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Basの最新アルバムの深層:「We Only Talk About Real Shit When We’re Fucked Up」

前回の記事では、スーダン出身のラッパー、Bas(バス)の経歴についてご紹介しました。今回は、彼が2023年にリリースした最新アルバム「We Only Talk About Real Shit When We’re Fucked Up」に焦点を当て、収録曲を解説・紹介いたします。

レーベル  : Dreamville, Interscope Records, Roche Musique & Universal Music Group
リリース日 : 2023年12月15日
名前    : Bas
本名    :    Abbas Hamad
年齢    : 36歳
出身地   :    スーダン

新アルバムの制作秘話

2019年、フランスのミュージシャンFKJとのコラボレーションシングル「Risk」をリリースしたバス。この曲の制作過程について、FKJは自身のInstagramで詳しく語っています。

数ヶ月前にBasとDMで話し始めたとき、なぜか俺たちは長い間知り合いだったかのように感じたんだ。というのも、俺たちには共通のヴァイブスがあったからね。そして俺はこのEPを彼に送ったんだ。「Risk」はもともとインストゥルメンタルの曲だった。彼がそれにレコーディングしたものを送り返してきたとき、俺も人生で同じ状況を経験しているような気がして鳥肌が立った。彼は最初のテイクで完成させて、それ以上加える必要はなかったんだ。

FKJ & Bas - Risk

「Risk」は、新しいアルバムからの第一弾シングルであり、この曲の制作が新アルバムのインスピレーションになったようです。

おそらく、FKJのために「Risk」を作ったのが始まりだと思う。彼は俺にインスピレーションを与えてくれたんだ。彼は自分のプロジェクトでやりたいことをいくつかやっていて、それにインスパイアされたんだ。

2023年1月、バスは、彼のアルバムからセカンドリードシングル「Diamonds」をリリースしました。この楽曲は、自由を追求し続けることと、自己の真実に忠実であることの大切さを力強く歌い上げています。
バスは、この楽曲を通じて、アーティストやパフォーマーとしての視点を鮮明に表現しています。公の場で注目を集める彼らの立場において、自身の苦しみやトラウマが世間に消費されるという現実に対して、率直な思いを伝えています。

「Diamonds」っていう曲は、世間の注目を浴びるアーティストとして、俺たちが味わう痛みやトラウマが常に大衆の消費の対象になっているという実感から生まれたんだ。俺たちはずっと自分自身を探求し続け、オーディエンスの終わりなき欲求を満たすためにもっと多くを出さなきゃならない。俺たちは、同業者が人生を狂わせるような、取り返しのつかないダメージを受ける瞬間を見てきて、それがただのクリックベイトやソーシャルメディアの餌になるのを目の当たりにしているんだ。世間が求める俺になるために、俺たちは人前で仮面を被り、輝いて見せる。でも、俺たちの内面の葛藤は、誰にも見えないところでただ膿んでいるんだ。俺たちが選んだ人生、追い求める夢が、時には俺たちを破滅させることもある。

また、この曲をリリース後、彼はSNSで初めて新アルバムのリリースをアナウンスしました。

Bas - Diamonds

7月に、J.コールを迎えたリードシングル「Passport Bros」がリリースされました。この曲は、夏の雰囲気を盛り上げるアフロビートが特徴的で、パーティーのような楽しいシーンが描かれています。ここでは、バスJ.コールがテキーラ「クラセ・アスール」を味わいながら過ごす様子が表現されています。彼らは場所を移動しながら楽しみ、バスは女性との週末や日曜日の過ごし方に関心を寄せ、J.コールは二人の友情や海外での成功を祝福する姿が描かれています。全体を通して、楽しい時を過ごしながら、「クラセ・アスール」を媒介とした愛を歌っています。

バスは、この曲の制作において、普段は丁寧に時間をかけて曲を練り上げることが多いのですが、今回はその瞬間の感情やエネルギーを大切にして制作したことを強調しています。彼は、その時々の感情やエネルギーを直接曲に反映させることで、より深い感動を味わえると述べています。このアプローチは、リスナーにも新鮮な感動をもたらすと言えるでしょう。

俺はColeのバースに夢中なんだ。バルセロナのShôkoやロンドンのTapeのようなクラブ、そして小さな部屋で過ごしたこの1ヶ月の話、それが俺にはたまらないんだ。その瞬間に生まれたものが全てで、その場の雰囲気がまるで伝わってくるんだよ。ただ楽しく過ごすことが大切で、その瞬間が何よりもリアルだった。だからマイアミで曲を作って、すぐにリリースすることにしたんだ。普段は何年もかけて曲に向き合って、ドラムをやり直したり、パートを書き直したりするけど、それはかなりのエネルギーを使うんだ。でも、その瞬間に曲を作れば、もっと多くのことを感じ取れると思うんだ。もしこの曲を2年間も持ち続けていたら、誰も聞くことはなかっただろうし、時代遅れに聞こえたかもしれない。

Bas with J. Cole - Passport Bros

収録曲について

約5年ぶりにリリースされたバスの新アルバムは、彼らのこれまでの作品の中でも特に曲数が多い17曲を収めています。このアルバムは、A$AP FergAJ Traceyのような著名なゲストアーティストが参加する一方で、ナイジェリアのAdekunle Gold、ジンバブエのSha Sha、ガーナのAmaaraeといったアフリカ出身のアーティストも大々的に起用されています。この新作は、様々な音楽スタイルと文化的要素が融合した作品であり、特にアフリカ出身アーティストたちの多様性が際立つ一枚となっています。

「Decent」

アルバムの6曲目に収録された「Decent」は、前述のFKJがプロデュースした曲で、心地よいスローなナンバーとなりました。バスのメロディックなラップと、Amaaraeの高音域の歌声が見事に調和し、さらに心地よい雰囲気を作り出しています。この曲は、リラックスしたムードを楽しむリスナーにとって特に魅力的な一曲と言えるでしょう。

Bas feat. Amaarae - Decent

「179 Deli」

アルバムの8曲目「179 Deli」は、11月にアルバムの先行シングルとしてリリースされました。この曲には、イギリス出身で、これまでに2枚のアルバムがUKチャートのトップ3にランクインした人気ラッパー、AJ Traceyがゲストとして参加しています。曲は倍速で打ち込まれたドラムが特徴で、ジャージークラブ風のビートに仕上がっています。サンプリングされた歌声が加わることでビートがさらに豊かになり、バスとAJ Traceyのダイナミックなラップが交わり、聴く者を新しい音の世界へと導きます。

Bas feat. AJ Tracey - 179 Deli

「Khartoum」

アルバムの16曲目「Khartoum」には、ナイジェリア出身のAdekunle Goldが特別ゲストとして参加しています。彼はこれまで5枚のアルバムをリリースし、2023年にはDef Jam Recordingsと契約を結び、「Tequila Ever After」というアルバムを発表するなど、アメリカの音楽シーンでも注目されているアーティストです。
この曲では、政治的問題や人道的危機に焦点を当て、バスは世界中で発生している人道的危機や政治的な不正義に対する怒りをラップで表現しています。特にスーダンの状況、戦争や避難民の問題に触れ、人種差別や不正義に対する怒りも訴えています。

Bas feat. Adekunle Gold - Khartoum

アルバムにおけるアフロビートの立ち位置

今作では、アフロビートの楽曲を多く取り入れ、より世界の音楽シーンを意識した作品に仕上がっています。しかし、バスは当初、アルバムに含める曲を選ぶ段階で、スローテンポな曲が中心であったと述べています。

正直なところ、始まった当初は、もっとゆっくりとしたものだったと思う。「Diamonds」「Risk」「Wait On Me」みたいなね。ある程度のテンポやバウンス、音の変化が欲しかったんだ。だから、アフロビート風の曲を作り始めて、そのテンポがジャージーのバウンスやアマピアノを入れるためのスペースを空けてくれた。「The Jackie」のような曲は、アルバムに収録できたかもしれないけれど、馴染まないように感じたんだ。エネルギーをもたらし、音の風景を変化させる方法を見つけたかった。すべてがレンガのように積み重ねられていったけど、最初はそういったゆっくりと進行する曲ばかりだったと思うよ。

アルバムのタイトル「We Only Talk About Real Shit When We’re Fucked Up」は、直訳すると「俺たちが本当のことについて話すのは、ヤバい時だけ」となります。このタイトルは、アルバム全体のテーマを象徴しており、バスはアルバムに収められたすべてのトピックが、この「ヤバい時」の状態と関連付けられるように意図していると述べています。

すべてのトピックが、このアルバムにつながるようにしたかったんだ。たとえ、それが卑屈なつながりとして証言されたとしてもね。夜中の3時に酔っ払ってメールをしていて、その女の子とリンクしようとしているような、そんな感じ。そういう時に起こることのひとつであることに変わりはないよ。「Khartoum」のように、ドラッグやアルコールによる状態ではなく、精神的に、魂的にもおかしくなっているんだ。ひどく落ち込んでいる状態ね。どの曲も、そのような視点に立ち、語ることができるようにしたかった。それは共感できるものなのさ。それから、コンセプトの奥行きを出したかったから、題材に変化を持たせたかったんだ。

おわりに

今作は、メロディックなトラックを中心に構成されており、DJにとっては、クラブでのオープニングセットやMIXに最適な曲が多数収録されています。
また、スタイルやリリックの世界感も含め、日本のリスナーにも広く受け入れられる内容となっています。

自分の決まったスタイルに固執せず、アフロビートやジャージークラブといった今のトレンドを柔軟に取り入れるバスの姿勢からは、常に成長していく意欲が見受けられ、次の作品がどのようなものになるのか現時点では想像がつかず、今後の展開が非常に楽しみです。

個人的には、10曲目の"Testify with Sha Sha"が特にお気に入りです。
バラエティ豊かなこのアルバムに中に、あなたも自分のお気に入りが見つかることでしょう。


今回紹介した楽曲のDJプロモーション音源はこちら⬇️⬇️⬇️

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