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制御:Toni Kroos

浄化

 恐ろしいまでの緻密さ。寸分の違いもなくボールを目標地点に届ける。マドリーの8番はいつも攻撃の中心だ。彼がいるおかげでチームはボールを流れるように回せるし、万が一澱んでも彼がまた綺麗にしてくれる・・・

 クロースのプレーは淡々としている。パスを受けて捌く。素朴に見えるかもしれないが、その精度は他の追随を許さない。パス成功率は90%を切ることはほとんどない。ショートパスであれロングパスであれ正確無比。特にカルバハルへの斜めのロングパスは芸術品。左足でも素晴らしいパスを送ることができ、どのチームでもパスワークの中心となる選手だ。

 クロースは主に左後方で相手のFWとMFの間でパスワークの起点となりつつフリーな位置で常に味方の逃げ道となる。今シーズンのカンプノウでのクラシコなどはいい例だろう。常に中間ポジションで受けることで味方の逃げ道となり、相手の陣形崩壊を引き起こす。(勿論、バルセロナのFW陣の守備能力もそれにかなり影響を与えてはいるが…)選手間というのは常に守りにくく、クロースのようなプレスをかけても事も無げにかわしてしまう選手がいたら相手からはたまったものではない。それが直接的にゴールに結びつくことはないかもしれないが、相手チームをジワジワと追いつめている。

 横パスや斜めのパスで相手を揺さぶりつつ、プレスが緩くなったら運ぶなど、地味なプレーではあるが相手に「ずれ」を起こさせる。ちゃんとパスコースを切っているつもりでも、微妙にずらされてその間を通される。なにもクロースのパスの技術が素晴らしいだけではなく、パスを通すコースを作るのが抜群にうまいのである。

 実際に彼がボールをキックしているのを見ると何か、時が進むのが遅くなったような感触を受ける。ロングキックをあそこまで余裕を持った状態で蹴れているのも、キックをするまでの段取りがうまいのだろう。

 パスワークの起点となり相手をジワリジワリと崩していくクロースは味方からの信頼も厚い。彼に預けておけば、チームが一息つくことができる。カゼミロには「チームのすべてをオーガナイズするのはクロースだよ。彼にチームの攻撃すべてがゆだねられるのさ」といわれ、「現代フットボールは進むのが早いけど、彼にとっては遅く感じられるだろうね」とはチームメイトのバロンドーラーからの言葉だ。(詳しくは映画『KROOS』をチェック!)

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誤解

 今シーズンのPSGとの1stレグでは守備の穴にもなっていたこともあり、クロースは批判を受けた。しかし、その批判をものともせず彼は試合に出てはパスを味方に供給し続ける。「アイスマン」などと形容されることもあるように彼の感情はなかなか見えにくい。ゴラッソを決めてもニコっとするだけでクールなことが多い。

 誤解されやすい性格。というのは奥さんのジェシカの言うところだが、実際そういう節はある。長身でクールで感情を表立って見せない、と映画の中でも言われている。プロフェッショナルだからこそなのかもしれないが、サッカーに一種のエンターテイメントを求めるファンからは不透明に見えることもあるのかもしれない。映画中にも出てくるがバイエルン在籍時代のCL決勝でのPKの話はまさにそうだろう。本人はPKの時に

「蹴る準備はできていたけど、決める自信はあんまりなかったよ。・・・(中略)・・・チームにとって自信のある選手に蹴ってもらったほうがいいなと思った。」

と述べているが、会長のウリ・ヘーネスはその判断に対して

「クロースなら目をつぶってでもPKを決めることができただろうね。」

と皮肉を言っている。

 クロースの判断、決断は時に批判を受けるものもあるだろう。今シーズンのスーパーカップでのアトレティコとのPK戦。クロースはロドリゴをキッカーに推して、結果的にロドリゴが決めて勝ったからよかったものの、もし外していたら「若手に責任を押し付けた!」などと批判されていたかもしれない。判断までの過程がさほど見えないため、結果で判断するを得ず、うまくいったときは「なんて理知的なんだ!さすがクロース様」となるが、「気持ちも見せないし、やる気ないのか、貴様」などともなりうる。

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 いずれにせよ、彼はこれからもこのスタイルだろう。ただ、今シーズンは今までよりは感情をあらわにするシーンが多いように感じる。嫌な位置で奪われたハメスに対して(どの試合だったか忘れてしまったが…)激高したシーンや、セルタ戦での同点ゴール後の雄たけびもそうだ。最たる例はロシアW杯、スウェーデン戦でゴールを決めた時のクロースの姿はマドリディスタもなかなか見たことがなかったのではないだろうか。時たま見せてくれる彼の感情に心揺さぶられる。

 そんなクロースも2023年までの契約を全うしたら引退するという。本人の性格的に安易な発言をするタイプでもない気がするので少し寂しいが、あと3年なのだ。長いようで短い時間だ。そこに濃密な思い出が、多くのタイトルが、あってほしいなと思う(コロナふざけるな)。そんなマドリディスタとしての願いを書いて、このnoteの〆とする。

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