『冒頭キャラミステリー杯』の感想置き場1~5

玄武聡一郎先生主催の冒頭キャラミステリー杯の感想その1です。

感想における自分のルールはこちら。

・1作品30分~60分以内(書きだすと1時間以上とか素でやってしまうので)。

・感情、感覚的な感想については、そう感じた理由を付記する。

・推理可能な(気がする、情報がある程度揃っている)作品についてはできるだけ推理する。

・読み違え、勘違いしてたりしていたら笑って許してください。


1.ゲンジツセカイ・オンライン

比較的専門性の高い話を出来るだけ分かりやすく、伝わりやすく書かれた作品。死生観の類似性は比較神話学のハイヌウェレ神話(バナナ型神話)やら、突き詰めれば集合的無意識とかの話にも繋がりうるので、読んでいて興味深かったです(元々、自分はそういったものに造詣が深いほうではあるのですが)。

キャラ付けとして効果的な一方で、長文台詞が多くなりがちなので、興味がない読者には流されやすいデメリットもあるかなぁと思いました。分かりやすく書かれてはいますが、先輩の結論に至るにはそれまでの話をある程度踏まえる必要があるので、読者に知識的な要求、もしくは思考が求められる作品かもしれません。

また、会話のやり取りに一呼吸置く間が欲しかったとも思いました。どうしても説明や設定の解説のための会話として一気に流れてる印象を受けました。主人公の地の文が、会話のテンポを作る役割を果たしていましたが、どうにも会話の内容が強いせいか、そのあたりの緩急としての役割としては弱かったのかもしれません。



2.墓荒らしジョーンズの消えたゾンビ探し

17~18世紀くらいの近代イギリスのイメージを受けました。

内容がシンプルで分かりやすく、目的も謎もはっきりしています。表現をマイルドにしたら、児童書(江戸川乱歩先生の少年探偵団シリーズのような)でもいけそうな気がします。読んでいてミステリーの幅広さ、可能性を感じました。自分にとってミステリーらしいものというのは探偵と犯人、謎とトリックといった対立構造が強いイメージを持っていましたので。

作中の謎について。ゾンビとは言っていますが、彼女がゾンビじゃない可能性もあるんですよね。流れ的にゾンビの存在する世界観として読んでいましたが、偽証の可能性もあるわけで。『何十にも巻かれた銀のチェーン』や『真鍮の鍵』といった部分がゾンビが存在するという補強をしているとも読み取れます。どっちに転んでも(ゾンビでも、ゾンビじゃなくても)面白くて、ミステリっぽくないのんいミステリなんだなぁと感じました。



3.仮想心理は騙らない

VR空間における小気味よい会話の応酬が魅力的な作品。

変則的な安楽椅子探偵かなぁと思って読んでいたのですが、作中のVRシステム的には有栖さんが事件現場の再現も可能なんじゃないかなーと思ったり。

タイトルから察するにVR内では隠し事は出来ても嘘はつけないのではなかろうかと想像できたりしてけっこう面白要素が盛りだくさんです。SF的ギミックもうまく使われていて(幼女化によるキャラ付け、外部介入の排除=1対1の対決構図)、集中して読みやすいと感じました。

慧兎君が犯人か否かについては不明ではありますが(図式的には探偵対犯人のソレに近い状況ではあるけれど)、彼の発言にぼかした言い回しが多いことが、彼の役割が有栖さんの恋人役(もしくは探偵の助手役)だけではない印象を与えていて、それも謎として成立していてとっても、期待が膨らみます。

ミステリーとしての軸は事件の謎、物語としての軸は2人の関係という2つがうまく噛み合っていてバランスのよい作品だと思いました。



4.顔のない黒きスフィンクスは『人間』を問いかける。

謎としては蝶子さんが何者であるかというのが大きいですよね。後半において、「津山三十人殺しの幽霊」という謎も示唆されてはいますが。自分はオカルトや都市伝説めいたものは好物なので、するすると読めて楽しかったです。

オイディプスといえばオイディプスコンプレックスが有名ですね。さておき。

会話、対話によるキャラ立てがとっても上手で、極力、解説もしくは講義のような文章にならないように気を付けられているように感じました。もしかしたら自分の知識量的に受け入れやすかっただけという可能性もありますが。

時系列的には後半→前半のように推測できますが(明確にはされておらず、夢の中のような空間と捉えることもできる)、キャラのかけあいがうまく機能して、時系列をいじった際に起こりがちな読み手の混乱を避けて書かれていると思いました。見習いたい。

欲を言えば、もう少し物語の先を感じさせる、イメージさせる部分があってもよかったかなぁと思います。キャラ立てと舞台設定は十分に説明しきっているのですが、シーン1(蝶子さんとの会話)とシーン2(烏城さんの里帰り)に隔たりがあるように感じましたので。繋ぐ存在や要素、例えば、蝶子さんがちらっと出てたりしたらまた印象は変わったかもしれません。



5.魔法の匣を開けたなら

これ結構すごい作品だと思います。世界観とルールが明確で、丁寧に書かれているように感じました。

アイデムボックスのルールを例示した上での不可能犯罪の提示という作りがとってもミステリらしくて魅力的でした。世界観も現代化(近代化)した中世ファンタジーという、ウェブ小説読みには親しみやすいものにされていると感じました。中世ファンタジーのままではやりにくいこと(不可能ではないけど、ミステリらしくするには制限が多い)や、現代もののままではやりにくいこと(トリックの目新しさなどの問題)をうまく解決する手段にもなってるのかもしれません。

謎について。アイテムボックスが本人のものではない可能性。例えば、恋人などの親しい人物と同じものを『買って交換した』場合。作中では『本人にしか開けられないが、本人のアイテムボックスだということは証明されていない』ので。描写で、ボックスを破壊して出てきたのが遺体しか書かれていないのもその可能性を補強している気がするんですよねー。

また、双子と言えばミステリのお約束。入れ替わり。キャラ立てとしての双子の可能性はありますが、ミステリだとまず疑わないといけない、という。

ちょっと気になったのは執事とのエピソード。他のシーンに比べて、やや粗いと言いますか、強引にねじ込んだ感じがするんですよね。キャラ付けとして必要だったのかもしれませんが、所長とのやり取りに比べたら、ここに入れる必要が薄いように思いました。ちょっとここだけ浮いている印象を受けました。