歯形

『ACC財団が、エクスペリメントタワー工事の一時休止を発表しました。
　担当者は事故により死者1名負傷―』

子供の頃、このタワーが高さを2kmから1.92kmに変更した事を知って驚いた。タワーは財団の宇宙エレベーター構想の一部だったのだ。
複数の超高層を建設し、それらをELVの土台とする。
この工事計画変更は構想にまったをかけた。

だが20年を経て再開が決まり、いま僕は財団職員として、工事の事前調査のためタワーを訪れている。
タワー根元から天を見上げると、子供の頃の夢が帰ってきたような気分だった。

いや、浮かれてはいけない。事故現場の再検証が待っているのだから。

その時、臭いが鼻についた。
視線を地上に戻すと、壮年の男がそばにいた。
ボロをまとっている。体臭がきつい。なぜかこちらを見ている。

よくみると着ているボロは布ではない。
無数の動物の骨。あぎとの骨を集めた物だった。
男は、低く唸った。

「歯形を見ろ」

【続く】