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障害者の助けになろうと思った|児童指導員 竹下由紀子さん 2

ここから場所を移動して、テーブルに座ってお話を伺いました。

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── では改めまして。自己紹介をかねて、どんなお仕事をされているのか教えていただけますか。

竹下:はい。では自己紹介から…SEIKO PLUS富里の竹下と申します。児童発達支援・放課後等デイサービス・保育所等訪問支援をやらせていただいております。いまは児童発達支援に力を入れているところです。

私自身は子供たちに携わるようになってちょうど10年くらいです。最初は放デイ(放課後デイサービス)にいたんですけど、その頃は自立とか自発という目線ではなく、保護者も含めて「施設では楽しく過ごせれば良い」という時代でした。

でも今は国の制度もだいぶ良くなってきたということもあって、こういったところに通うお子さんも増えてきました。以前のようにADHDとか自閉症といった症状のお子さんよりも、発達の遅れや、(先ほどもお話した)環境の障害というパターンが増えてきたというのが、この10年の中での変化でしょうか。

ここでは運動をメインとした支援を行っています。もちろん学習も行うんですけど、やっぱり先に運動を行った方がいろんなことに集中できるので。ある種の雑念みたいなものを落としてもらうというか。私たちは児童発達支援を通して、お子様の支援と、まだ全然できてないかもしれないんですけど、保護者を含めたお子さんの住む環境の支援をやらせてもらっています。

── それはどういった形での支援なのですか?

竹下:たとえば保護者さんには10分くらいに早めに迎えに来てもらって、今日やったことの振り返りだったりとか、お家では最近どうですか?とか。お母さまのお話を聞きながら10分間振り返りを行うんです。ただお母さまによってはすぐに帰られてしまうパターンもあるので、必ずしもうまくいくわけではないんですけど。10分でも「今日頑張ったんだよー、お家でも褒めてあげてくださいね」という報告の時間を作らせていただいています。

── コミュニケーションの時間をとるようにしているんですね。自分の子供が今日どんな様子だったのか、ということを知るのと知らないのとでは何か違いますか?

竹下:ぜんぜん違います。報告にはアプリと紙での連絡帳を活用しているんですが、そこには運動、学習、社会性と、支援、提案を書かせていただいています。各項目には今日やったこと、支援の欄には私たちが何か感じたことがあった場合「こういうことを家でやってみてください」ということを書かせてもらってます。

今日どんなことができたのかなど、各項目毎に書かれている連絡帳。

── 自分の子どもが今日ここで何をしたのかを知るのと同時に、やってることに興味を持ってもらう、という側面もありますね。

竹下:ただ、なかなか繋がらないんです。こちらでどれだけ一生懸命やっても家で何もしないと繋がらない。なので「ここではこういうことやったから、お家でもやってみてくださいね」ということを繰り返していく、という支援の提案を続けています。

あとはLINEも活用してます。何かあればすぐに連絡してもらえるように。私のモットーが「不安が不審になる前に手を打ちたい」なんです。「不安」の状態だったらなんとかできるけど、「不審」になっちゃうともう怒りの感情しかない。だから「不安」の時点で、困ったことがあればいつでも言ってこれる体制もとっています。

── それはサポートの形としてとても大事なことですね。

竹下:もうひとつ私たちの支援の考え方として「分離」があります。ここに通う場合は、「親子通所(※親子で通所し一緒に体験すること)」と「母子分離(※子どもが母親から離れても不安にならなくなる状態)」があります。

私が保護者さんにおすすめしているのが「分離」という考え方。ここでお預かりするのは100分という短い時間ですけど、その間にちょっと髪を切りに行くでも良いし、お買い物行くでも良いので、何かリフレッシュできることに使ってもらいたい。そうして改めてお子さんと向き合ってくださいっていうふうにお伝えしているんですね。

親子通所している方の場合、多くは親離れができないんじゃなくて子離れができていない。お母さまが子どもから離れられないんです。だから子供も離れられない。であれば、お母さまが勇気を持って離れてくださいと。

学習は先生とマンツーマンで個室で行われる。

失敗もありました。「そういうことを言われるならここは嫌です」と。でもお母さまが離れてあげることで、子供は子供だけの世界を見つけていくんです。同じ時間軸でもお母さんと子供は違う時間軸にいるということを理解してもらいたいんです。

── 確かに親や家族といる時と、子供同士でいる時って違ったりしますよね。

竹下:違いますねー。お母さんといるときはすごく無口だったり、叩いたりする子どもが、子供同士の場ではきちんとコミュニケーションを取っていたり。今まで暴力的で一方的だった性格が、子供同士の場を経験すると優しい感情が生まれてきたり、譲りあいができるようになったり。それは子供だけの社会の中でしか経験できないことですよね。

── 親もそこは勇気というか覚悟が必要ですね。心配で心配でしょうがないんだけど、子供の成長には「分離」が大切なんだと。それは言葉で伝えて納得してもらえるものですか?

竹下:私たちを信用してください、って言います。「初めてのことだから大変だとは思いますが」と言いながら。もちろんそれで「嫌です」と言われてお辞めになられた方も過去にはいらっしゃいました。だからこそ、子供同士の世界には運動が必要なんです。子供だけの世界という狭い空間の中でも、ちょっとスリルがあってそれを克服して、というようなことができるというのが、運動の良いところじゃないかと思ってます。

── 運動している様子を見ているとちゃんと順番を守るし、しっかりと社会性が身についているように見えますね。でもワチャワチャになったりしないんですか?

竹下:最初の頃はあります。順番を待てなかったり、遅い子がいると攻撃しに行っちゃったり。「僕はできてるのになんでお前はできないんだよ!」みたいな。ここでは職員がちゃんと前の子をみて、前の子が行ったら「行っていいよー」って声掛けをしていて、それを繰り返すことによって「見て動く」ということができるようになります。でも今日はみんなとくに良い子でしたね(笑)。

台車に腹ばいになってすすむことで、床を蹴るという動きが養われる。

── 就学までこういったところに通っていると、いざ小学校に行くとなった場合普通に通えるようになるお子さんもいますか?

竹下:中にはいますが、やっぱり周りの「人」が変わってしまうという状況が難しいんですね。以前ここに通っていた女の子なんですけど、卒園式の練習のときに「待つ」ということができなくて走りまわっちゃった、ということがあって。

園から「どうしたら良いか…」という相談が来たので本人に話を聞いてみると、静かなのが耐えられなくて走っちゃったというんです。要はここの環境ではできてても、環境が変わるとできなくなっちゃうんです。

別の男の子の場合ですが、列を乱して普通に歩けないとか、わざと寝っ転がってふざけたりしてたみたいで。なんとか落ち着かせることができないかということで、例えば好きなシールを腕に貼って、そわそわしてきたらそれを触ってみるとか。とにかくもうあの手この手でどうやったら落ち着かせられるか?を考えてみたんです。でも最終的には自分で頑張ろうと思ったみたいで、無事に卒園式を迎えられて良かったんですが。

── 自分で頑張れたってすごい成長ですね。

竹下:はい。よく保護者さんにお伝えするんですけど、自分の子供だけどある種、人生のパートナーとして、人として見てもらえませんか?ということです。いつまでも自分の所有物のようにしていると、結局その囲いの中だけで育ってしまって成長しない。あれもできないこれもできないとなってしまうことが多い。

でも人生のパートナーとして頑張ってもらいたいと思えば、分離というのは当たり前のことじゃないですか。長い人生を生きていくチームの一人として、ひとりの人間として育ててほしい、ってお伝えしています。…とはいえなかなか難しいんですけどね(笑)。

── 外部の人が伝えないとなかなか気づかないことですからね。

竹下:この子のためにどうしたら良いのか?という考え方にしていかないと。自分の子供だからって、自分の気持ち次第で怒ったり怒鳴ったりするのは良くないですよね。感情的になってしまうのもわかるんですけど、正しいこと、間違ってることはきちんと教えていかないと。お母さんの機嫌で怒鳴ったり叩いたりっていうのはもうなしにしてほしいなって思いますよね。けっこう多いです。

── 発達に影響がでてしまう「二次障害」の原因ですね。

竹下:そのあたりを何とかしたいと考えています。相談支援事業所という障害を持つ方に私たちのような施設を紹介してくれるところがあるんですが、その資格をとろうと思っています。なぜかというと家庭訪問ができるから。今の資格では「家庭訪問行っていいですか」「嫌です」って言われてしまうともう何もできない。

でも今より一つ上の相談支援事業所の資格を取ると、今度は家庭訪問に行かなくてはいけなくなるんです。その様に義務付けられているんで。いま研修を受けている最中です。一歩踏み込みたいけど踏み込めない、というのが現状なので、その資格をとって次の展開に繋げていきたいですね。

(続きます)

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