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ユーザーリサーチにおける、周年キャンペーンの活用法

「リサーチの必要性が(社内に・顧客に)理解されないのですが、どうしたらよいでしょうか?」―調査活動の入口に立っている皆さんから私がよくいただく質問です。リサーチとは言わば研究開発の先行投資のようなものなので、決裁者や取引先に価値を事前に認識してもらわなければいけません。

以前まで私はこの質問に対して、「満足度調査」あるいは「競合調査」が組織の中で始めやすいテーマです、と答えてきました。しかし最近では、「始めやすいからと言って続けやすいテーマであるかどうか」はまったく別問題である、と認識をあらためるようになりました(万能型テーマの限界)。

というのも、本質的には以下の要件をクリアできないと、調査の予算や稼働の認可は下りず、計画倒れになるからです。

・今すぐやるべきものかどうか?
・十分な回答を集められるか?
・本当にデータを活用できるか?
・誰がどう進めるのか?

いくら「ユーザーのことがわかります!」と息まいてみても、組織の意思決定や実行体制が付いて来なければ、いっこうに実現には至りません。調査の計画だけは社内や顧客の誰かが持っていても、毎回上記のような同じ議論を蒸し返して、結局根づかない現実を私も何度も目の当たりにしてきました。

そこでおすすめしたいのが「周年キャンペーン」を活用する方法です。周年キャンペーンの業務シーンは、収益を生み出す事業と直結しており、かつ、調査テーマに柔軟性や万能性を持てることがポイントです。ここが満足度や競合調査など同じ古典的な調査テーマであっても大きく異なるところです。

今回は「周年キャンペーンアンケート」の活用法を解説します。

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▼ 周年キャンペーンアンケートの企画メリット

周年キャンペーンアンケートの企画メリットは、主に4つあります。

企画メリット

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①実施時期を特定できる

アンケートの多くは「いつ実施してもよい」業務特性がある代わりに(※もちろん例外はたくさんあります)、「本当に今それをやるべきか」という指摘も受けやすくなります。近い時期に実施する必然性が希薄である(優先度が低い)状態は、いかなる時も調査実施における最大の障壁となります。

周年キャンペーンの場合、実施時期を事前に特定できる利点があります。時期を事前に特定できるということは、そこに向かって準備を整える機会があるということであり、また、差し迫ってやって来るリミットに対して素早く判断を積み重ねる展開になるので、プロジェクトの基盤が強固と言えます。

また、「1年に1回実施のチャンスがある」ということは、組織のリサーチ文化形成において計り知れないメリットがあります。確かに頻度の観点で言うと物足りないのは事実ですが、他の記念行事同様、実施によって価値が認識され、その時期に欠かせない風物詩になっていく構造変化は大きいです。

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②リーチが最大化される

自社で行うユーザーリサーチの場合、平均的な回収率はわかっていても、配信リストの母数が十分に揃わないことが往々にしてあります。よーいドンでスタートしたものの、結果的に回収数(サンプルサイズ)が十分でないと、準備~実施~分析に係る一連の労力がすべて無に帰すリスクに直面します。

周年キャンペーンの場合、相対的な規模は別にして、自社単体で考えるならば、間違いなく年間最大タイの規模を誇る企画になっていることでしょう。このプロモーション効果が最大化している機会に同時にアンケートを行うことで、広範なユーザーリーチや確実なアテンションを得ることができます。

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③検証事項が明快である

調査実施に理解を得られやすい「満足度調査」あるいは「競合調査」では、データの計測そのものを目的としているため(※色々なやり方がありますが)、「アセスメントあるいはモニタリングのため」と割り切っていないと、出口側で「役立たない」「不要不急だ」という評判が付いて回ります。

周年キャンペーンの場合、検証すべき事項は目の前のキャンペーンについてなので明快です。そこに、アンケートにより属性情報をふだんよりも細かく聴取したい、という大義名分は成り立ちますし、仮に内容が総合的になったとしても出口は比較的ブレにくく、調査テーマとしての地盤は強固です。

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④予算や人員が厚くなる

通常の事業会社において調査活動単体で実施予算を得るには、それ自体に相当のパワーがかかります。また、誰かが調査をやりたいと思っていたとしても、当人がその機能領域の担当ではなければ、本職で相応の実績を残していない限り兼務を許可されない事情もあるでしょう(業務管掌上の壁)。

周年キャンペーンの場合、予算や人員が厚くなるため、調査まで予算が回ってきたり、全従業員に等しく案件稼働許可が下りやすい状況になっています。もちろん大企業では代理店が取り仕切っていて実権にタッチできないこともありますが、「社内の取りまとめ」という関わり方はできるでしょう。

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ここまで、周年キャンペーンアンケートの企画メリットを説明してきました。「反対意見が出ない」点では満足度調査・競合調査と似ていますが、上記の①~④は周年展開ならではでの「賛成を得られやすい」ことがポイントです。結果的に、次年度の継続実施や追跡調査などにつながっていきます。

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▼ 周年キャンペーンアンケートのモデルケース

アプリマーケティングの文脈では、周年キャンペーンに伴うアンケートがよく実施されています。アプリの運営会社がユーザーへのヒアリングにかけるリソースは大きなものなので、実施頻度は慎重に、質問内容は大胆に、というケースをよく見かけます。

周年キャンペーン運営そのものはデジタルマーケティング(あるいは広告効果レポート)の領域で事足りており、特にアンケート無しでも実績を確定できますが、それでも名だたるアプリの運営元がわざわざアンケートを行っている意義は確実にあります。

以下では、周年キャンペーンアンケートで代表的な3つのモデルケースを解説します。

モデルケース

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▼ ①効果測定モデル

効果測定モデルは、「キャンペーンの成果判定に使う」最もオーソドックスな調査モデルです。サイトやアプリで実施している企画や施策を主たる検証対象とし、そういう設計にすることで運営事務局部門が企画や露出で力を出し切る相乗効果も働きます。

効果測定モデル

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<質問構成>
①[○○](キャンペーン総称)の中で、あなたはどの企画に参加されましたか(複数回答)【施策参加】
②[○○](キャンペーン総称)の中で、あなたが満足できた企画はどれですか(複数回答)【施策満足】
③[○○](サービス名称)全般についてのご意見・ご要望がありましたら自由にお書きください(自由回答)【希望事項】

核となる質問構成は、①施策への参加状況(認知含む)、②施策への満足状況、③運営元への希望事項となります。

デジタルマーケティングで行う効果検証は、ブースト施策などの力技も含めた実績を取扱いますが、アンケートでは①~②のような認知や満足の質問により「企画力本位」(好意や共感などの観点)でユーザーの反応を検証することができるのが特徴です。

また周年キャンペーンアンケートでは、実際に聴取対象とする企画や施策を体験してもらった状態で質問を行うので、実感を伴った回答を得やらやすいことも特徴です。なかなか濃い意見を拾うのは難しいテストマーケティングとの違いがここにあります。

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ここでは、日向坂46が出演する恋愛ゲームアプリ「ひなこい」の1周年ユーザーアンケートの例を見てみましょう。

ひなこいOGP

<ひなこい>1周年ユーザーアンケート
①施策満足 Q.良かった企画は?(イベント/動画/ガチャ…)
②企画要望 Q.希望する企画は?(シナリオ/アプリ機能)
③運営要望 Q.運営への意見は?(フリーコメント)

「ひなこい」では1周年を記念した特別ガチャ・動画ドラマなど、通常期よりもスペシャルな企画が展開され、アンケートでは①施策満足②企画要望で各企画への評価・希望を確認したり、③運営要望のように広く意見を募る質問で構成されていました。

このようにユーザーアンケートでは、改善活動のユーザー接点をアンケートチャネルに定め、ふだんフォローしきれないユーザーの声をまとめて吸収する機会と位置づけることが可能です。具体的な取り組みを元にしているので、回答精度も高まります。

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▼ ②休眠対策モデル

休眠対策モデルは、「休眠ユーザーの原因解明に使う」周年の機会ならではの調査モデルです。あらゆるリサーチにおいて休眠ユーザーのリクルーティングは困難を極めますが、周年企画では一時復活が起きやすいためヒアリング効率が劇的に高まります。

休眠対策モデル

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<質問構成>
①[○○](サービス名称)の利用をこれまでに [○○] (中止・中断・解約・退会)されたことはありますか(単一回答)【休眠経験】
②[○○](サービス名称)の利用を見合わせることにした理由は何ですか(複数回答)【休眠理由】※休眠者対象
③[○○](サービス名称)の利用を再び始めることにした理由は何ですか(複数回答)【再開理由】※再開者対象

核となる質問構成は、①休眠経験(利用ステータス)、②休眠者を対象とする休眠理由、③再開者を対象とする再開理由となります。

データ的にログデータからの解析が難しく、逆にアンケート活用が向いているのが、この休眠ユーザー対応です。休眠ユーザーはログデータから忽然と姿を消し、30日・60日・90日などのタームを経て行方を追えなくなるため、対策が立てずらい存在です。

周年キャンペーンアンケートは、一連の施策と上記の質問により、原因究明と打ち手をセットで検証するのに向いた環境になっています。また、モチベーションがダウンしたユーザーの状況を大規模に定期観測する仕組みとしても定着させやすいでしょう。

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ここでは、ロングヒットとなっているタワーディフェンスゲーム「にゃんこ大戦争」のQ周年ユーザーアンケートの例を見てみましょう。

にゃんこOGP

<にゃんこ大戦争>Q周年ユーザーアンケート
①休止経験 Q.休止経験は?(ある・ない)
②休止理由 Q.休止理由は?(忙しい/飽きた/難しい…)
③再開理由 Q.再開理由は?(コラボ/新章/実況動画…)

「にゃんこ大戦争」では周年キャンペーン期間にTVCMを展開するほど大がかりな認知・再認知活動を行い、ユーザーアンケートではそれに呼応するように、①休止経験の有無、②休止理由の詳細、③再開したきっかけを尋ねる質問を中盤に設けていました。

アンケート設計上優れているのは、休眠の基準(基準日数・基準月数)が明確に定義されていることと、再開理由もセットで尋ね、有効だった施策を観測していることです。ロングセラー作品ほど打ち手が重厚で、かつ日々進化していることがわかります。

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▼ ③関心把握モデル

関心把握モデルは、「ユーザーの興味関心データの収集に使う」調査モデルです。自社で運営するユーザーアンケートだからこそ、ユーザーの特徴がダイレクトに反映されるデータを取得することができ、ユーザー側も回答に積極的な姿勢になっています。

関心把握モデル

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<質問構成>
①あなたがふだん利用しているアプリはどんなジャンルのものですか(複数回答)【利用アプリジャンル】
②あなたの趣味は何ですか(複数回答)【趣味】
③あなたが興味関心を持っていることは何ですか(複数回答)【興味関心ジャンル】

核となる質問構成は、①ふだんよく使うアプリ、②趣味、③興味関心のある物事となります。

この①②③をはじめとする志向性や関心事に関連する項目は、いずれの質問においても選択肢項目数が多く、それゆえに見ごたえのある結果を得るには、ある程度の回答母数を必要とします。その点で短期集中型で集めるアンケート運用とマッチします。

また、周年キャンペーンでは、基本属性(デモグラ項目)~利用ステータス(利用期間や有料有無)に至るまでの観点で、多種多様なユーザーが集まりやすいので、運営のマスターとなるユーザープロファイルを更新する機会にも非常に適しています。

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ここでは、集英社の女子コミックを中心に読むことができるマンガアプリ「マンガMee」の3周年ユーザーアンケートの例を見てみましょう。

マンガMeeOGP

<マンガMee>3周年ユーザーアンケート
①よく使うアプリ Q.よく使うアプリは?(SNS/ゲーム/カメラ…)
②休日の過ごし方 Q.休日の過ごし方は?(読書/家事/カフェ…)
③興味関心事 Q.興味関心事は?(メイク/アニメ/お笑い…)

マンガMeeではプロモーションの効果測定よりもユーザー情報の取得に力を入れており、上記のような、①ふだんよく使うアプリ、②休日の過ごし方(≒趣味)、③興味関心のある物事をはじめ、マンガと日常の接点を探る質問を多く取り入れていました。

アンケートではこのようにユーザーの生活全般をヒアリングして、ターゲットユーザーの志向性やジャンル間の関連性の把握に努める用途に向いています。また、ウェブとリアル両方における消費や関心を押さえることもアプリの運営では重要な観点です。

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▼ 取材記事のお知らせ


データマーケティング・マガジン「マナミナ」にて、今回の記事テーマである「周年キャンペーン」をテーマにしたインタビュー取材をしていただきました。実務での応用方法などはこちらでも解説していますので、よかったら併せてご覧ください。

▼ アンケートの企画者必見!「周年キャンペーン」を活用してユーザー調査を行うメリットとは【現場のユーザーリサーチ全集】|マナミナ(この記事の取材解説です)

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▼ 出演イベントのお知らせ

この記事の内容を含む「周年キャンペーンのアンケート活用法」セミナーが、株式会社ヴァリューズ主催で開催されます。当日は生配信ならではの企業事例解説もあります。ぜひご視聴ください!

▼ アンケートの企画者必見!周年キャンペーンのアンケート活用法|ヴァリューズ
2022/5/9(月)17:00-18:00 @オンライン(参加無料)※法人対象





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