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DXプロジェクトの疑似体験(令和元年ITストラテジスト試験午後1問1解説)

秋の情報処理技術者試験まであと約170日。
某ウイルスの影響で開催されるかも怪しいですが、そろそろ対策を始める季節になってきました。

この記事では、令和元年ITストラテジスト試験午後1問1解説するとともに、個人的に「ここ大事だよな~」とか「勉強になる」と感じたポイントをまとめていきます
ただの資格試験の問題と思わず、プロジェクトの疑似体験だと思って取り組み、最大限学びを得ましょう(キリッ

なお、本記事では過去問をお手元でご覧いただいている前提で説明していきます。

問1 化学品メーカにおけるデジタルトランスフォーメーションの推進

実際の問題文についてはこちらのp.2をご参照ください。

化学品メーカのA社の輸出入業務において複数の問題(入力ミス、入力待ちなど)が発生しており、それらの問題をITを活用して解決しましょうというお話です。

OCRとソフトウェアロボット(RPA)で作業自動化することが果てして"DX"なんでしょうか?どう考えてもDigitization, Digitalizationの話でDigital Transformationではない気がします。IPAさんはどういうお考えですか???

設問1(1) IT活用によってA社輸出入業務のどのような品質を向上しようと考えたか

まず「IT活用」が何を指しているかを解釈します。
[IT活用の検討]では、作業の正確性と即時性を高めることを目的に、ソフトウェアロボット(RPA)とOCRとを組み合わせて作業を自動化するとの記載があるので、これが「IT活用」であると解釈できます。

次に対象となる業務を把握しておきましょう。
[A社輸出入業務の現状と課題]、(2)A社輸出入業務の課題の両方で入力ミスや書類の入力待ちの滞留が課題であると言及されています。特にメール関連の業務が問題視されているため、輸出機能、輸入機能と連携するためのメールが対象であると判断できます。
また、[実証実験の評価]でファイルのアップロード作業・ダウンロード作業についても自動化している旨の記載があるため、これも対象であることがわかります。

最後に問いに答えます。

(1) A社は, ITの活用によって, 具体的にA社輸出入業務のどのような品質を向上しようと考えたか。30字以内で述べよ。
引用:令和元年秋期ITストラテジスト試験午後問1設問1

どのような品質ってまた答えづらい問いですが、問題文上で何度か出ている「作業の正確性と即時性」がそれにあたりそうです。問いでは「具体的にA社輸出入業務のどのような品質を向上しようと考えたか」と問われているので、輸出入業務という文脈で正確性と即時性を捉えて具体的に答える必要があります

正確性の向上は、システムへの手入力における入力ミスがなくなることを意味し、即時性の向上は、貨物の滞留がなくなることを意味します。

したがって答えは、「入力ミスのない正確性および書類の滞留のない即時性」となります。
公式解答:「入力ミスのない正確性と書類が滞留しない即時性」
なお、[A社輸出入業務の現状と課題]にそのままの文言で記載があるので公式解答の方が望ましい気がします。

ちなみに、問題文で頻出する信用状は貿易取引におけるリスクヘッジの仕組みの一つです。詳しくはこちらの記事を見てみてください。

設問1(2) 輸出入業務のボトルネックとなる作業は何か 

はじめに「ボトルネック」という文言を探してみましょう。
ちなみに、ボトルネックとは「物事の最大限度を決定する要因引用元のことであり、ボトルネック以外の箇所をいくら改善してもボトルネック君に引っ張られて意味なくなっちゃうという概念です。

「ボトルネック」という文言は(2)A社輸出入業務の課題の最後で登場しています。ここでは、インターネットバンキングでのダウンロード作業・アップロード作業について触れており、そこも改善できるけどボトルネックを改善しないと意味ないよね~(意訳)と言及されています。

その前には「メールで受信した契約書のイメージファイルや船積書類から, 引渡条件や保険に関する情報を貿易システムに手入力する作業の負荷が, 最も大きいことが分かった。」と記載があります。

問いは「輸出入業務のボトルネックとなる作業は何か」なので、シンプルに(というか本文のまま)、「引渡条件や保険に関する情報を貿易システムに手入力する作業」

設問2 OCR識別不可の場合にソフトウェアロボットでどのような作業を行うことを検証したか

[IT活用の検討]では「識別できなかった場合に担当者が行っている作業を, ソフトウェアロボットが行うことができるかどうかも検証した。」とあるので、実際担当者はどう対処しているのか見てみるとしましょう。

(2)A社輸出入業務の課題には、「マスタ検索」、「過去の契約情報との照合」、「海外の子会社・関連会社への連絡」が記載されています。これがそのまま答えになりそうな気もしますが「ソフトウェアロボットで具体的にどのような作業を行う」かを答える必要があるので少し検討します

検索や照合はソフトウェアで完結しそうですが、三つ目は単にソフトウェアロボットを導入するだけで対応するのは難しそうです。

このことを考慮すると、「マスタを検索したり過去の契約情報と照合したりして確認する」が答えとなります。問題文のままですね。

設問3 作業自動化が進んだ場合に、貿易システムと関連するシステムとの連携上のプロセスについて改善できる作業は何か

[実証実験の評価]の記載を見ると、「作業の自動化が進むことによって、(略)連携上のプロセスが次のボトルネックとなる」とあります。この話さっき出てましたよね。設問1(2)です。

1日1回しか行っていない、インターネットバンキングでのダウンロード作業・アップロード作業が次のボトルネックとなります。信用状通知の確認が済まないと船積書類を受け取ることができないという業務ルールもあるみたいです。

したがって答えは、「インターバンキングとの間で行う1日1回のデータ交換」となります。
公式解答:「インターネットバンキングとの間で行う日次のデータ交換」

設問4(1) 輸出入業務の統制上の課題とは何か

統制とは何か。それは統制がとれていない状態を考えれば見えていきます。[実証実験の評価]で「自ら思い思いに多くの種類のソフトウェアロボットを作成していった」とあります。これはまさに統制されていない世界ですね。その後続けて管理が難しくなる旨が記載されています。

問いは「統制上の課題」なのでそれによる影響までは言及しなくてもよさそうです。
したがって答えは、「ソフトウェアロボットの稼働状況の管理が不十分であること」となります。
公式解答:「ソフトウェアロボットの稼働に関する管理が十分でないこと」

設問4(2) レビューなしに本番稼働させない方針として理由としてどのようなリスクがあると考えたからか

先ほどの設問4(1)と近い問題ですね。ただ、問いが「どのようなリスクがあると考えたか」とあるので、顕在化しうる問題を答える必要があります。

まず、IT部門によるレビューに関する記述を見てみます。
「ソフトウェアロボットの動作確認だけでなく、誤動作や異常停止した際の影響範囲の特定や対応方法などのA社輸出入業務の継続性の観点も確認することとした」との記載があります。この確認をしないとどうなってしまうのかを答えればいいわけです。

したがって答えは「ソフトウェアロボットが誤動作や異常停止した際に対応が遅くなり業務停止するリスク」となります。これは公式解答がイマイチな気がしますね。
公式解答:「一つのソフトウェアロボットの修正により, 業務の継続性が脅かされるリスク」

解説は以上となります。
改めて見ても単なる自動化プロジェクトでDXではないですね。IPAも雰囲気でDXDX言っている印象を受けました。

この問題から学べること

さて、「問題を解く」フェーズから「学びを得る」フェーズに移行しましょう。

・プロジェクトの推進の流れ

この自称DXプロジェクトは以下のような流れで推進されています。
①現状分析
②ボトルネックの特定
③実証実験
④評価
⑤導入計画策定

この流れ、当たり前と言えば当たり前ですが、「何か新しい試みをする」という場合の標準的な進め方なので、一つの例として覚えておく価値はありそうです。

新しい取り組みを一気に始めるのはあまりにリスクがあるため、まずは実証実験(PoC)に取り組むことが一般的です。「AIちょっと試してみようぜ~」と言って何百万でPoCという話はよくある話ですね。

PoC、つまりは"検証"において具体的に何を検証するのかが重要となります。効果的な検証とするためにも、対象業務の全体像をつかんだうえで課題を特定するという①、②のプロセスが肝要です。反対に、「とりあえずAIだ!」ってことで①、②をおざなりにしたまま③実証実験に進むプロジェクトは間違いなく失敗します。

・関連システムの可視化

いわゆる上流工程でシステムの全体像を図示することはよくあります。PowerPointでそれっぽく描くのは簡単ですが、関係者間で認識のそごのないように表現するのはなかなか難しいものがあります。

この問題では以下のようなシステム関連図が掲載されています。図解する手法はいろいろあるとは思いますが、この見せ方はシステムの関連性、扱うデータとその流れ、形式が一見してわかるので結構使えそうです。システムのAsIs/ToBeを描くときに使ってみようと思います。

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引用:令和元年秋期ITストラテジスト試験午後問1設問1

・ソフトウェアの統制

何らかのITサービス・ツールを導入した後、現場部門にすべて任せてしまうといろいろ大変です。無秩序な世界が待っています。

まさに本文中でも言及されていますが、各々が思い思いにプログラムを組んでしまうと、何がどの作業で実行されていてどこまで影響が出るかがまったくわからなくなります。今回のケースでは、利用ガイドラインの作成とIT部門によるレビューによってそのような事態を防止しようとしています。

また、特定のソフトウェア内のルール作りだけでなく、IT利用時に共通的に守るべきルール(認証・認可、情報資産の管理などのルール)が守られるようガイドラインに盛り込んだり、レビューのチェックリストに追加するなどの工夫も重要です

このままでは無秩序な状態にならないか?と問いながら適切なルールを作り込むことが大切ですね。

さいごに

今後もITストラテジスト試験、および応用情報技術者試験の[経営戦略]の解説記事を書いていこうと思います。よろしくお願いします。

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