見出し画像

ヨーロッパのインフレ見通しは企業収益が賃金上昇をいかに吸収できるかにかかっている

IMF(International Monetary Fund/国際通貨基金)は2023年06月26日に、今週のチャートでニールス=ヤコブ・ハンセン(Niels-Jakob Hansen)、フレデリック・トスカーニ(Frederik Toscani)、ジン・チュウ(Jing Zhou)によるインフレを紹介し、過去2年間のヨーロッパのインフレ率上昇のほぼ半分を企業利益の増加が占めている。

労働者が失われた購買力を取り戻すために賃上げを要求している今、インフレ率が2025年にヨーロッパ中央銀行の目標である2%に到達する軌道を維持するためには、企業は利益配分の縮小を受け入れなければならないかもしれない。

ロシアのウクライナ侵攻後に輸入コストが急増し、企業がこの直接的なコスト上昇分以上を消費者に転嫁したため、ユーロ圏のインフレ率は2022年10月に10.6%でピークに達した。

その後、インフレ率は2023年05月に6.1%まで後退したが、コア・インフレ率(物価上昇圧力の基調を示す、より信頼性の高い指標)はより持続的であることが証明された。

このため、ユーロ圏が年初に景気後退に陥ったにもかかわらず、ECB(European Central Bank/ヨーロッパ中央銀行)には最近の利上げに加えようという圧力がかかり続けている。

政策立案者は2023年06月に22年ぶりの高水準となる3.5%まで金利を引き上げた。

今週のチャート」が示すように、これまでのインフレ率の上昇は主に利益と輸入物価の上昇を反映している。

これは、消費デフレーターで測定されたインフレ率を人件費、輸入コスト、税金、利益に分解したIMFの新しい論文によるものである。

輸入コストはインフレの約40%を占め、人件費は25%だった。税金は若干のデフレ効果をもたらした。

言い換えれば、ヨーロッパの企業は今のところ、不利なコスト・ショックから労働者以上に守られている。今年第1四半期の利益(インフレ調整後)は、パンデミック前の水準を約1%上回った。一方、従業員の報酬(調整後)はトレンドを約2%下回った。これは、本稿で論じたように、収益性が高まったというのとは違う。

企業が、労働者に負担を強制したと言える。

これでは、ストは終わらない。
最悪なスパイラルである。

エネルギー価格の高騰という過去のエピソードは、人件費のインフレへの寄与が今後拡大するはずであることを示唆している。

実際、ここ数四半期ですでに上昇に転じている。同時に、輸入物価の寄与は2022年半ばのピークから低下している。

賃金上昇のこのような遅れは理にかなっている。これは、賃金交渉が頻繁に行われないことも一因である。しかし、2022年に賃金が実質ベースで約5%下落した後、労働者は現在賃上げを求めている。重要な問題は、賃金の上昇スピードがどの程度なのか、企業は物価をこれ以上上昇させることなく賃金コストの上昇を吸収できるのか、という点である。

2023年第1四半期の伸び率を若干下回るが、名目賃金が今後2年間で約4.5%のペースで上昇し、労働生産性が今後2、3年間ほぼ横ばいで推移すると仮定すると、インフレ率が2025年半ばまでにECBの目標に到達するには、企業の利益シェアがパンデミック前の水準まで低下する必要がある。

IMFの計算は、2023年04月の世界経済見通しで予測されたように、一次産品価格の下落が続くと仮定している。

2024年末までに実質賃金をパンデミック前の水準に戻すために必要な5.5%というように、賃金がさらに大幅に上昇した場合、インフレ率が目標水準に戻るためには、生産性が予想外に上昇しない限り、利益シェアが1990年代半ば以来の最低水準まで低下する必要がある。

ユーロ圏経済に関する最近のレビューで指摘したように、マクロ経済政策は期待を固定し、需要の抑制を維持するために引き締まった状態を維持する必要がある。

そうすれば、企業は利益配分の縮小を受け入れ、実質賃金は一定のペースで回復するだろう。

現状のままでは、長引くだろう。

2023年06月12日---ヒースロー空港、スト開始を延期。賃上げ案否決なら28日からスト決行
2023年06月08日---イギリスのロンドン・ヒースロー空港の警備員、賃上げで06~08月に計31日間のストライキ
2023年05月31日---ドイツ、労組が賃上げ案再び拒否でさらに追加ストも
2023年05月14日---ドイツ鉄道50社、2023年05月14日からスト50時間継続で、全国で運行に影響
2023年05月11日---イギリス中銀、4.5%に利上げ インフレ率高止まり
2023年04月23日---9ユーロチケット&カンパニー:ローカル公共交通はコロナ・ローからほぼ回復した
2023年04月21日---ドイツの4空港で相次ぎスト。ドイツ鉄道を含む約50社の従業員もスト。
2023年04月21日---ドイチェランドチケットの最長ルート
2023年04月20日---ドイツ鉄道など21日にスト 3空港でも20日からストを呼びかけ。
2023年04月19日---イギリスのヒースロー空港警備員が再びスト。
2023年04月17日---ドイツで無賃乗車: 罰則の軽減を求める声が多数派
2023年03月31日---イギリスのBA、イースター繁忙期に警備員のストでヒースロー便欠航。
2023年03月27日---DB(Deutsche Bahn/ドイツ鉄道)のストで2023年03月27日運休。
2023年03月24日---ドイツの2労組が2023年03月27日に運輸部門スト。
2023年03月21日---イギリスのヒースロー空港、イースター繁忙期に警備員がスト。
2023年03月15日---イギリス政府、景気後退は回避し、経済成長を柱にした春季財政報告を公表。
2023年02月28日---2011年以降、鉄道ストライキへの理解度は大幅に低下している
2023年02月17日---ドイツ主要7空港、賃上げ交渉難航で2023年02月17日にスト。
2023年02月10日---イギリスのGDP、2022年第4四半期は横ばいで、速報値はリセッション入り回避。
2023年01月24日---イギリス財政収支、2022年12月最大の赤字。
2023年01月20日---イギリスの売上高、物価高騰で節約ムード広がり、2022年12月は1%減少。
2023年01月19日---イギリスのインフレ率、12月は10.5%。2カ月連続減速。
2023年01月16日---イギリスで産業革命を担った鉱工業生産、2022年11月は0.2%減少。
2022年12月23日---イギリスのGDP、2022年第3四半期は0.3%減。
2022年12月07日---イギリス空港、2022年末に8日間スト。
2022年11月24日---交通インフラ不足がドイツ経済を弱体化。
2022年08月15日---イギリスのGDP、第2四半期は0.1%減。
2022年06月30日---イギリスのGDP、第1四半期は0.8%増。
2022年06月22日---イギリスのインフレ率、2022年05月はG7最高水準9.1%。
2022年05月18日---イギリスのインフレ率、2022年04月は9%、過去40年で最高。
2022年05月12日---イギリスのGDP速報値、第1四半期は0.8%増。
2022年04月26日---イギリスの財政収支、2022年03月は赤字縮小。
2022年04月12日---ロンドン警視庁、コロナ規制違反で首相と財務相に罰金。辞任は否定。
2022年02月15日---イギリスの失業率、2021年12月は4.1%で横ばい。
2022年02月11日---イギリス経済は、1941年以降で最大の伸び記録し、2021年は7.5%拡大。
2022年01年16日---イギリス与党、規制違反パーティで支持率墜落!労働党が支持率トップ!
2022年01年14日---お笑いイギリス首相官邸大スキャンダル、エリザベス女王に謝罪。
2021年12年21日---イギリス政府、接客業など支援再開へ。
2021年12年16日---昨冬のコロナ規制下、保守党本部で違反パーティー主催議員辞任。
2021年12年16日---イギリスの下院補選、保守党候補が落選で自民党が勝利。
2021年12年09日---イギリスの首相官邸職員、規制違反をネタに映像流出で批判集中。
2021年10年27日---イギリス政府、「コロナ後」の経済構築に着手する秋季予算案を発表。
2021年10年19日---イギリス、グリーン投資サミット開催。
2021年08月06日---イギリスで、スワブ検査をランダムに実施した結果。
2021年06月16日---イギリスのインフレ率、2021年05月はさらに2.1%に加速。
2021年04月23日---イギリスの2020年度財政赤字£3031億で、過去最大。
2021年03月12日---EU離脱が響き。イギリスの対EU輸出、過去最大の下落幅。
2021年03年03日---イギリス政府、新型コロナ関連の対策手厚い2021年度予算案発表。
2020年11月12日---イギリスのGDP、2020年第3四半期は急回復し、15.5%拡大。
2020年11年25日---イギリスの財務相、財政赤字額は平時で過去最高の来年度の歳出計画発表。
2020年10年09日---イギリス、営業停止の企業支援として、従業員の給与3分の2を肩代わり!
2020年09年01日---雇用維持制度、イギリス政府の負担率を引き下げ、企業も負担。
2020年07年08日---イギリス政府、若者の雇用創出、VAT減税や外食支援に£20億。
2020年06月17日---イギリスのインフレ率、過去4年で最低。
2020年06月16日---イギリスで、求職者手当の申請者数が倍増。
2020年06月12日---イギリスGDP、2020年04月は20.4%減で、過去最悪。
2020年06年16日---イギリスで、求職者手当の申請者数が倍増。
2020年05年12日---失業者の大量発生回避で、イギリス政府は賃金補助を10月末まで再延長。
2020年04年20日---イギリス政府、賃金補助制度の申請受付開始して30分で6万7000件。
2020年04年08日---イギリス企業救済策!ハードルが高すぎる!承認わずか1%?
2020年04年03日---イギリス政府は、中規模企業にも、最大£2500万緊急融資で救済。
2020年03年26日---イギリス政府、企業従業員と同等に、個人事業主の所得80%を支給。
2020年03年20日---イギリスもついに、飲食店などに営業停止命令!
2019年10月15日---イギリスの失業率、2019年08月は3.9%に悪化。

https://www.imf.org/en/Blogs/Articles/2023/06/26/europes-inflation-outlook-depends-on-how-corporate-profits-absorb-wage-gains?utm_medium=email&utm_source=govdelivery
https://www.imf.org/en/Publications/WEO/Issues/2023/04/11/world-economic-outlook-april-2023
https://www.ecb.europa.eu/press/pressconf/shared/pdf/ecb.ds230615~19be62590b.en.pdf
https://www.ecb.europa.eu/press/pr/date/2023/html/ecb.mp230615~d34cddb4c6.en.html
https://www.imf.org/en/Publications/WP/Issues/2023/06/23/Euro-Area-Inflation-after-the-Pandemic-and-Energy-Shock-Import-Prices-Profits-and-Wages-534837?cid=bl-com-WPIEA2023131
https://www.imf.org/en/News/Articles/2023/06/15/euro-area-imf-staff-concluding-statement-of-2023-mission-on-common-policies-for-member-countries
https://www.imf.org/en/Blogs/Articles/2023/06/05/central-banks-can-fend-off-financial-turmoil-and-still-fight-inflation
https://www.imf.org/en/Blogs/Articles/2023/04/28/europes-knifeedge-path-toward-beating-inflation-without-a-recession
https://www.imf.org/en/Blogs/Articles/2023/02/24/wage-price-spiral-risks-still-contained-latest-data-suggests

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?