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ウルフズ・ワンナイト・スタンド ep-1 #ppslgr

◆前回までのあらすじ

 ふと男性が彼方を見やる。
 砂の海は起伏に富み、其処此処に砂丘が影を作っている。その一つ、小高い丘の向こうから控えめな砂塵が舞い上がった。

「来た来た」
「友達かい?」
「そんな所です」

 雲一つない、青を極めた空。その下に心地よい重低音が響きだす。砂煙を率いて現れたのは、使い古された輸送車両の列だった。様々な建築資材を満載した自動操縦フルトレーラーの貨物車列が、巨大トラックに先導されて走ってくる。

 男性はその車列に向けて手を振った。

「お疲れ様、A・Z」

 男性の持つ端末から覇気のない声が応える。

『お疲れ、D・A』
「迷わなかったかい?」
『それは大丈夫だけど、疲れた!ほんとにこんな砂漠の真ん中だなんて』
「仮設宿舎があるから、シャワーでも浴びてくれ。例のヤツも冷えてる」
『それを早く言ってよ!』

 車列のすべてが砂丘の谷間に降りると駆動音が高まり、速度が増す。男性の指揮するドローン群がその荷台目指して動き始めた。

「予定通り、明日朝にはステージが組みあがりそうです」
「いよっしゃ!今回はリハの時間も取れそうだな!」
「普段もこれくらいの余裕があればね……」

 男性のそばに立つ巨人、その胸に位置する白狼の首が声を発する。冷淡だがどこか柔らかい、女性のような声。かすかに首を振りながら自分の頭上を、巨人の頭部を見上げた。

「いい加減、バックアップチームの一つも持つべきではないの?」
「そりゃ無理だ。俺のライブについてくるってことだぞ」
「裏方の仕事に加え、相応の戦闘技能。いや自己防衛技能が求められる」
「ちょっとやそっとじゃ務まらないよねー」

 巨人の左右両肩で黒狼の首達が口々に喋りたてる。たちまち一頭三首はお互い構うことなく喚き、収拾のつかない雑談が始まった。
 男性は笑顔でそれを見上げつつ、砂地をどすどすと踏みしめる巨人から距離をとる。

 砂漠を越えてきた車列は、ステージが設営されている砂丘のふもとで止まった。同時に巨大トラックの車体全体を幾何学光線のひび割れが走り、展開と変形をはじめた。運転席部分が幾何学ひび割れから伸びあがって人型の頭部、胴部を形作る。両手両足を、着ぐるみから引き抜くようにトラック車体と分離させ、砂地の上に降り立つ。その細身の巨人。A・Zの強化外骨格は、多頭狼の巨人に向かって手を振りつつ、カマボコ型の仮設宿舎へ向かって小走りに駆けていった。

 ドローン群が輸送車両に殺到し、カバーを外してまた舞い上がる。あとから別のドローン達が鋼材やボルト箱、巨大な布束をクレーンでもって空中に運び上げていく。空を行く働きアリのような群れはそれぞれ資材と共に、テントを組み立てるドローン渦へ混じっていった。
航空ショーのような様相のそれを、地上の男性は単調に操作していく。

「それ、飽きない?」

 男性がそんな操作をしばらく続けていると、背後から白い日傘が近づいてきた。その大きな傘の下から顔を見せたのは小柄な少女だ。浅藤色のゆったりとしたベドウィン服をまとっている。柔らかな布地の上からでもわかる細い肩幅は、10代前半か中程のそれだ。暑さのせいか、ショートの黒髪をかきあげては首筋を手扇であおいでいる。

「仕事ですから。アイネさんのほうは如何です?」

 少女、アイネは耳たぶにぶら下がる骨伝導イヤホンを軽く撫ぜて振り返った。その視線の先にもう一機、巨人がいる。

 砂丘の天辺にすらりと立つ紫紺の機体は、ふっくらとしたドレスを身にまとうバレエダンサーのようだった。頭、そして手足は少女のような線の細さ。それに反して胴部はドレスのようなモールドを刻みながらも丸みを帯びて立派なプレートアーマーのよう。背中の巨大バックパックは、衣装が吹く風をはらんでいるように軽妙で、その重量感を感じさせない。
 
 アイネの眼前にちらりとホログラフが輝き、機体からのカメラビューとレーダーを表示した。

「スパイなら見つけたわ。村の子供がこっちを双眼鏡で覗いてる」
「ギャラリーが増えましたか。気を引き締めないといけません」
「こっちも人、増えたのね」
「ええ、お待ちかねのアイスも届きました」
「どうも」

 アイネはそっけなく応えると、あくびを噛み殺して歩きだす。そこへ先ほどの輸送車両の操縦者がやってきた。その手には冷えたCORONAが一瓶と、袋入りアイスキャンディー1つが握られている。
 彼は少女に駆け寄ると、アイスの袋を差し出した。

「はい、これ」
「……ありがとう」
「どういたしまして」

 操縦者はほがらかに微笑んだ。シャワーを浴びたばかりらしく、ざんばらの髪から小さなしずくが零れ落ちている。
 少女は鋭い目で男を見据えた後、頭を下げてアイスの袋を受け取る。操縦者は微笑んでそれに応えながら、おもむろに黄金色のCORONAをラッパ飲みした。

「あの子がロッカー、なわけないよね」
「うん。アイネさんはリキヤさんが雇った護衛だ」

 砂丘に半ば埋もれるように設置された仮設宿舎へアイネは歩いていく。その後姿を操縦者は目で追った。

「てことはあの子がアリーナ期待の新人か。いまの目、見たかい?僕の力量か何か、品定めされた感じだよ」
「僕もやられた。心臓が止まるかと思ったよ」

 二人は丘の上の紫紺に輝く機体を眺めた。その細腕には射撃兵器が2丁握られている。人間が携行するマシンガンとショットガンによく似たそれらは、来るともしれない敵を待ち構えているようでもあった。

「でも、カワイイよね彼女。早くもファンクラブができたとか」
「わかるわかる」

 ソウルアバター。略称SA。
人の闘争本能、想像力からなる想念。それを元に起動する機械。そのバリエーションは装着変身装甲から惑星サイズ兵器までと多岐にわたる。

 特異な機体、奇想の戦術、熟練の武技がぶつかり合うSA同士の戦闘。それはやがて興行となり、”アリーナ”は世界的に注目度の高い娯楽となった。成績上位者はフリーランスも勿論、資産家や企業広告塔。上級国家公務員、自称永世中立国唯一の戦力等、曲者が揃うと噂される。

 人類の大多数が戦う意欲を失った現在、それでも闘争心を失わなかった極少数の戦士達は、自分こそが最強であることを証明する為に戦うのだ。

 が、これはそんな戦士たちの脇で起こった、あるライブのお話。

◆続く◆

本稿は以下の物語の二次創作小説です。スーパーロボット活劇!

筆者は以下の物語を連載中です。


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