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名もない星が消えたら誰が気づくだろうか







受話器から出る声



「そろそろ元の人生を歩んでみたらどうだ」



その声が僕を暗闇から助け出してくれた










蝉の鳴く声も落ち着き学生達の第2幕が始まる季節


久しぶりの日本に降り立ちはや1時間


空港ターミナル前の専用道路の前でスマホ片手に待つ男が一人いた





○○:もう一回電話してみるか…





すると法定速度を確実に超えてるであろう速度の車が目の前で止まると見覚えを通り越して見飽きた影が運転席から助手席に移動して、窓から顔を出す





??:○○ごめ〜ん!

○○:苦笑




そう言って○○が助手席に乗るとおかえりのハグをしてすぐに発進する







プハ〜

窓を少し開けてタバコという名の一息つくと第一声はもちろん






○○:遅すぎ!

奈々:さっきごめんって言ったでしょ!

○○:昨日は意気揚々に「タクシー代勿体無いから送り迎えしてあげるよ」って言ってたのはどこの誰でしたっけ?

奈々:…私です。

○○:なんで遅れた訳?

奈々:……寝坊…悪い?

○○:悪いだろ!
奈々未のせいでこちとら遅刻なんだから。

奈々:それは…ギリギリに帰国する○○が悪いでしょ!

○○:それは…そうだけど…

奈々:それにこの車禁煙!タバコ消す!!

○○:電子なんだから許してよ。

奈々: 次はないから!




音圧で立場を逆転させたこの人は俺の4つ上の姉で橋本奈々未


昔から弟のオレに厳しく、自分に甘いそんなクソ姉貴だ





奈々:今クソって言った!?

○○:言ってねえよ。
(心の中では言ったけど…)

奈々:そっか最近空耳多いんだよね。

○○:歳のせいじゃない?




俺は久しぶりに会ったが故にそんな言葉を吐いてしまった

ウィーン




奈々:窓MAXまで開けたからそこから降りて。

○○:……走ってるよね、それも高速…

奈々:だから?
○○なら飛び降りても死にはしなそうでしょ。笑

○○:……すみませんでした。

奈々:よろしい。




そんな"優しい"姉に運転してもらい向かう目的地はちょっと都会から離れた山の上にあるオレら姉弟にとって懐かしき場所



キーキーッ




奈々:着いた〜

○○:ブレーキ荒い!ペーパーかよ!

奈々:うるさい遅刻するからさっさと降りる!

○○:はいはい。



ガチャ     



遅刻はもう既にしてると心の中に思いながら車から降りる





○○:でも送ってくれてサンキュー

奈々:あらちゃんとお礼言えるようになったんだ。笑

○○:まあな。

奈々:じゃあ私仕事あるから行くけどおじさんによろしく言っといて。



ブルルルルッ



○○:おうってもういねえし……にしても相変わらず無駄にデカいな。





○○を迎えたのは端から端まで見えないほどのフェンスに囲まれた建物の数々



それは乃木坂学園



小中高大の一貫校であり創立150年以上を誇り金持ちや国を代表する親を持つ子供達が通っている由緒正しき名門校だ

そんな学校に訳あって臨時講師として呼ばれたのだ






警備:あの〜

○○:??




奈々未の急発進の音に引き寄せられたのか警備の人が近寄って来た




警備:当校に何か御用ですか?

○○:警備員さん?

警備:そうですけど。

○○:今日からここで先生やれって言われてきたんですけど…



こんな事を「あーそうですか」と入れてくれる訳もなく



警備:…お名前を伺っても良いですか?
職員の方に確認しますので。

○○:じゃあ橋本○○が警備の人に掴まってるっておじさんに伝えてもらえます?

警備:おじさん?

○○:あ…理事長っす。






ガチャ



確認が取れたのかすぐに歴代の理事長の写真とトロフィーの飾られた理事長室に通される

すると早々にその部屋の主から嫌味のような声をかけられる





理事長:早々に警備員に捕まるのは笑えるな。

○○:優秀な警備員さんを雇ってるみたいで安心しましたよ。苦笑

理事長:6年ぶりか?

○○:会うのはそうですね。

理事長:相変わらず遅刻が得意みたいだな?
始業式終わってるぞ?笑

○○:今日のは奈々未のせいなんで……あっ奈々未がよろしくって言ってましたよ?

理事長:それ言うぐらいなら顔ぐらい見せてけば良いのにな。

○○:仕事って言ってましたけど…たぶん帰って寝る気でしょうね。

理事長:姉弟揃って変わらんな。

○○:…すみません。苦笑

理事長:君たちに怒るのはもう飽きたよ。笑

○○:…そうですか?齋藤先生。

理事長:その呼び方、懐かしいな。




理事長の前職は教師でその時に俺たち姉弟の元担任をしていた

そんな先生も親の都合に振り回される形で2年前に理事長に就任していた




○○:そういえば理事長就任おめでとうございます。
跡取りに収まった感想はどうっすか?

理事長:言い方キツイな。苦笑
でも退屈だよ。教師に戻りたいと何度思ってる事か…

○○:齋藤先生ならそうでしょうね。笑

理事長:でも俺には俺にしか出来ない事がある。




コンコン



○○:ん?

理事長:俺が呼んだんだ。どうぞ。




ガチャ




その人物は俺の顔を見るな否やすぐに踵を返そうとする



??:…失礼しました。

理事長:待ちたまえ。

??:…………



ドアの取っ手に伸ばした手を元に戻して理事長の元へ向かった



理事長:こちら私の娘で本学園の先生でもある齋藤飛鳥先生だ。

○○:でしょうね。

飛鳥:……………

理事長:齋藤先生こちら…

飛鳥:橋本○○。

理事長:そりゃ幼馴染だから分かるか。笑

○○:まぁ。苦笑

飛鳥:……………




○○も飛鳥も目を見る事はせず気まずい空気が流れていたが理事長はその空気が読めず昔話がスタート




そして10分後




理事長:じゃあ昨日話した通り後の事は齋藤先生頼んだぞ。

飛鳥:……はい。




理事長室を2人で後にする




ガチャ




○○:飛鳥って仕事中は親父さんだろうと敬語なんだな。

飛鳥:…………

○○:はいはい。無視ですよね〜。






そこからは無言の空間が始まり飛鳥の後に○○がただ着いて行く


そんな中で先に声を発したのは飛鳥の方だった






飛鳥:……新任で来るのが橋本くんがなんて聞いてないんですけど。

○○:俺も飛鳥がここで先生してるって聞いてないけど?
(橋本くんねぇ…)

飛鳥:それは…(奈々未が…)





クシュン





奈々:今頃あの2人会ってるかな〜笑







飛鳥:…仕方ないでしょ!

○○:何が仕方ないんだよ。

飛鳥:あ〜もう私語は終わり。
新人なんだから仕事に集中する!

○○:分かった分かった。
それで俺はなにすればいいんだっけ?

飛鳥:本当に何も聞いてないんですね。

○○:まぁな。

飛鳥:橋本くんには私のクラスの副担任と英語を教えてもらいます。

○○:英語…

飛鳥:もちろんアメリカでニートしながら女の尻追いかけてた貴方なら出来ますよね?

○○:誰から聞いたか知らないけど偏見酷いな。苦笑(多分アイツだな…)





クシュン


奈々未:2回も続くとか…風邪かも…ブルブル







飛鳥:否定はさせません。

○○:はいはい。







3年A組




飛鳥:ごめんね〜 みんな座って〜

生徒:先生遅い〜




生徒達はぞろぞろと自分の席に着席する




飛鳥:それで遅くなった理由はね…

生徒:転校生!?

飛鳥: 当たらずも遠からずかな。笑




生徒達はその言葉に沸き立つ




飛鳥:じゃあ今から始業式に遅刻して新任の挨拶すら出来なかった新人の先生を紹介します、入って。



ガラガラ



○○:なんちゅう言い方だ。

飛鳥:事実を言ったまでです。



○○が教室に入ると転校生の話しの時以上に生徒達は盛り上がっていた



??:カッコいい!

??:そう?

??:なんか…先生っぽくないね。

??:チャラそう…





飛鳥:まず先生自己紹介お願いします。

○○:え〜、今日からこのクラスの副担任をやるらしい橋本○○よろしく。

飛鳥:橋本先生はみんなに英語を教えます。

??:はいはい橋本先生!彼女はいますか?

○○:残念ながらいないね。笑

??:それなら私にもチャンスありますか?

○○:どうだろうね?笑

飛鳥:……はいはい、質問は後でしてね。
まずは橋本先生、早く生徒達の名前と顔覚える為にも出席確認お願いします。




生徒の顔写真と名前が載っている出席簿を渡され教壇に立つ




○○:じゃあ早速…これなんて読むんだ…ごひゃくじょう?

茉央:いおきです!

○○:五百城でいおきって珍しいな。

茉央:よく言われます。苦笑

○○:じゃあ難しいし茉央で。

飛鳥:いきなり名前?

○○:悪い?茉央は嫌そうじゃないけど。

茉央:///

飛鳥:…もう。

レイ:私たちも名前呼びして欲しい!

○○:それは気分だな。

レイ:え〜。

○○:君は…清宮か?

レイ:は〜い、レイちゃんで〜す!

○○:レイか良い名前だな。笑

レイ:キャ///あやちゃん良い名前だって〜。

あや:………





そんな騒がしい事も起きたが名前順通り呼んでいき





○○:最後に与田祐希。

祐希:は〜い。

○○:これで、遠藤以外揃ってるな。

飛鳥:遠藤さくらなら休みの連絡来てた大丈夫。

○○:ふ〜ん。

飛鳥:じゃあ今日はHRだけだからこれで終わり。

全員:やった〜

飛鳥:喜ぶのは良いけど遊びすぎないように。

全員:は〜い。

レイ:○○先生じゃあね〜

○○:おう。レイも気をつけて帰れよ。

あや:…………




○○の事を睨みつけてレイの後ろをついて帰るあやめ




○○:あからさまに警戒されてる〜苦笑

飛鳥:呑気ですね。

○○:初対面なんて好かれようと嫌われてようと印象に残るのが大事だから成功成功!

飛鳥:相変わらずでなによりです…





○○はその後飛鳥と共に職員室に行き
他の学年やクラスの先生方と顔合わせを兼ねた会議に参加すると外はいつの間にか夕方になっていた




そんな時間拘束されると困る喫煙者がそこにはいた





○○:この後も学習計画の作成とか…疲れるな…




左手には電子タバコを持ち廊下を歩きながらキョロキョロしていると




??:なにかお探しですか?



見た事は…確かあるが名前が出てこない学生に声をかけられた



○○:えっと…

遥香:賀喜遥香です。
レイちゃん同様名前呼びして貰っても構いませんよ?

○○:うちのクラスの子か!
そうだ喫煙所どこにあるか知らない?

遥香:覚えていただいた所で、先生には残念なお知らせですけど屋外とか関係なくここ乃木坂学園は全部禁煙です。

○○:なんで?
(前は喫煙所あったような…)

遥香:私達、生徒会がそう決めたので。

○○:……君、生徒会の人間なんだ。

遥香:その通りです。

○○:今の生徒会は喫煙者に厳しいルール作るね〜 笑

遥香:何言ってるんですか?
自ら毒を吸っている先生方への優しさですよ。

○○:苦笑

遥香:でも、橋本先生は条件付きで吸うのOKしてあげても良いですよ?

○○:条件?

遥香:私に着いて来てください。




そう言われ遥香に連れてこられたのは理事長室にも引けを取らない程の立派な部屋だった





○○:懐かしいな…ボソ

遥香:ここのベランダなら吸う事を許可します。

○○:ありがとね遥香。笑







プハ〜



不慣れな先生としての職務から開放され

スーツを脱ぎシャツの袖を自然と腕まくりしながら朝ぶりの至福の時を満喫する





遥香:呼び捨てとは馴れ馴れしいですね。

○○:ゴホッゴホッ
呼べって言ってませんでしたっけ?苦笑

遥香:呼べと呼んでもいいでは大きく違います!
それに、ちゃんとかさんとかつける事も…

○○:はいはい、分かりましたよ遥香ちゃん。





遥香の目は自然とめくったシャツからチラ見する腕に目がいく





○○:悪い、怖いだろ。




○○はすぐに脱いだスーツを着る




遥香:…いえ。

○○:一応言っとくけど別にそっち系の人間じゃないからな?

遥香:この学校の事は信用してるのでそこら辺は心配してませんよ。

○○:それなら良かった。
そうだ遥香ちゃんって生徒会はいってるんだよね?

遥香:はい。

○○:今の生徒会長ってどんな子なの?

遥香:どんなとは?

○○:この学園の歴代会長は変なヤツって相場が決まってるから。

遥香:……じゃあ先生は普通じゃないってことですね。

○○:…なにもうオレの身バレしてる?

遥香:さっき教室で自己紹介してた時には既に気づいてましたよ。

○○:いや〜 照れるな〜。

遥香:悪名高いですけど。

○○:そっか。笑
じゃ、一服も済んだし、行くわ。

賀喜:次も来るなら…

○○:分かってる、約束は守るから心配しなくていいぞ? 

じゃあな。






遥香はその背中を扉が閉まるまで目で追い
閉まると同時に溜息を吐く





賀喜:橋本○○…あなたは…




そんな言葉を呟きながら先程○○の腕から見えたタトゥーを思い出しながら会長専用の椅子に深々の座り夕日を眺めた。


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