オウンドメディアの企画を読者アンケートを使って洗練させるリサーチ方法

「自社メディアの発信内容がビジネスと連動していない」「掲載しているコンテンツが他のメディアとあまり変わらない」―オウンドメディアの運営は、活動の自由度こそ高いものの、事業活動から孤立したり、制約で個性を出しづらい難しさがあります。

加えて、編集部内においても、取りためている読者データや過去記事コンテンツをあまり活かせていない課題を持っていることが多く、足元の企画は進めていても、「過去の振り返り」「未来の見通し」をなかなか提示できないジレンマを持っています。

そこでおすすめしたいのが「オウンドメディアの読者アンケート」を実施する方法です。アンケートと言っても「読者プロフィール情報だけ」の状態を避け、独自カラーを追求しつ事業への貢献領域を見定めるには、質問方法を工夫する必要があります。

今回は「オウンドメディアの読者アンケート」の活用法を解説します。

※「オウンドメディア」の定義について、本来は自社サイト・メルマガ・SNSなど幅広い媒体・施策にまたがる概念ですが、本稿では話の対象をわかりやすくするため、代表格である「ブログタイプの記事コンテンツサイト」を想定して以下を説明します。

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▼ オウンドメディア読者アンケートの企画メリット


オウンドメディア読者アンケートの企画メリット
は、主に3つあります。

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①読者像を定義できる

オウンドメディアは、記事コンテンツを主体とする雑誌メディアと同じく、「ターゲットメディア」として常に一定の読者層を志向している必要があります。作り手の加齢や関心事の変化次第で安易に方向性が変化してしまっては読者が定着しません。

ウェブメディアで読者像を定義する場面では、ログ解析データから、あるいは本体事業に準じる形で「○○属性の人向け」というラベリングがされていることが多いように感じます。しかしこのままだと読者像の解像度は低く、軸を固定できません。

読者アンケートを使うと、自由度の高い質問項目を通じて、読者の価値観や志向性を知ることができ、そこからさらに「○○が好きな人向け」のように対象者に広がりのある世界観を追求することで、メディアの普遍性や独自性につながっていきます。

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②影響度を把握できる

オウンドメディアの運営では、対外向けに媒体資料を発行したり、社内向けに顧客属性を報告したりする機会があります。こうした資料のメインは、PVや誘導・拡散などのメディアパワーや、顧客構成のブランド力を訴求するする情報で成り立っています。

しかし、こうしたファクトデータで訴求要素を構成しようとすると、規模や実績でアピールするのが難しいことも多く、取り組み初期にはそもそも不可能です。かと言って、媒体を継続する限りは何もアピールできる成果が無いという状況は避けたいもの。

読者アンケートを使うと、(人の行動は社会生活の上に成り立っている原理を活かして)オウンドメディアが媒介することで読者のリアルの生活(行動・意識)とその周辺にいる人とのつながりにどのような影響を与えているかも追跡することができます。

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③企画を再生産できる

社内のメディア運営課題では、「テーマに関する記事をひと通り出しつくしてマンネリになっている」「ヒット記事が著名人インタビューやトレンドのハウツーなど限定的」「ビジネスに従属しすぎて読者ニーズに応えられていない」などが挙がります。

この状況を解消する糸口はとてもシンプルで、自社に合った「テーマ」と「書き手」を見つけることです。規定路線に安住していると行き詰まりや伸び悩みに至りやすく、新しい企画にチャレンジすることがメディアの認知や浸透につながっていきます。

読者アンケートを使うと、既存コンテンツにフィードバックを受けて企画を洗練させたり、新しいテーマや書き手を拡充していくヒントを得たり、読者が持っている知見や経験をコンテンツ化したり、企画を再生産する仕組みをつくり出すことができます。

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ここまで、オウンドメディアの読者アンケートの企画メリットを説明してきました。企画力や独自性を磨いていく観点では、デジタルツールによるページ検証だけでは限界があり、その先を目指すために、読者アンケートは可能性を広げる一手になります。

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▼ オウンドメディア読者アンケートのモデルケース

オウンドメディアの事業者が読者アンケートを行う流れは徐々に増えてきています。雑誌やフリーペーパーなどの紙媒体では既に普及しているやり方が、ウェブメディアでも媒体資料の作成や広告事業の展開に伴って実施される場面が増えている印象です。

ウェブメディアとしての評価は、デジタルデータで記事PVや読了率を参照したり、SNSでの記事拡散実績を参照することで検証可能です。それでも各メディアが徐々にユーザーアンケートを強化しはじめているのは、あえて実施する意義があるからです。

以下では、オウンドメディア読者アンケートで代表的な3つのモデルケースを解説します。

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▼ ①記事評価モデル

記事評価モデルは、「記事単位での読者印象評価の把握に使う」調査モデルです。公開してきたそれぞれの記事について、具体的にどの箇所がどういう理由で評価を得ているのか、ユーザーの仕事・趣味・生活に照らして把握するにはアンケートが便利です。

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<質問構成>
①[○○](メディア名称)に期待している情報をお選びください(複数回答)【期待する情報】
②これまでの[○○](メディア名称)の記事の中で、最もあなたの印象に残っている記事は何ですか(自由回答)【最も印象に残っている記事:記事名称】
③前問で最も印象に残っているとお答えになった記事について、その理由をお書きください(自由回答)【最も印象に残っている記事:選択理由】

核となる質問構成は、①期待する情報、②最も印象に残っている記事:記事名称、③最も印象に残っている記事:選択理由となります。

まず、①期待する情報の質問を通じて、読者がメディアに望んでいる役割を確認します。この質問の選択肢には、たとえば速報性・詳報性・地域性・特化性などに相当する要素を並べ、自社に期待をかけている対象読者の価値観や志向性を理解していきます。

次に、②③最も印象に残っている記事を「記事名称」と「選択理由」で確認します。評価対象を記事単位にすることによって、読者に優先想起される記事の構成要素を考察でき、そこから自社メディアならではの独自ポジションを検討することができます。

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ここでは、英会話教材大手のアルクが運営している英語学習の情報メディア「ENGLISH JOURNAL ONLINE」の読者アンケートの例を見てみましょう。

<ENGLISH JOURNAL ONLINE>メディア読者アンケート
①好きな記事 Q.好きな記事は?(連載A/連載B/連載C…)
②好きな理由 Q.好きな理由は?(面白い/情報量/執筆者…)
③記事の感想 Q.記事の感想は?(記事URL+フリーコメント)

「ENGLISH JOURNAL ONLINE」では、メディア読者を対象にしたアンケートを実施しており、①好きな記事②好きな理由の質問を通じて、連載記事単位での評価を聴取していました。定性評価を尋ねることで記事の多様性確保につながるところがポイントです。

さらに極め付きは③記事の感想で、こちらは特定記事を選んで感想コメントを書いてもらう自由回答の質問です。記事URLまで入力してもらうことで対象記事の突合せができ、得られた回答からは読者側が見出した知覚価値を理解することができそうです。

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▼ ②効果測定モデル

効果測定モデルは、「事業活動への貢献アクション計測に使う」調査モデルです。オウンドメディアの記事コンテンツはリード獲得などあくまでマーケティングの入口段階に貢献する役割を担いますが、アンケートを使うと直接的な事業貢献も検証できます。

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<質問構成>
①[○○](メディア名称)を見たことをきっかけにして、[○○](アクション名称)したことはありますか(単一回答)【行動経験有無】
②[○○](メディア名称)を見たことをきっかけにして、あなたが取ったことがある行動をお選びください(複数回答)【行動経験種類】
③前問であなたが取った行動について、友人・家族・パートナーなど親しい人から「いいね!」と言われた体験談があればお書きください。(どなたからどんな言葉をもらったか記入いただけると助かります)(自由回答)
【共感を集めた体験談】

核となる質問構成は、①行動経験有無、②行動経験種類、③共感を集めた体験談となります。

たとえば地域情報を発信するオウンドメディアであれば、「地元の店の紹介」記事が主要コンテンツになっています。この場合、店舗への問合せや訪問が増えれば記事の出来は上々で、メインの事業形態によっては実質的な事業貢献につながっています。

そこで、①②で記事を見た後の行動(例:店への訪問)を尋ね、分野や地域への影響度合いを定量的に検証します。また、③共感を集めた体験談からは、記事をきっかけに社会生活が豊かになった体験を通じて、読者の感性に刺さる記事を再生産できます。

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ここでは、マヨネーズなどの調味料に主力商品を持つ食品メーカー「キユーピー」のサイトユーザーアンケートの例を見てみましょう。

<キユーピー>サイトユーザーアンケート
①テーマ認知度 Q.記事テーマについて知っていた?(知っていて楽しんでいる/知っていて何もしていない/知らない)
②閲覧経験記事 Q.このサイトで見たことのあるレシピは?(レシピA/レシピB/レシピC…)
③レシピ試行経験 Q.このサイトのレシピをもとに料理をした経験は?(ある/ない/意向はある)

「キユーピー」ではイースター(キリストの復活祭)をテーマにしたアンケートで、①テーマ認知度②閲覧経験記事③レシピ試行経験を尋ねていました。日本では他の季節行事ほど知られていませんが、食文化発信はメーカーに欠かせない取り組みです。

質問では、まず①で、もともとの季節催事への認知や関与を尋ね、特集レシピLPを閲覧した後の態度変容を分析しています。続く②③ではイースターのシンボルである卵を使ったメニューのレシピ活用実績を尋ね、実質的に商品の利用促進を検証しています。

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▼ ③投稿募集モデル

投稿募集モデルは、「ユーザー体験談コンテンツの収集に使う」調査モデルです。通常は大きな自由回答欄を1つ提示して、回答内容から記事に採用するものを選考する形式で運営されますが、上手く使うともっと企画と編集の質を上げることができます。

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<質問構成>
①[○○](事業ドメイン名称)の分野であなたが最も悩んでいる・悩んでいたことは何ですか(単一回答)【関心分野:選択回答】
②[○○](事業ドメイン名称)の分野であなたが最も悩んでいる・悩んでいたことを具体的にお書きください(自由回答)【関心分野:自由回答】
③[○○](事業ドメイン名称)の分野で、[○○](商品・サービス名称)を使ってあなたの悩みを克服した体験談があればお書きください(自由回答)【成功事例】

核となる質問構成は、①関心分野:選択回答、②関心分野:自由回答、③成功事例となります。

アンケートでは体験エピソードを尋ねる質問を複数項目に分け、①関心分野:選択回答で定量的な状況確認を、②関心分野:自由回答で具体的な状況確認を、③成功事例で自社がサポートに役立った事例を、順を追って論理的に聴取することができます。

例では「悩み」(ビジネス寄り)を題材にしていますが、アンケートでは読者の「関心」や「課題」を広く尋ね、他の読者にも共有することができます。参加型企画を上手く深めてゆけると、読者の閲覧習慣やリアクションの意識を高めることができます。

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ここでは、LITALICOが運営する子どもの発達支援を必要とする親子向けメディア「LITALICO発達ナビ」のメディア読者アンケートの例を見てみましょう。

<LITALICO発達ナビ>メディア読者アンケート
①経験時期 Q.経験した時期は?(フリーコメント)
②経験種類 Q.経験した種類は?(フリーコメント)
③経験内容 Q.経験した内容は?(フリーコメント)

「LITALICO発達ナビ」では「子育て中の困り事、エピソード募集」と題して、子どもが周囲の人とトラブルになってしまう場面について、ゲーム・ご近所等のテーマを設けて、それぞれ①経験時期②経験種類③経験内容を問うアンケートを実施していました。

質問は自由回答でテーマエピソードを①~③の順にヒアリング形式で尋ねることで、体験記事の記事構成にそのままつながるよう工夫されています。採用投稿はコミックエッセイ化する目的があることからも、場面展開を追えるこの質問設計が活きています。


▼ 取材記事のお知らせ


データマーケティング・マガジン「マナミナ」にて、今回の記事テーマである「オウンドメディア読者アンケート」をテーマにしたインタビュー取材をしていただきました。実務での応用方法などはこちらでも解説していますので、よかったら併せてご覧ください。

▼ オウンドメディアの企画を尖らせる「読者アンケート」3つのモデルケース|マナミナ(この記事の取材解説です)


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