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ウルフズ・ワンナイト・スタンド ep-2 #ppslgr

前回までのあらすじ

 スーパーロボット、ソウルアバター(略称:SA)。それに乗るロックミュージシャンであるリキヤは砂漠のど真ん中でライブを開催する。護衛にSAアリーナ所属の少女アイネと、ステージ設営スタッフD・A。運搬スタッフA・Zを伴い準備にいそしんでいた。

 闇夜が青く染まり始めた。夜明けの微かな光は砂漠を照らしきれず、砂丘の影に濃く深い闇の穴をつくる。実際に、爆発クレーターの穴があちこちに点在し、航空機や車両の残骸が砂に埋もれていた。

 空気は刺すように冷たく、リキヤの吐く息は白い。ひときわ高い砂丘の天辺に登り着くと、眼下を指差した。

「あれが今回限定の客席さ」

 彼の微笑む先には瓦礫の湖が広がっている。かつて砂漠のオアシス都市だったろうそこは滅茶苦茶だった。ビルは倒れ、信号機は傾き、アスファルト舗装は残っているだけまだましという有様。電気による光は無く、辛うじて形を保っている石積住宅からゆらゆらとした炎の明かりが漏れ出ているだけだった。

 それでも廃墟都市のあちこちから炊煙が立ち始めている。遠くでバイクや車の走る音が響き始め、早起きした人々がちらほらと姿を見せていた。

 3人はそんな『村』の様子をリキヤの背後から眺めていた。アイネはかすかに瞳を潤ませながら。建設者D・Aはもごもごと呟きつつ。操縦者A・Zはきょろきょろと村を見回していた。

「これ、見てくれよ」

 リキヤは携帯端末を取り出し、荒廃都市を見下ろす3人の前に差し出す。皆が覗き込んだ画面にはインターネットの動画サイトにアップされた映像が再生されていた。10代前半と思しき少年少女がボロボロの楽器を手に、瓦礫の山に囲まれて演奏している。

「これ、あそこの広場?」
「そうみたい」

 A・Zが指さした先には片付けられた瓦礫が小山をなす広場がある。アイネが頷いて応えた。動画と同じその山の足元には、ドラム代わりの燃料缶が綺麗に並べられていた。

 端末からはお世辞にも上手いとは言えないガチャガチャとした音が出力される。だが、夜明けの砂漠に吸い込まれていくその音にリキヤは、大きく頭を揺らしていた。

「良い音させてるぜ」
「そうでしょうか。自分にはちょっと、耳が痛いといいますか」
「まぁ荒いところはあるよ。でもそれが良いんだ」

 アイネはまじまじと動画を見ている。自分より年下の子供たちが奏でるのを、じっと。

「今回のライブは、この子達のためにやるのね」
「いいや。俺が勝手に決めた」

 リキヤは広場を見つめながら、端末から流れるサビに合わせて体を揺らす。同じく端末に見入っていたA・Zは思わずアイネとD・Aへ視線を送る。少女は肩をすくめるが、建設者は静かに頷いた。

「『俺の音楽はこの星のみんなのもの』ですものね」
「おう!俺のライブ会場は俺が決める。誰かに頼まれて決めるのは違うだろ」
「じゃあなんでステージまで用意したのよ」
「ステージは最初から考えてたぜ?ネット配信用に。人里がそばにあったのは、たまたまさ」

 砂漠の海の向こうから日が昇る。光線が砂丘の頂上に立つ4人を照らしはじめた。リキヤは端末をしまい、ゆっくりと村に背を向ける。
 彼の向く先にはA・Zの大型トラックがある。リキヤはさらにその向こう。彼方の砂丘で朝日を受けて銀色に輝くステージを見ていた。ドローン達が夜を徹してくみ上げた、SA用天蓋付き野外音楽場を。

 それはいびつな2枚貝のようだった。蝶番にあたる部分はスピーカーや照明を収めた鉄骨骨組みとなっており、ステージと同じ大きさの円形屋根を支えている。柱のない側は村に向かって大きく開かれていた。

「今日は仕上げだっけ?」
「ええ。調整と試運転の予定です。試運転では音出しもしますので、できればご協力願います」
「まかせろ!なんなら今すぐでもいいぜ?」
「それはご勘弁を!その前に朝食にしましょう」

 リキヤとD・Aは談笑しながら砂丘を降りていく。アイネは軽くため息をつきながらそれを追う。

「ああそうだ、アイネさん。一応お渡ししておきます」

 振り返ったD・Aが大型端末を掲げた。画面には二枚貝ステージの3Dが表示されている。

「あの仮設ステージのデータです」

 アイネが頷いて自分の端末を差し出してそれに重ね、データをコピーする。彼女がホログラフを起動すると、ステージの映像が浮かび上がった。

「ご存じかもしれませんが、彼のライブはSA同士の乱闘になることもしばしばです」
「熱心で凶暴なファンが詰めかけるって話でしょう?もう落ち着いたと聞いているけど」
「彼もそう言ってましたね。ただ、万が一を考えて貴女を雇ったのでしょう」

 横からA・Zが映像を覗く。細部に目を走らせると、微かに眉根を寄せた。

「妙なもの仕込んだな」
「彼の要望だ。万が一のときはリキヤさんが操作するけど、念のためアイネさんも操作できるようにしてる」

 アイネは素早く目を走らせ、ホログラフを切る。

「覚えておくわ。でも何が来ようと私一人で叩き落す。これの出番は残さないわよ」
「結構ですよ。使わないに越したことはない」

 不敵にほほ笑むアイネにD・Aは頷いて応える。そのまま肩で息をつきつつ大型端末を操作して、今日一日の工程を確認した。

「さぁ、さっさと終わらせてリキヤさんのライブを楽しむとしよう!A・Zもどう?」
「ああ……」

 A・Zは振り返って辺りを見回した。
 瓦礫の集落。それを囲む砂の海。折り重なる砂丘と、所々に虫食いのような爆発クレーター。

「リハだけ聞いていこうかな」

 ◆

本稿は以下の物語の二次創作小説です。スーパーロボット活劇!

筆者は以下の物語を連載中です。


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