『AとZ アンリアレイジのファッション』ANREAL+AGE
アンリアレイジのデザイナーである森永邦彦が、ファッションの原点だと語るのは、予備校で絶大な人気を誇ったカリスマの西谷昇二先生に見せられた一着の服だという。『アバウト・ア・ガール』と名付けられたその服を作ったのは、早稲田大学に入学したカンダケイスケという学生だった。
森永は授業の後に、その服が見たくてたまらず、西谷先生のいる講師室に駆け付けた。普段は先生が話す10分の物語の続きを聞きたいと願う受験生で、長蛇の列ができる講師室に、その日、訪ねたのは森永、一人だったという。
西谷先生に紹介され神田さんに会った森永は「神田さんの弟子になります」と宣言し、神田さんと同じ早稲田大学社会学部に入学する。神田さんと再会し、神田さんをただ師匠とあがめ、おっかけをする日々が始まった。
これが森永がデザイナーになるまでの物語のプロローグだ。ここまでのストーリーだけでも、心が震えてきた。こんなわくわくするプロローグの映画かドラマがあったら、自分は絶対に観たい!どうかこれをNetflixで映画かドラマにしてもらえませんか?
そして物語は神田さんが手がけるブランドのはじめてのファッションショーへと進んでいく。ここもドラマのワンシーンのようで最高なのだが、それは本書を読んで確かめてほしい。この2章を読むためだけに、この本買っても損はないだろう。本書はアンリアレイジの森永邦彦がいかにしてデザイナーになったのか。またブランドが成長していく過程を自らが語った本だ。
アンリアレイジ(ANREALAGE)は森永邦彦がデザイナーをつとめるファッションブランドである。フェンディとのコラボや、ドバイ万博日本館の公式ユニフォームなどで話題になったので、名前を聞いたことがあるという人も多いだろう。
私はサカナクションの山口一郎さんが、このブランドのコレクションの音楽を担当していることをきっかけに、アンリアレイジのことを知り、シーズンごとにおもしろいコンセプトのコレクションをしていることに魅せられて、少し前から好んでこのブランドの服を買うようになった。
ANREALAGEは日常を表す英語の「A REAL」と非日常を表す「UN REAL」と時代を指す「AGE」の言葉からなる。「日常」と「非日常」と「言葉」の三つの言葉からできている「アンリアレイジ」の名前と意味を、彼はずっと大切にしているそうだ。英語のANREALAGEは、否定の接頭語「UN」ではなく、不定冠詞の「AN」「A」の意味を強調している。その理由は「ほんのすこし」を表したかったのだという。漫画家の藤子・F・不二雄さんが提唱した「SF」さいえんすふぃくしょんではなく「すこしふしぎ」に近い感覚だそうだ。
なお、本書のタイトル「AとZ」というのは、アンリアレイジのロゴマークのデザインである。これにも深い意味があるのだが、そちらもぜひ本を読んで知ってほしい。アンリアレイジといえばパッチワークが有名である。私もコロナ禍でアンリアレイジのパッチワークマスクを3つほど購入し、パッチワークモッズコートも今秋に購入した。なぜパッチワークだったのか?それもこの本に書かれていた。
本書は12/10に創刊した早稲田新書の第一弾にラインナップされている。アンリアレイジが好きな人でなくても、ファッションに少しでも興味のある人にはぜひとも読んでほしい。特に『ご近所物語』や『ロックンロールミシン』といった漫画や小説が好きな人にはオススメだ。またアンリアレイジがパリコレでコレクションをするに至った経緯も含め、本書の構成が映画のようにとてもドラマチックなので、物語が好きな人にも読んでほしい。
私が文化服装学院というファッションの専門学校出身だからということもあるが、『AとZ』は今年読んだ本の中でもダントツにおもしろかった一冊だ。この本を読んでアンリアレイジのことがより好きになった。とにかくこれを映画かドラマにしてください。絶対におもしろい。この物語を映像で観たい!
森永邦彦(アンリアレイジ)の紡ぐ言葉と写真家・奥山由之の写真を1冊にした書籍
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