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ダッシュボードについて考える~レノファ山口FCのデータを使って~ データアナリストへの道#29

レノファ山口FCを勝手に応援しているハラマルです。

と公言している方には「あるある」だと思いますが、先日、ある方から、「今シーズンのレノファの調子はどう?」と聞かれました。
こういう場合、相手の方がサッカーやレノファにどれくらい興味あるかによってどこまで突っ込んで話をするか考えるのですが、そのときは、ほぼ勢いで「調子はすごく良いですよ!今、非常に良い状態で、試合が面白いので、是非、観に来てください!」とアピールしたのですが、思ったような反応がもらえませんでした。

冷静に考えると、周りの人を観戦に誘おうと思って、結果的にJ2最下位になったシーズンでも(コロナの特例でJ3への降格は免れました)、同じような調子で話していたような気がしますw
嘘つき扱いまでされているかどうかは分かりませんが、少なくともこれまでのように、私が必死にアピールしただけでは大した効果がないようですし、かと言って、サッカーの中身を熱く語ったとしても、サッカーと距離を置いている方にはその熱が伝わるとも限りません。

もちろん、1回試合を観ていただければ、内容の良さ・面白さは分かっていただけると思いますが、普段サッカーに興味がない方、レノファの試合観戦をしたことがない方に対して、この良さを分かっていただき、試合観戦に行ってみてもらうためには、何と回答したら良かったでしょうか?

説得力を持って伝えることができ、さらに行動変容まで促すことができるとしたら、データしかないでしょう!

ということで、今回は、勝手にレノファ山口FCのデータを使って、「おっ、すごいね。観に行ってみようか?」という行動変容につなげることができたら良いなと思います!

レノファ山口FCの今年度の目標値

さて、今シーズンのレノファ山口FCですが、開幕前の1月6日に新体制発表会を開き、その中で、いくつか数字的な目標やKPI(重要業績評価指標)を発表されています。

本当は、この動画を見ていただきたいのですがw、この中に出てきたものを整理してみると、

  1. 「勝ち点」はシーズン合計で55以上を獲得することを目指す。これは、10位程度(3年間平均)くらいに位置するそうです。なお、「勝ち点」とは、勝ったら3、引き分けで1がもらえ、負けるともらえません。

  2. 「失点数」はシーズン合計で45点以内に抑えることを目指す。勝つためには得点を取る、失点を防ぐという2つの究極目標がありますが、まずは失点をしない守備の構築を目指すということで設定。

  3. ホームの「平均来場者数」は5,500人を目指す。また、1万人以上が来場する試合を作る(具体的な回数の設定はなし)。

売上高についても目標値設定がありますが、これは年度途中に我々が把握できるものではないため、今回は対象外とします。

この数値目標の設定は、非常に分かり易く、また、レノファ山口FCが飛躍していくためには重要な指標ばかりなので、とっても好感を持っています

が、例えば、数字がシーズン合計値のものもあれば、1試合平均のものもあります。また、昨年はJ2リーグは22チームでしたが、今シーズンからは20チームになり、総試合数も変わっていて、すぐに比較ができません。

なので、これを分かり易く表にしてみたいと思います。
また、それらに対して、現時点(6試合経過、うちホーム戦は3試合)でどのような状況なのかをまとめると、こんなカンジになります。

レノファ山口FCの2024シーズン目標値と現状(6試合経過時点)

まず、試合数ですが、目標というか最終的には38試合することになります。昨年は42試合でしたので、4試合も減少しています。
6試合経過時点では、シーズンの15.8%が達成されたことになります。

次に、勝ち点・失点は、赤字で記載しているシーズン合計の目標が示されていますので、それぞれ1試合平均を作成しました。
これにより、総試合数が違う昨シーズンとも比較しやすくなりました。

得点数は目標値の公表がなかったので、実績と、そこから算出した平均値を記載し、昨年分も記載しました。

ホーム観客数は、1試合平均値がKPIでしたので、試合数を掛けてシーズン計を算出しました。
1万人達成試合数は、具体的な目標数値はなかったようなので、仮に1と置いてみました。

いや~、表にはしてみたものの、これじゃ分かりづらいですね!
「勝ち点」「得点数」「ホーム観客数」は多い方が良いですが、「失点数」は少ない方が良いです。
これを同じような評価はできませんし、パッと頭に入ってきませんね。

ということで重要になってくるのがデータの「可視化」です!

ダッシュボード

さて、いつもはTableauというツールを使って、データ同士の関連性を探したりしていますが、今回は、あらかじめ作ろうと思うグラフは頭の中にあります。なので、このままExcelでダッシュボードのかたちで可視化してみようと思います。

ダッシュボードとは、元々は自動車などの計器類を意味する単語ですが、デジタルの分野では、様々なデータを分析して分かり易く表示したものを指します。(ツールや表示画面を指したりすることもあるようですが、今回は、このような広い意味で使います。)

説明する前に、まずは作ったものを見てもらいましょうか。

①勝ち点の積み上げ状況

まずは、今シーズンの順位に直結する「勝ち点」の状況です。

「勝ち点(シーズン計)」の進捗状況(6試合経過時点)

先ほどの表は分かりづらかったので、まずレノファカラーのオレンジで今シーズンの実績を表しました。

目標値55は青色で示しています。シーズン最終節までにここまで積み上げる必要があります。
また、現時点でどうかという途中経過を知るために、昨年のペースで勝ち点を積み上げていた場合(薄緑)、目標値55を達成するペースで勝ち点を積み上げた場合(水色)も示してみました。

こうすることで、昨年のペースや目標のペースに比べて、現時点、どこまで勝ち点が積みあがっているか、また、残り試合でどこまで勝ち点を積み上げるべきかがパッと分かるようになったのではないかと思います。

使っている数字は、先ほどの表と同じものなのですが、こうして可視化することで分かり易さがグッと上がったのではないでしょうか。

見てわかるとおり、「目標ペースよりやや遅れているが、概ね順調に推移」ということですが、実際に、順位も9位となっており、目標(10位程度)を達成している状況だと言えます。

②1試合平均値

次に、1試合平均値の状況をみてみましょう。

各目標値の1試合平均と現在の状況(6試合経過時点)

先ほどと同じように、実績と目標値・昨年実績と比較できるような形としてみました。(得点数は目標値の設定なし)

こうすることで、先ほどみたとおり勝ち点は概ね順調に積み重ねていることのほか、得点数は昨年より多くなっていて、つまりは、観戦したら、昨シーズンよりも得点シーンに出会える可能性が高まっていることが分かります。

また、失点数は、昨年実績よりも減らす目標設定としていますが、さらにそれより下回っており、なんと昨年度と比べて約半分になっており、重点的に取り組むとしていたディフェンスの改善がうまくいっていることが分かります。非常に成果が出ていると評価できますね。

さらに、ホーム開幕戦で1万人プロジェクトと称して多くのお客さんを呼び込めたこともあって、ホーム3試合が雪・雨・雨と、天候に恵まれていませんが(笑)、観客数も、昨年実績を上回って目標に近い数字となっています。天気が良かったら…と残念でなりません。
というわけで、観戦に行ったら、昨シーズンよりもお客さんが多く、スタジアムの盛り上がりを体感できる!ということですね。

ダッシュボードのメリット

今見ていただいたダッシュボードですが、これを利用することにより、次のようなメリットがあると思います。

①正確な現状把握

ダッシュボードを活用することにより、「今どんな状況か」が分かります。
レノファ、うまくいってるやん!というのが分かりましたよね!

例えば、こうしたデータ分析を業者にお願いして「レポート」という形で提出してもらったとしましょう。その場合、専門家がデータを詳細に分析することで、今まで気づかなかった知見を得られるかもしれません。
が、その一方で、レポート作成には時間がかかってしまいますし、労力をかけて作ったレポートを、じゃあ、10試合経過後に時点修正して、と言ったら非常に困難です。当然、労力もコストもかかってしまいます。

ダッシュボードは、そういった詳細な分析レポートとは違い、日々の運用の中で簡単に補足できる指標を可視化し、時点修正することで、あらかじめ「コレ」と定めた指標が、うまくパフォーマンスを発揮しているかどうかを簡単に経過観察することができるようになります

話の流れから、先にダッシュボードを作りましたが、本来は、ここでどんな情報を可視化・時点修正すれば良いか、それをいかに労力少なく更新できるか、検討した上で、そこから逆算してダッシュボードの設計に着手することになります。

ちなみに、今回のダッシュボードも、簡単に時点修正できるように設計してみましたので、この1試合前の状況だとこんなカンジになっていました。

1試合前(5試合経過時点)のダッシュボード

こっちの方が良い評価だったんですよね。このまま時点修正し続けてみようかな・・・。

②うまくいっていない課題の早期発見と対応

メリット①のとおり、現状が簡単に把握できるので、仮にうまくいっていないことがあれば、そうした課題を早期に発見することができます。

プロジェクトがうまく進んでいるかどうかを、個人の感覚で判断しようとすると、そこに個人差が生まれてしまいます。
例えば、ある状況に陥ったとき、「これはうまくいっていないな」と思う方もいれば、「まぁこんなもんだろう」と楽観視する方もいるかもしれません。

が、こうしたダッシュボードを用意しておくことで、その評価が客観的になされますし、数字が予定していたように動いていない場合は、「あれ?ここが思ったような数字になっていないぞ?」と早期に気づくことができます。
ツールを使えば、閾値を下回った場合にアラートを出すといった、機械的に判別することも可能です。

このため、最終的な結果が出る前に、課題が大きくならないうちに、早期に課題に対応できるようになります。

例えば、1年間かけてやるようなプロジェクトで、年度末に成果を出しますというものの場合、その年度末になって「アレ?おかしいな」となっても時すでに遅しです。
あらかじめ、その成果を出す前には、コレとコレのパフォーマンスを上げておかないといけないな、という指標を設定し、ダッシュボード化し、危機を早期に発見・対応することで、成功に導きやすくなります。

③関係者で情報共有しながら意思決定できる

そして、個人的に、ダッシュボードを作る一番のメリットではないかと考えているのは、定量的なデータに基づいて実施するため、関係者間で合意をしながらプロジェクトを進めることができるようになります。

順番が前後しますが、そもそもどういうダッシュボードを作ろうか?と考えると、当然、まずは、このプロジェクトが何を目指しているのかどの指標がどうなったら成功なのか・失敗なのか、を検討し、議論しておく必要があります。
また、「何をしたら、その指標が良くなるんだっけ?」、ということを考えるきっかけになります。これが打ち手になってくるはずです。

レノファ山口FCの場合で言うと、強いクラブにしていくために、勝ち点を多く重ねていくこと、そのためには得点を増やして失点を減らすこと、特にレノファの場合は失点を減らす施策を重点的に実施すべきこと、さらに上位を狙うためにはクラブの体制強化に向けて観客数を増やしていかなければならないこと、こうしたことを組織の中でしっかり意識共有された上で、こうした目標値が設定されているんだと思います。
今シーズン、「1万人プロジェクト」と称して、特にたくさんの方に来ていただきたい試合日を設定して様々な誘客対策やイベントが企画されていますが、それも、おそらくは、「平均観客数」を増やすためにはどうしたら良いか?という打ち手を考える中から生まれてきたものではないでしょうか。

このプロセスが非常に重要で、取組の成果を反映するデータを見ながら実施することで、「こういうことやってみようか?」→「効果があったね/なかったね」という検証を、データに基づく議論をしながら進めることができます

思い付きですが、例えば、他のチームだったらHPに「現在の順位」が掲載されているのは普通ですが、こんなダッシュボードが掲載されていたら、ついつい見てみたくなるかもしれません。
そういう関係者を巻き込むという面でも、ダッシュボードがうまく活用できるかもしれませんね。

まとめ

今回、とても簡易なダッシュボードを作成してみました。
当然、レノファ山口FCの場合も、公表されているものが目標値の全てではないと思います。
例えば、運動量を重視するチームであれば、選手の「走行距離データ」を重視するかもしれません。
一方、セットプレーに強みを持つチームであれば、「空中戦の勝率」なんかが重要視するかもしれませんが、「ボール保持率」のようなデータは重要ではないと考えているかもしれません。
あるいは、ライバルチームを設定して、そこと比較するということも必要かもしれません。

どのデータを重要視するかは、自分たちのプロジェクトは、どんな風になっていたら成功と考えるか?ということだと思います。
デジタルやデータを使う前の「マインド」が非常に重要だと思います。

また、データのダッシュボード化はプロジェクト管理などに適していると思いますが、作ろうと思うと、データをどのように収集して、どのように可視化すると分かり易いのか、日々の更新の負担を減らすためにどのように設計すればいいのか、検討が必要になります。

さらに、例えば、今回の例では試合の「平均値」を取ってみましたが、平均ということは、数が多くなってくると直近の動向が反映されにくくなる(薄まる)という傾向があります。
シーズン後半の「1万人プロジェクト」でたくさんのお客さんが来ていただいたのに「平均値」で見たらあまり増えないなぁ、なんてことになったら、効果を正確に把握するという観点からも、スタッフのモチベーションが上がらないという観点からも、あまり望ましくないですね。
その場合は、これまで「全試合平均」だったのを、「直近3試合平均」に変えてみるといったことも、勇気をもって変更すべきじゃないかなと思います。

「やまぐちDX推進拠点『Y-BASE』」では、こういったデータ活用に向けて、考え方の相談やツールを使った実現支援など、様々なサポートを無料で実施していますので、少しでも興味が湧いたら、まずはお気軽に御利用いただければと思います。
私のような素人じゃなくて、ちゃんとしたデータサイエンティストがサポートしますので、御安心ください。

というわけで、冒頭の質問「今年のレノファは調子が良いのか?」と聞かれた際には、こちらのダッシュボードを使って、「メチャクチャ調子いいよ!観戦に行きましょう!」とお伝えすることにします
「今シーズンも残留争いするんじゃないか?」という方が身の回りにいらっしゃったら、皆さんも、このデータを突き付けて(!)やりましょう。
今シーズン、まだ始まったばかりですが、実はこんなに変わっていて、結果も出ています
ほら、あなたも「あれ?そうなの?じゃあ観に行ってみようかな?」となりましたよね!?
観戦してみようかな?と思われた方は、是非「スキ」を押してください。

6試合経過時点のダッシュボード

この「スキ」の数が本日の私の成果ということになりますが、きっと思っているより少数なので、データで成果を突き付けられるのって怖いですねw
逆に、この数字分だけお客さんが増えたらおもしろいんですが…。