『冒頭キャラミステリー杯』の感想置き場26~30

玄武聡一郎先生主催の冒頭キャラミステリー杯の感想その6です。

感想における自分のルールはこちら。

・1作品30分~60分以内(書きだすと1時間以上とか素でやってしまうので)。

・感情、感覚的な感想については、そう感じた理由を付記する。

・推理可能な(気がする、情報がある程度揃っている)作品についてはできるだけ推理する。

・読み違え、勘違いしていたら笑って許してください。


26.冤罪探偵

個人的にはこれはアンチミステリと思った作品です。探偵を否定し、冤罪というテーマ。後期クイーン問題でしたっけ、これ。

ミステリというジャンルが内包する病ではあるのですが、ミステリのロジック(謎解き)というのはもっとも『それらしい』読者にとって『納得のできる』解であるということなのです。すなわち、現代ものにおいて、犯人が魔法で殺したとか、超能力で密室にした、とかは除外されうるわけです。なので、探偵は複雑なギミックであろうと、もっともそれらしい解答を、もっともそれが実行可能な人物を犯人として提示するわけです。

冒頭の冤罪については、ミステリらしい様々な証拠を挙げていますが、具体的なトリックについては語られていません。そもそも、それらは偶然が積み重なっただけだと(ミステリにおける偶然は多くとも2,3くらいまでが許容されうるものでしょう)、真犯人である主人公はミステリの意味を否定しています。

主人公は決して共感できるようなヒーローではありません。ダークヒーローでもなく悪人です。ですが、マクドナルドのシーンにおける小市民的感情や、その後の降りかかってきた冤罪に対して啖呵を切るシーンによって魅力的な、共感できる(かもしれない)キャラになったように思いました。


27.トリッカー&ジャンキー

似たもの同士の出題者と解答者。探偵と犯人と呼ぶには異質な2人。彼らにとって事件とはゲームであり、ドラッグでもある。

キャラミスらしい変人っぷりです。お気に入りの箇所は"『誰か』の願いをかなえるために~"からの犯行設計依頼。

しっかりとキャラが立っていてまとめられている作品だと思いました。欲を言えば、2人が実際に謎で戦う部分が欲しかったかも、と。さすがに文字数的には厳しい気はするんですが。


28.すべての謎は解けている

作品内転生(転移)。ミステリ以外のジャンルでは、比較的多く使われる要素ではありますが、なろうのミステリジャンルではあまり見ない気がします。1,2作品あったような気がしますけれど。ミステリで最初の事件で殺される令嬢に転生したけどそれを回避するような話を見た覚えがあります(うろ覚えですみません)。

ともあれ。多くの場合、結末を知った上でそれをどうするかがテーマになるわけですが、ミステリ、特にシリーズものの登場人物になった場合とてつもなくハードですよね。事件が頻繁に襲い掛かってくるわけですから。特にこの作品では主人公も犯罪を犯しているということが明かされています。

ミステリとしての謎解きはおまけな感じで(そもそも解答を知っているわけですから)、メインとなるのはどうやってこれからの事件に向き合っていくのかとか、綾城さんとの関係性なのかなーと思いました。そういった意味でもキャラミスをしている作品だと思います。


29.ショタ好き陛下の生首事件

(注)最初に宣言しておきます。この作品だけ2,3時間かけました。贔屓というわけではなくて、解けそうで解けなくて延々と考えてました。キャラミス関係のない友人に相談するくらいに。考えすぎてバックストーリーすら想像し始めて何か大変な感想になります。ご了承ください。

異世界ミステリではあるものの徹底的にルールが明示された作品。

解くべき謎は、密室とフーダニット。そして死因。

・密室について。

外部からの侵入可能性は徹底して潰されています。少なくとも結界が張られている、すなわち陛下が存命中は。鍵の問題は、主人公の手持ちと陛下の部屋にあるものだけ。ここで気を付けないといけないのは、主人公は『鍵を使って陛下の寝室の扉を開けた』とはありますが、外から内へ、もしくは内から外へとは明言されていないんですよね。元々が幽閉する部屋だったという噂もあることから内側からも鍵でないと開けられない部屋という可能性は否定できません(世界観的にも現代みたいに内側からは手で気楽に施錠できるものでなくても説得力はあります)。

つまり、元々主人公は内側にいて、部屋の扉を開けただけ、という説がA案。

次に、魔法や呪いと言った要素は存在しますが、首を切る呪いやら奇蹟なんかは否定されています。これが密室に何が関係があるかと言いますと、結界を作る魔法や透視の魔法があることから、施錠や開錠する魔法は否定されていません。つまり、塔の外部に張られた結界さえ消えてしまえば、内部に入ることはできるという可能性は消えないのです。

つまり、陛下が何らかの理由で死亡。そして主人公が部屋にやってくるまでの間であれば不特定の何者かが侵入し、開錠の魔法で鍵を開ける。死んでる陛下の首を切る。テーブルにおいて、施錠して脱出。という強引な説がB案。

・死因について

陛下の遺体や、生首の状態において、血が滴っているなどの表現がなく、綺麗なままだったんですよね。つまり、生きている状態で切断されたとは言い難いわけです。となると、なぜ陛下は死んだのか、ということを考えます。回想の部分において、頭が重いといった発言を陛下がしていることから脳に何らかの異常があったと考えられます。脳梗塞あたりでしょうか。もしくは自然死や何らかの病死でもいいのですが、少なくとも死んでから首が切断されたと考えるのが自然でしょう。

・フーダニット

犯人候補は王族に連なる何者か、魔族である主人公、そして陛下本人。

この3人、それぞれに動機はあるんですよね。王族は言わずもがなですが。

主人公は確かに陛下に心酔しているものの、『陛下の害はなさない』『陛下の意思を継ぐ』といった部分から陛下の為に陛下を殺す(陛下の名誉のためにとか)、もしくは陛下が死んだ後に首を切ることに意味があったとかもありえるわけです。さらに言えば、魔族である以上、仇でもあります。そして、首を切って掲げるという行為はヨーロッパ絵画などでもよくあるものですから、首を斬ることにも理由はいくらでも作れそうです。

そして陛下本人の場合は自死になるわけですが、これは共犯として主人公になる必要が出ます。余命が短いとかそういった理由から服毒もしくは自然死した際に後処理を主人公に依頼したといった。

ここまでの流れから、何らかの要因で陛下が死亡。死亡した後に主人公が首を斬ってテーブルにおいた。密室については鍵があるので解決します。

補強する材料としては、寝る前の陛下の状況などは意図的に伏せられていることが1つ。回想において、主人公と陛下は親密な関係であり、伏せられているということは陛下は寝る際に1人じゃなかったという可能性が浮上するわけです。また、『春の日差しが差し込んでいる』という描写から日が高くなっている(昼前~正午あたり)ことが推測できます。これが何を意味するかといえば、同衾した主人公が起きたら陛下が死んでおり、首を斬ることに時間がかかったという推測もできます。

少し別の観点から。主人公と陛下が出会って10年という表現はありますが、それは回想の段階においてでした。一方で現在時系列である、冒頭と最後のシーンでは時間の経過(つまり陛下が老いていた可能性など)について伏せられています。それが何を意味するかと言えば、主人公が鍵を持っていたという理由になりえるんですよね。長く連れ添った側近であり、介護のために結界内部の塔にいた、とか。

また、序盤において声を抑えて衛兵がやってこないようにしているのに、最後には声を上げたわけでもないのに親衛隊が何故か駆けあがってくる描写があります。
これは何を意味するのか。「そうだ。密室だからこそ起こったことだ」や「大丈夫だ。僕は現状を十分に考察した」といった部分からも、主人公は偽証する風にも思えるのです。つまり、偽証足りえる考察を得たからこそ、彼は親衛隊を呼んだとも読みとれるわけです。

蛇足。バックストーリーを少し考えました。15歳から10年戦争に明け暮れて、他種族の国を平定。その後王族などの統治者を陛下が処刑したわけですが、これによって何が起こるでしょうか。政治ができる人材がいなくなるんですよね。陛下についていたのはおそらく軍事畑の人間でしょうから。悪魔帝のように恐れられていたことから恐怖政治や独裁に近い政治が行われていたのかもしれません。そうなると、主人公には陛下が間違ったときに皇帝となるという動機が生まれますし、悪政を打ち倒し首を掲げるというパフォーマンスにも繋がるわけです。とかも考えたんですけど、謎に対する解答にはならない、ただの妄想です。

ちなみに、陛下の遺体は首無しと書かれていなかったので、生首は幻影魔法では? とかいう血迷った思考もあったことも付記しておきます。


30.出張FBI:特殊魔術犯罪取締課 日本の闇に消えた犬

犯人視点→探偵視点→犯人視点という構造。対比がけっこう魅力的でした。

魔法が存在する現代もの。ミステリとしては軽めで、エンタメ作品なのかなぁと思いました。犯人の語り口からもキャラクター性が色濃く出ていて、主人公2人や署長に負けないインパクトがありました。肩の力を抜いて気楽に読めそうな作品だと感じました。

一方で、魔法のルール付けがミステリとして組もうとすると難しそうだなぁと。変装もできますし、犬も消せちゃうので。