命の責任

 祖母が死ぬとき父が看取った
 父は祖母のいいつけを守った
 父は祖母から託されていた
 祖母の命の責任を全うしてくれと
 
 父は全うさせることを望み、選んだ
 
 死人は自分のお尻を拭けない
 ふけるのは託されたものだけ
 死んでしまうと人は
 自分で、最後の、命の責任を取ることができない

 だから託せる人が必要で、いてくれるからこそ安心のなか死を迎える
 祖母から父に託された
 今度は、父から僕に託される
 
 父は僕の未来への責任を全うした
 彼は、
 歯を食いしばって働き、食わし、学ばせ、
 諭し、怒り、遊び、お尻を拭き、
 そうして僕は大人になった

 そこには確かに愛もあったが、
 ただそれ以上に彼には僕の未来への責任があった
 
 そんな僕が託される
 彼の命の責任を
 
 彼の子として、選べるだろうかその選択を
 いや、選ぶに違いない
 そう確信し自信がでる
 勇気が湧き、力がでる
 
 家族とは興味深い
 家族とは命の責任という連鎖的且つ強固な、絆そのもののことではないか
 愛とはまさに命の責任を全うするために生み出された感情そのものではないか

 生まれてから死ぬまでのこの命
 人は自分で、最後の、命の責任を取ることができない
 祖母から父へ
 父から僕へ
 僕から、まだ見ぬ未来の君へ
 命の責任は絆に変わり、先へ先へ繋がっていく

 この責任から目を逸らしてはならない
 人として生まれ、人として須く死ぬために、
 未来の君が望み、選択してくれるように
 私は命の責任を全うしたいと今、強く思うのである。


 
 

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