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アジア経済は、成長の鈍化とインフレ圧力の高まりに直面。

IMF(International Monetary Fund/国際通貨基金)が定期的に公開している「IMF Blog」は2022年07月28日に、クリシュナ・スリニバーサン(Krishna Srinivasan)による「IMF Blog」で、インフレの継続的上昇と資本流出の増加を防ぐには、利上げを含む多角的な対応が必要であると報告した。

ロシアのウクライナ侵攻や他のショックの影響が続く中で、世界経済見通しは暗転し、アジア太平洋地域では成長が一段と減速しそうであると分析している。

アジア太平洋地域の今年の経済成長率は2022年04月時点の予測を0.7%ポイント下回る4.2%となり、2021年の6.5%から減速することが見込まれている。2023年の予測値は4.5%と、0.6%ポイントの下方改定となった。

IMFは2022年04月の見通しで米国の利上げに伴う金融環境のタイト化や、ウクライナ戦争による一次産品価格の上昇などのリスクに着目したが、そうしたリスクが現実のものになりつつある。この状況によって、同地域の成長が被る中国経済減速の波及効果が増幅している。

https://time-az.com/main/detail/77384

深刻化する中国の減速

アジア主要経済国である中国は、ゼロコロナ政策(zero-COVID policy)の一環として主要都市とサプライチェーンの要所でロックダウンを行い、第2四半期に成長率が著しく減速した。これに伴い、年間成長率の予測値は4月時点の4.4%から3.3%に引き下げられ、来年の成長率も前回の予想を0.5%ポイント下回る4.6%になると見込んでいる。

問題は、中国が、ゼロコロナ政策をいつまで継続するかであり、これは中国が主導権を持って、決定することであり、かなり正確に計画されている。

中国経済の減速には長期化・激化する不動産部門の低迷も反映されており、同地域の貿易相手国へ大きな波及効果が及ぶと予想される。

ただし、中国のゼロコロナ政策が終了するとともに、一気に回復することが組み込まれている。

同じくアジアの主要経済国である日本と韓国の2国は、世界のサプライチェーンや中国と密接に統合されているため、外需の縮小とサプライチェーンの混乱によって成長が多少鈍化することだろう。

しかし中国が最近減速した反面で、パンデミックの移動制限が部分的に解除され始めていることから、経済活動に復調の兆しが見え始めている。

マレーシア、タイ、太平洋諸島では、製造業の強靭性と観光業の回復が漸進的な復興を下支えしている。

金融環境の引き締め

中国を除く大方の新興市場国が、2013年に匹敵する資本流出に直面している。

2013年は、FRB( Federal Reserve/米連邦準備制度理事会)が資産購入規模の縮小(テーパリング/tapering)を前倒しにすると示唆したために、債券利回りが急上昇した年である。今回の資本流出はとりわけインドに顕著であり、その規模はロシアがウクライナへの侵攻を開始して以降US$230億に達している。FRBが利上げ継続のシグナルを出し、地政学的緊張の影響が広がる中で、韓国や台湾といった一部のアジア先進国でも資本流出が発生している。

世界の債務残高に占めるアジアの割合は世界金融危機前の25%からコロナ禍を経て38%まで膨れ上がっており、同地域では世界金融環境の変化に対する脆弱性が高まっている。その極端な例であるスリランカは急増する債務が持続不可能になり、世界資本市場へのアクセスを失ったことで、対外債務の不履行(デフォルト/default)に陥った。

戦争の影響

また、貿易政策を取り巻く不確実性の高まりやサプライチェーンのほころびが地域経済学的分断の傾向を強めていることから、アジアでは経済回復が遅れ、同地域は過去数十年に渡って世界貿易の深化や金融統合の恩恵を一番に受けてきたから、パンデミックの爪痕が深刻化するだろう。

経済成長が減退する中、戦争とその制裁措置に起因する食料・燃料価格の世界的な高騰により、アジアのインフレ圧力は上昇し続けている。そこから最も打撃を受けるのは対処に最も苦しむ脆弱な貧困層であり、スリランカなどの国で見られたように消費が縮小して社会不安のリスクが高まっている。

物価上昇

アジアのインフレ圧力上昇は他の地域と比較すると相対的に低いものの、多くの国では中央銀行の目標を上回る水準で物価上昇率が推移している。

急激に強まる物価上昇圧力を抑えるために、韓国、シンガポール、ニュージーランドなどの一部のアジア先進国では中央銀行が世界の引き締めサイクルにいち早く乗り出し、他国もそれに追随した。

物価圧力が継続していない日本では、より緩和的な金融政策スタンスが維持されている。

中央銀行の目標からの逸脱という観点で見ると、アジアの新興市場国もインフレ圧力は比較的落ち着いている。
これはGDPが潜在値を下回っていることに加えて、食料・燃料に対する助成金や価格統制によるものである。そのため政策当局者は引き締めを強引に進める必要はないが、最近になってインド、マレーシア、フィリピンを筆頭に利上げを開始する国が増えている。

ただ、モンゴルやスリランカのように国外からの融資圧力に直面している一部の国では、積極的に金利が引き上げられている。

その大きな原因は、中国による強引な融資である。

その点から危険なのは、クーデターを起こしたミャンマーである。

対象を絞った財政支援

債務水準が高い国は金融政策によるインフレ抑制努力を補完するために、財政政策を引き締める必要があるだろう。

だがそれと同時に、的を絞った臨時の給付措置を実施して、エネルギー・食品価格の高騰などの新たなショックに直面する脆弱な人々を支援することが求められる。

こうした財政支援は原則として予算内で実施すべきであり、債務を膨らませたり、金融政策と矛盾したりしないように、歳入増加や予算の再調整で財源を確保しなければならない。

中期的な財政政策が安定化している中国と日本はその例外と言えよう。

以上を踏まえた上で、生産性や人々の生活水準を高めるためには、世界や地域で協調的な解決策を講じて、貿易政策の不確実性を低減し、有害な貿易制限を撤廃し、分断化が深刻化するシナリオを回避することが急務だ。今後2年から3年の間に目指すべき経済改革の目標は、インフレ上昇に対処すべく総供給を増やすこと、気候変動への適応などの長期的な課題に取り組むこと、人的資本への投資、グリーン移行の推進、デジタル化の促進である。

各国に固有の統合的で多角的な対応

総括すると、価格変動の激しいカテゴリー(食品・エネルギー)を除いたコア物価にインフレが拡大している今、一部の国は直ちに利上げを行うことで、インフレ期待と賃金の上昇スパイラルを防ぐべきである。今補正しなければ、後からさらなる上昇に対処する必要が出てくるためである。

一方で、さらに金利を引き上げれば、パンデミック中に多額の債務を抱えた消費者、企業、政府は予算を圧迫されるだろう。

具体的な政策助言は国によって異なるが、すべての国において変動為替相場が十分だとは限らず、実現可能だとも限らない。インフレ期待を安定化し、システミックなリスクを管理するには、為替介入やマクロプルーデンス政策(Macroprudential Policies)、資本フロー管理(Capital Flow Managementといった他の施策も有効的な手段となり得る。

IMFでは、まさに現在のような状況下で政策決定の指針となる(IPF(Integrated Policy Framework/統合的な政策枠組み)を策定したばかりである。また、IMFは今後も献身的なパートナーとして、加盟国が迫り来る嵐を切り抜けられるように融資機能を通じたサポートを提供していく。

各国は手遅れになる前に行動を起こし、必要に応じてポリシーミックスの調整や対外金融バッファーの再構築を図るべきである。

私は、他の地域と比較してアジア経済は、ミャンマー、スリランカ以外は、まったく心配していない。

2022-07-26---IMF、ユーロ圏とイギリスの成長率予測引き下げ。

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