受けたことはない。結婚に際して私が退職することについては、今後の収入確保の方法、つまり家庭という「社会」をどのように守っていくかということを考えながらよく話し合って決めた。私たちの家庭の構成員である彼が、私たちの家庭を守っていく上での専業主婦の価値を認め、私が専業主婦になることを一緒に選択してくれたのだ。言い換えれば、彼は私たちの家庭の構成員だからこそ私が専業主婦になることの価値を理解できたのであり、私たちの家庭の外側にいる人にその価値を認めてもらうことは、場合によっては難しいかもしれないということだ。

そして実際、難しい場合が多いから、私は息苦しさを感じてきた。友達からの「すごい暇になるね~ww」とか「よう、ニート!」とか。ついには、職場の上司からの「その歳で仕事辞めるなんてもったいない」という言葉さえも、私には苦痛になっていた。何故私の選択を認めてくれないのかという気持ちになっていた。もちろん、発言者達に私を傷付けるような意図は無かったことは理解している。でもこれって、そんな風に感じてしまう自分を責めて、我慢して、それで終わりにしていい問題なのだろうか。

今や、専業主婦や専業主婦になりたいと思っている人は、マイノリティになりつつあると感じる。数自体は少なくないと思うし、専業主婦に憧れる若い世代が増えているという話を聞いたこともある。でも、経済社会の力がどんどん強まっているこの世界では、専業主婦の「社会」的マイノリティとしての側面は強まる一方だ。実際、私が専業主婦になることをはっきり「いいね」と言ったのは、夫以外では一人だけだったので、私個人の実感としては十分マイノリティだ。マイノリティだから守れ、などと言うつもりは無いけれど、マジョリティよりマイノリティが理解されにくいのは確かだと、身をもって知ってしまった。私は、周りの人々の言葉をモラルハラスメントだなんて思いたくなかったし、自分がマイノリティだなんて思いたくなかった。しかも私がモラルハラスメントと感じた言葉の大半は、同世代の女友達の言葉であり、一番理解して欲しいし理解してくれそうな相手を敵に回そうとしている自分を受け入れたくなかった。

それは何より、専業主婦になるという選択をした自分を、私自身が理解できていなかったからだと思う。私の息苦しさの元凶は、半分は周りの人で、もう半分は自分だった。自分の選択が少し理解できた今は、マイノリティであると感じている気持ちを冷静に受け止め、周りの人にそのことを伝えたいと思った。

どんな風に受け止められるのか不安で仕方ないが、とりあえず伝えたいことは書けたので、ここらでいったん筆を置こうかと思う。

つづく

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