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ウルフズ・ワンナイト・スタンド ep-3 #ppslgr

◆前回までのあらすじ

 スーパーロボット、ソウルアバター(略称:SA)。それに乗るロックミュージシャンであるリキヤはライブのために訪れた砂漠で、付近の村を視察する。D・Aによるステージ設営も佳境の中、運搬スタッフA・Zは何かを探すようにあたりを見回していた。

 日が傾きはじめ、空の青がかすみ始めた。砂丘の落とす影が微かに伸びていく。その影から影へ偵察ドローンが渡っていく。A・Zはトラックの操縦席で、あちこちに飛ばした偵察機が拾ってくるデータを見ながら首を傾げた。

「あなたも護衛だったの?」

 ふいにアイネからの通信が入る。データ群の表示上に小さな窓が開き、少女の顔が映った。

「リキヤからはそんなこと聞いてないけど」
「君の仕事の邪魔はしないよ。ただ、ちょっと気になってね」

 採取したデータを指先でつまみ、アイネの顔の上へ重ねる。同じものが彼女の目の前へ展開された。ドローンで録音した周囲の音響データを。

「今朝へんな音を聞いた気がしてさ。ずっと調べてた」
「私が一日中警戒してる。何もいやしないわよ」
「けどなにか、一瞬だけ……」

 その時、車体が揺れた。

「うえっ?」
「何!?」

 少し遅れて轟音が響き渡る。
 ギターを手にステージ上に立つ一頭三首の冥王と、足元で調整を続けるD・Aが同じ方向を向いた。

 ステージ左手方向の砂漠から、もうもうと砂煙が立ち上がっている。下から何かに跳ね上げられた塵が風に乗ってたなびき始めていた。

「貴方のお客さんかしら」
「いいや。いくらなんでも早すぎる」
「見てくるわ」

 砂丘の上に屹立していた紫紺のプリマが動く。背部のバックパック下部が変形し、細い脚部を分厚く覆う。パンタローネの如く変じた脚部が甲高いモーター音と共に機体を浮遊させ、そのまま砂漠の上を滑って行った。

「D・A、見たかい?」
「うん。砂煙が……増えたぞ。2、いや3」

 D・Aの視線の先で間欠泉のように砂塵が吹き上がった。間隔をあけて吹き上がったそれらの足元は、濃い砂煙のせいでまったく見通せない。

「さっきまで偵察機飛ばしてたのに、何も引っかからなかった」
「ずいぶん上手いこと隠れてたらしい」
「ファンからの手厚いサプライズかな?」
「そう願うけど、念のため最悪を考えておこう。君は離れろ。車が巻き込まれないうちに」
「了解。そっちは?」
「まだステージの調整が終わっていない。もう少しここに残る」

 言うが早いか、彼の周囲へドローンが飛び来たり、回転し、その体にホログラフを投射。ドローン渦とホログラフ発光でその姿が塗りつぶされる。渦が足元から頭頂部に抜けると、D・Aの全身は鋼色の装甲に鎧われていた。

「先に帰ってくれ。また来週あたり、バーで会おう」

 ◆

 紫紺のプリマは砂丘の谷間を滑りながら砂煙に近づいていく。コクピットのレーダーには砂煙が巨大な熱源として表示され、それがリキヤのステージに向かって移動している。

「スキャナを使っても相手の姿を確認できない。砂に潜ってるのかもね」
「潜水艦ならぬ潜砂艦ですか」

 D・Aがステージの動力炉に火を入れた。データを共有するアイネのコクピットにステージのステータスが表示される。同時にステージで増幅されたレーダーによって、瓦礫の村の熱源反応までもが浮かび上がった。

「いまのところ村は平気そうですね。砂煙からは遠い」
「村よりもステージよ。このままだとステージに突っ込むわ」
「もう一度警告をお願いします」
「わかってる」

 脚部モーターが轟き、砂煙を上げる。砂丘の斜面を一気に駆け上がるとその勢いのままに、機体は空へ飛び出した。バックパックの大型スラスターをふかして砂煙の中心、その上空を通過する。

 いまや砂漠を行く砂煙は3筋。あたりにはごうごうと低い機械音と、何か巨大なものが砂の上を滑る擦過音が鳴り響いていた。

「こちらはサブアリーナ所属ソウルアバター、ラフィングジェミナス。この先は当機と……」

 彼女が言い終わらぬうちにひと際大きな地響きが起こった。光学レーダーが砂煙の中のものを微かに映し出し始めたのを見て、アイネは機体を急下降させる。近場の砂丘頂上へ着地後、ホバーで滑り降りて砂煙の側面をとり、両腕火器の安全装置を外す。

 再びの地響き。

「まるで足音みたい」

 アイネがそうつぶやいた瞬間、砂煙を引き裂いて怪獣が姿を現した。

 それは砂色の装甲に身を覆った大型ソウルアバターだった。頭は鼻先に向かって鋭く円錐にすぼまっている。頭と言っても目鼻口は見えない。手足は胴体に沿わせればほとんど目立たない流線型。だが薄く大きな手足の指先は長いかぎ爪になっており、アイネの細い機体が捕まれば引き裂かれてしまうだろう。

 ジェミナスの2倍強はある巨大なモグラ。それが3体並んで砂地から身を起こし、重い足取りでライブステージに向かって歩き始めていた。

「……所属不明機へ告ぐ。直ちに止まれ」

 返事はない。大モグラSA達はアイネを無視し、砂煙の帳を引きずりながら丘を切り崩すように進んでいく。

 ラフィングジェミナスは呆れたように両腕を広げてみせた。

「いいわ。叩き潰す」

 宣告後、ホバーで砂地を蹴って紫紺の機体が加速!大型モグラに肉薄し同時に発砲。細腕に握られた大型突撃銃が火を噴き機械巨獣の装甲を叩く!
 だが着弾点の砂色装甲は火花を散らすばかりだった。

「固いのね。なら!」

 さらに距離を詰める。向かう先はアルマジロの如き装甲の大腿部。そこへ右腕の突撃銃弾を叩きつけながらなお加速。背部スラスターの放った白光を引き、紫紺のプリマは鋭いピルエットと共に飛びかかる!

「貫くッ!」

 背部バックパックが一部展開、第三の腕となって大型モグラの太ももを殴打!同時にステープラーを打ち付けたが如き金属音。遅れて短い圧縮空気音が周囲を震わせ、砂地を波立たせた!

 ラフィングジェミナスは回転の余勢を載せた蹴りを相手へ見舞い、その反動で第三腕を引き抜いて宙に跳んだ。回転する視界の中で、アイネは確かに敵機装甲に穴が穿たれているのを確認した。

「これなら」

 穴が光を放ち

「通るか」

 大型モグラの大腿部が爆炎とともに吹き飛んだ。ぐらりと巨体を揺らし、砂色のSAが砂地めがけて倒れ込んでいく。

 アイネは、巨獣の緩慢な動作を全天周囲モニター越しに見下ろす。
 その視界の端。走り去る車列の先に、大きな砂煙の柱が上がるのを見た。

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