安井息軒《救急或問》09

(九頁)

一封邑ト都邸ト役人ヲ分ケテ、都邸ノ役人ハ専ラ府中ノ事ヲ掌リ、封邑ノ役人ハ専ラ國事ヲ掌ル國アリ、是レ一國を分ツテ二ト爲スノ理ニテ、其害尤甚シ、府下ハ財ヲ用ヰルノ地ナリ、封邑ハ財ヲ生スルノ地ナリ、故ニ府下ノ役人ニ權アレバ費用多クシテ國計立チ難シ、交代シテ府邸ヲ治ムル者モ、末官ヲ遺スヲ善シトス、增シテ府邸ノ役人ヲ定メ置カンニハ、封邑ノ役人ハ府下ノ事情ヲ知ラザルユヘ、費用多クシテモ詰問ニ便ナラズ、上下ノ困窮立テ待ツベキ也。

意訳:農村(封邑)と御城(都邸)(※)とで役人を分け、御城(都邸)仕えの役人は専ら城下町(府中)の事を管轄し、農村(封邑)住みの役人は専ら領内のこと全般(国事)を担当するという国がある。これは一藩を分けて二つにする理屈で、その弊害は一番ひどい。

補注:
都邸:所謂る「お城」、藩主が普段寝起きし、日常的に政務をとる居館。戦国時代の城は基本的に山城で、防衛を重視して山頂に築かれた。ただ山頂だと何かと不便なので、麓に居館(下館)を別に建て、日常生活と執務はそこで行った。居館は山城へ続く道の入口に建てられ、外敵はまず居館で食い止め、持ちこたえられなければ後背の山城に立て籠もった。
 そもそも城下町は「財」の消費地であり、農村部(封邑)は「財」の生産地である。だから城下の役人に権限があれば〔、消費を旨とする彼らは生産のことを軽視しがちだから〕出費が増大し、藩の財政が立ち行かなくなる。

(※以下は、意味がよくとれなかった)
 〔それで生産側視点で財政の見直しを行うべく、農村(封邑)住みの役人の中から〕配置転換で御城(府邸)に勤めるようになった者も、”出向させるなら〔現場に精通した〕下級官吏(末官)がよい”とされ〔、家柄の低いものが出向くことになるため、御城仕えの高官相手に強くでることができず〕、ましてずっと御城仕えだけをしてきたような役人相手には、農村(封邑)から出向してきたばかりの役人は城下の事情が分からないため、たとえ出費が多くても〔「いや、これは必要不可欠な経費だ」と強弁されれば反証もできず、経費の無駄を〕追求しようにも障害が多い。〔かくして藩の財政は赤字続きとなり、それを穴埋めすべく増税することになり〕藩と領民の上下双方が困窮するのは、時間の問題である。

余論:ポイントは二つあって、一つは組織の中で「財ヲ用ヰル」部門に主導権を握らせると出費がかさんで財政悪化は避けられない、もう一つは監査役の身分が低いと監査の機能を果たせない。

 また息軒は都市と地方の分断を懸念しているが、第一次産業が主体だった江戸時代と逆に、第三次産業が主力の現代では都市部が「財ヲ生スルノ地」で、地方こそが「財ヲ用ヰルノ地」となっている。そして国政では地方出身の国会議員のほうが連続当選しやすく、任期年数が伸びるため、政権内で権力を得やすく、結果、人口と税収に対して地方優遇ぎみの予算配分になりがちだ。
 それが駄目だと言うつもりはないし、むしろ都市と地方のインフラ格差が小さいのは日本の美点だと思っているぐらいだが、待機児童問題とか予算さえあれば解決する問題がずっと後回しにされ、「財ヲ生スル」妨げとなっているのはどうかと思う。

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