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星空にあわせて廻る街区、富士見廻舞台住宅

 事務机を挟んで向かい合った半透明の美女は、薄い唇を小さく震わせた。

「うちに、霊が出るんです。なんとかならないでしょうか」
「・・・・・・風水とか方角にご不安が?」
「いえ。方位は大丈夫です。霊なんです」

 そう言って彼女は滑らかな黒髪を肩からこぼしつつ手を差し出してきた。白い指先に「契約書ほか」と書かれたフォルダアイコンがつままれている。受け取って机状モニタ上に置くと、建物売買契約書のほかに図面やカタログデータが滑り出して整列した。

「ラップ音ってご存じです?」
「マンガ程度の知識ならば。しかし私は建物機能の劣化診断士でして―――」
「調べてみたんですが、うちが建っている宅地は昔の墓地だったそうなんです。鎌倉時代の武蔵七党の―――」

 相談者は恐怖に顔を引きつらせながら、こちらの様子などお構いなしに怪談話を始めた。止めても聞くタイプではなさそうだ。しかたなく相槌を打ちながら写真に目を向けた。

 およそ十数年前に売りに出された木造二階建て。白い屋根は熱反射性。砂色の外壁と基礎は自己修復材仕上げ。施工不良でもないかぎり三十年は問題なさそうな仕様だ。劣化した自己修復ナノマシンを操作して外壁に人の影のようなものが描かれたり、室内放送機器をいじくってそれらしい音をだすようにされたりといった『心霊現象』については先生に教わったことがあるが、この建物だとその線は無いように思える。

「―――音が止まないんです。ずっとゴリゴリって。家具や食器も、ペン立てまでなんともないのに」
「……なんだこれ。回転方向?」
「あの、播磨さん。聞いてます?」
「ああすみません。配置図を見てたんですが」

 図面を滑らせ、彼女の顔に重ねる。

 分譲住宅地は真円状だった。まん丸の敷地に三列の道路が同心円状に走っており、中央は広場となっている。
 その道路上に小さな注意書きが等間隔に記されている。『回転方向』とある矢印。それに『磁力ハッチ』なる四角い表示が。

【続く】



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