近況+短編アニメーション2022年ベスト5+α

長らくnoteのほうでは書いておらず、とりとめのない標題になってしまった……。本年も残すところ1か月ていどとなりましたが、年末年始のゴタゴタ——もしくはダラダラ——で記事執筆のモチベーションがすっかり消え失せてしまうきがして、若干性急ですが、このタイミングで筆をとることにしました。


◾️近況
「プログラムコーディネーター」としてかかわった「第9回新千歳空港国際アニメーション映画祭」が先日無事、実地開催期間を終了しました。関係者のみなさま、審査員やゲストのみなさま、ご応募くださったみなさま、そしてお越しくださったお客さま、あらためまして深く感謝いたします。どうもありがとうございました。トークプログラムや特集上映、受賞作品の一部は、11月21日(月)まで、オンラインでもご覧いただけます。詳細は映画祭公式サイトの「配信について」をご確認ください。感想もお待ちしております。

「新千歳空港国際アニメーション映画祭」(以下、「新千歳」)は、前回まで、現在「ひろしまアニメーションシーズン」のプロデューサーを務める土居伸彰さんがフェスティバルディレクターとして映画祭の「顔」になっていました。その土居さんがご退任され、「「新千歳」の魅力が失われてしまうのではないか?」と心配されたかたも少なくないと推察します。結果的に、審査員や来場作家のみなさまからはたいへん好意的なリアクションをいただけ、少し安心しました。

今回の「新千歳」のアイデアとなったのは「アニメーションの再創造」です。「新千歳」の最大の特徴は、その名のとおり空港で開催される映画祭という点にもとめられるでしょう。文化のゲートウェイたる空港を舞台に開催されるアニメーション映画祭にふさわしいアイデアとはなにか? その問いから導きだされたのが「アニメーションの再創造」です。アニメーション映画祭を、「アニメーション」という概念を問い返し、攪拌するためのプレイグラウンド=実験の場と位置づけ、さまざまな領域が交差するマージナルな空間として構想しました。こうしたアイデアがどのていどお客さまに伝わったのか、現時点ではまったくわかりませんが……。

個人的にとくにおもいで深いのは、デジタルアーティストのYoshi Sodeokaさんを審査員にお招きし、特集上映とトークを実施できたことです。Sodeokaさんはインターネットアートのパイオニアとして知るひとぞ知るアーティスト。わたしはつくり手ではないですが、Sodeokaさんの仕事からとても影響を受けています。そんなSodeokaさんを、こうしてアニメーション映画祭で大々的に紹介することができて、たいへんうれしくおもいますし、光栄におもいます。生涯の夢のひとつが叶ったといっても過言ではありません。なお、Sodeokaさんの特集上映とトークもオンラインにてご覧いただけます。ぜひ、あわせてチェックしてみてください。


◾️短編アニメーション2022年ベスト5
今年は「新千歳」の選考だけでも1000作品くらい鑑賞したのかな? 正確な数字は記憶していませんが……。とうぜんながら、仕事以外でも毎日、趣味でアニメーションを鑑賞しているわけですから、仕事と趣味をあわせれば、日本で10本の指にはいるくらいには新作アニメーションをみているのではないでしょうか(そんなこともないですかね……?)。それだけの数をみていると、正直、印象に残っている作品をしぼりこむのもむずかしい。そこで、わたしの趣味というよりは、いまの短編アニメーションの動向を端的に象徴しているようにおもわれる作品を5作品紹介したいとおもいます。なお、完成じたいは2021年の作品も含まれている点、あらかじめご留意ください。それでは、以下、順不同で5作品を発表します。


① 『Backflip』(Nikita Diakur/ドイツ、フランス/2022年)



②『Sliver Cave』(Caibei Cai/中国/2022年)



③『Swallow the Universe』(Nieto/フランス/2021年)



④『Epicenter』(Hahm Heeyoon/韓国/2022年)



⑤ 『Tiger Stabs Tiger』(Jie Shen/中国/2022年)


グリッチを積極的に導入した3DCGアニメーションで世界的に高く評価されるNikita Diakurの新作①。作者自身を模したアバターがバク転を機械学習していく過程は、最初こそバカバカしくて笑えるものの、途中からはハラハラしながらまじめに応援してしまい、バク転が成功したときのカタルシスは筆舌しがたい。

鑑賞者はアニメーションのどこに「真正さ」を感じるのか? その問いにユニークなしかたで応答する本作は、ある意味ではディズニーや高畑勲のメソッドを裏側から照射しているとも考えられるかもしれません。

誤解をおそれずにいえば、紹介した5作品のなかでもっともトラディショナルかもしれない②。いっけんして手法のユニークさにおどろかされます。まずは下絵となるドローイングアニメーションをつくりこんで、それを薄いアルミ板に転写してコマ撮りしている……? メイキングプロセスは憶測ですが、気の遠くなるような労働集約的な作業を要したのはまちがいないでしょう。

作者の手、映りこむカメラ、鏡に反射する映画館の客席といった複数の自己言及的なイメージの挿入は、旧石器時代の洞窟壁画にアニメーションの起源をもとめる言説とあわせて、本作がアニメーションの歴史をたどりなおす詩的な旅であることを示唆します。

なお、本作は「新千歳」のオンライン配信にて全編をみることができます。選考、字幕監修、上映確認と、映画祭準備期間中に何度も作品をみかえすわけですが、本作はそのたびに新しい発見がありました。ナイーブな価値観かもしれませんが、みるたびに新しい発見がある作品はいい作品だとおもいます。

初見では怒涛のように展開するビジュアルにただただ圧倒された③。特殊な力をもった子どもが迷いこんできたことをきっかけに、ジャングルの秩序は崩壊し、動物たちはわすれていた欲望にめざめる。

徹底して悪趣味かつトゥーマッチなビジュアルには、素朴に「こんな映像みたことない……!」と驚愕させられます。そんな「やりすぎ」なビジュアルは、ストーリーテリングにも貢献しています(正直、初見は映像に圧倒されっぱなしで、物語はいっさい頭にはいらなかったのですが……)。

物語の舞台が満州であること。そして、あきらかに母語ではないとわかる不自然な日本語を操る動物たち。以上が示唆するのは、本作は植民地支配についての寓話であるということです。それゆえに「キャンプ」なビジュアルは、たんなるこけおどしなどではなく、本作における核心的なアイデアと考えられます。本作は、映像としてあまりにもユニークすぎるのみならず、痛烈な批評性をもつのです。

④と⑤は、アニメーションにおける時間表現の新たな展開を予感させます。それは、ひとことで「ドゥーミーなアニメーション」と形容できるかもしれません。以下、両作に共通する具体的な特徴を確認しましょう。色彩はブラック・アンド・ホワイト。全編ほぼフィックスとロングテイクで構成されており、編集は最小限。画面の変化にとぼしく、アクション(運動)は最小限。BGMも最小限。キャラクターの表情は描かない。断片的で謎めいたストーリーテリング。陰鬱としたムード——。

総じて陰鬱としていてスロー。ダルダルによどんだ時間そのものを叩きつけるような作風で、鑑賞者に強烈なプレッシャーとストレスをあたえます。これは、たとえば実写映画における「スローシネマ」のような繊細なディテールを前景化するためのアイデアとは、根本的に異なるようにおもわれます。来年以降、「ドゥーミーなアニメーション」がひとつのジャンルとして定着するのかどうかも要注目です。

余談ですが、⑤の作者であるJie Shenは、中国の若手を代表するアーティストとして、アニメーション映画祭ではすでに安定した評価を得ています。スキャンダラスで挑発的な作品をつくりつづけているアーティストですが、本作もまた波紋を呼びそうです。完成時期的に「世界三大アニメーション映画祭」をはじめとした代表的なアニメーション映画祭への今年の応募はまにあわなかったと考えられるため、来年以降、各映画祭において本作がどのように評価されるのかにも注目しています。

Jie Shenは、個人的に新作をもっともたのしみにしていたアーティストのひとりです。過去作もほんとうにすばらしいので、未見のかたはぜひみてみてください。

◾️+α(長編/シリーズ/ミュージックビデオ)
解説はしませんが——というか解説をする余力がないです……——長編、シリーズ、ミュージックビデオからも3作品ずつをあげておきます。こちらは比較的、わたしの趣味が色濃く反映されているかもしれません。長編のみ短編同様、2021年上映の作品が含まれています。短編のほうで書きわすれましたが、映画祭での上映がからむと、初鑑賞と初上映のタイミングが大きくズレてしまうことがあります。こればかりはどうしようもないので、大目にみてください……。そのかわり——というのもへんですが——シリーズとミュージックビデオは今年公開の作品に限定しています。それでは、以下、順不同で各3作品ずつを発表します。

長編
・『群島(原題:Archipel)』(Félix Dufour-Laperrière/カナダ/2021年)
・『Barber Westchester』(Jonni Phillips/アメリカ/2022年)
・『すずめの戸締まり』(新海誠/日本/2022年)

シリーズ
・『サイバーパンク エッジランナーズ』(今石洋之/ポーランド、日本/2022年)
・『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』(米田和弘/日本/2022年)
・『ぼっち・ざ・ろっく!』(斎藤圭一郎/日本/2022年)

ミュージックビデオ
dj newtown〈2005〉(細金卓矢/日本/2022年)
TOOBOE〈心臓〉(擬態するメタ/日本/2022年)
・KNIVESRAIN〈Be Gone〉(羅絲佳/中国、日本/2022年)


以上、ひととおり紹介しました。すべての作品に簡単にでもコメントをしたかったのですが、ちょっと無理でした……。すみません。こうしてふりかえってみると、ここで紹介した作品にかぎらず、ほんとうにたくさんのすばらしいアニメーションに出会えました。来年もたのしみです。

紹介した作品のなかには今後日本でみられるのか微妙そうなものもありますね……。なんらかみられる機会があるといいのですが……。まあ、わたしが行動すればいいのかもしれませんが。

現時点での来年の予定ですが、「新千歳」も含めてまったく未定です。なので、お仕事のご依頼、お待ちしております。

それでは、来年もどうぞよろしくお願いいたします。

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