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ちょっとマニアックな、でもかなり重要なお酒を仕込む際に使用するお水の話。

先日、酒屋さんに営業にお伺いした際、商品以外にもお酒を仕込むお水についてかなり盛り上がりましたので、少しばかりマニアックではありますが仕込み水について少しご紹介しようと思います。

はじめましての方はお時間ある際に下記の記事を読んでいただけると嬉しいです。ビール一本飲み切るよりは少し早い時間くらいで読み切れます。

さて、それでは本題に入ります。

仕込み水とは?

読んで字の通り、醸造に使用するお水のことです。ビールに関して言えば、構成する原材料は基本的に4つです。

麦芽、ホップ、酵母、そして水(種類によっては副原料)

中でも水はビールの90%以上を構成するので、いくらこだわってもお釣りが来るくらい大事な要素となります。そんなの製造担当者じゃなくてもわかるわい!と言われてしまいそうですが、では、「良い水」とは何なのか?

当醸造所を構えます近江八幡市も、水が美しいと言われています。もう少し遡りますと、実は滋賀県は日本有数の日本酒の産地でもありますので、滋賀県全体が酒造りに適した水質です。

関西の水がめ、琵琶湖を保有していますからなんとなくわかるかも。とはなるかもしれませんね。ですが、同じ滋賀県内でも場所によって水質は微妙に異なります。それについて少々細かく解説してみたいと思います。

良い水とは?

あくまでも個人的な感想ですが、日本人は「きれいな水=最強」みたいな認識があるように感じます。

「美味しい水で作ったから当然酒も美味しい。」
「水がいいから酒の産地なんだ。」

では、良い水とは?美味しい水とは?いったい何なのでしょう。

日本の水は場所によって差はあるものの、ほとんどが軟水です。飲みやすく、クリーンな味わいが特徴です。

一方、ビールの本場といえば!みたいな印象のあるドイツの水質は全体的に硬水です。時々スーパーで見かける「ゲロルシュタイナー」なんかは水なのに噛めるのではないか?と思うくらいの硬水です。

日本の大手メーカーによって製造されたラガースタイルビールはとてもおいしいですし、ドイツから輸入されてきたドイツスタイルビールもやはり美味しいです。

では、良い水とは?なんなのでしょうか?

おそらく製造担当者の方は認識されているかと思いますが、「製造するお酒の種類に適した水質を有する水」が「良い水」です。

ビールに関して言えば、数えきれない程のビアスタイルがあり、発祥の土地も変わってきます。イングリッシュペールエールを仕込むにはイギリスの水質が適しているでしょうし、ドゥンケルを仕込もうと思えばドイツの水質が適しているでしょう。

19世紀半ばの話。チェコではビールの腐敗が問題となっており、品質を改善するためにドイツの技師を召喚してビールの技術を学ぼうとしました。

さっそくドイツで美味しいと評判のミュンヘナー(ドゥンケルの一種)と呼ばれる濃色のラガーを製造するつもりでいざ仕込んでみたら、濃色どころか金色。味もスッキリドライの、全くの別物ができあがりました。
※この偶然のおかげでピルスナーが生まれたというお話。もし起源を知りたいという方は下記をご覧になってみると良いかもしれません。

ここではピルスナーの誕生秘話をお話したいわけではなく、水質が変わると全くの別物ができあがるよ。ということです。

チェコの水質は軟水、ドイツの水質は硬水です。したがって、硬水での製造に適したミュンヘナーは、軟水の条件下では濃色の、深いコクのラガーとはならず、金色のすっきりした味わいとなってしまったのです。
※日本は全体的に軟水なのでピルスナーの製造に適しています。

例えば皆さん大好きなIPAを仕込もうと思い、IPAに適していない水質で製造すると、もしかすると狙いとは違う味のIPAになってしまうかもしれません。

水が美しいと言われている場所で製造しても、ある一定の完成度にはなりますが、それに適した水質でなければ飲むと違和感を覚えてしまうかもしれないのです。

製造担当者は自分の目指す味に少しでも近づけるため、原材料にこだわるだけでなく、水質を調整したりしています。

もちろん、その土地の水質を最大限に活かして製造されている醸造所もありますが、そういった醸造所はおそらくどういったビールを作れば醸造所で使用する水質を最大限に活かせるかをご存じです。

たかが水、されど水

仕込み水に関しては、本当にうるさいくらいこだわっている方もいますし、調整せずに自然のままを大事にされている方もいます。

ただ、水質一つで味や見た目がガラリと変わることもあるんだよ。ということを知っているだけでも飲む側からしたら面白いかもしれませんね。

同じアメリカンペールでも、アメリカ産、日本産、ドイツ産、イタリア産と、同じビアスタイルの産地違いを飲み比べてみるのもとても面白いです。

レシピや設備が違うので正確な水平飲み比べとはなりませんが、水質によるビアスタイルの違いだけでなく、国民性や国によっての個性もどことなく感じられます。
※アメリカのペールエールは本当にホッピーだけど、ドイツのはどこかモルティでおしとやかみたいな。

今回は少しマニアックな水質についてお話してみました。とはいえ、飲み手の皆さんは美味いかそうでないかの判断で良いと思います。

記事を書いていたら飲みたくなってきましたので、何か冷蔵庫の中からビールを漁ってみようと思います。


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