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まちがいさがし 2 完





2





○○と別れほとんど乗る人のいない電車の座席に1人で座る



スライドショーのように窓の外が変わる

いつもなら見ていない景色だ




そんな景色から目を背け下を向くと
お酒と眠気に負け意識を手放した
とある日の思い出が脳裏に浮かんだ




私の人生は変わった日




美月:私あの人みたいな女優さんになりたい!




ありきたりだが小学6年生の時に親に連れられて見た舞台に出ていた女優さんを見て
はじめて夢を抱いた



中学に入ると自然と演劇部に入り、演技を勉強した


部員も少なかったからか最初から役を貰って素人ながらも夢への一歩を歩み始めた


その頃からだろうか…周りからは可愛いと言われ始めたのは


でもそんなのどうでも良かった…



褒めるのは演技じゃなくて外見だったから


私の歳ぐらいから芸能界に入って活躍している子達もいる。
なのに…1人からも演技を褒められないのなら女優の夢なんて叶えられる訳がない…



だから次の文化祭の発表を最後に夢を諦めようと思った


でも同じ部活に所属してた事すら知らなかった生徒にはじめて演技を褒めてもらえた



本当に嬉しかった



私はその後その生徒の事を周りに聞きまくって○○って同級生だって事、そしていつも思った事を言う真面目な生徒…



私の気を引きたくてお世辞を言うような生徒じゃないらしいからさらに嬉しくなった



だから私は夢を追い続ける決意をした
たかだか1人だけど見てくれる人がいたから



そんな○○と仲良くなりたくて教室に遊びに行って面倒くさそうにしてたけど演技を見てもらった




そんなある日友達が私のある噂が流れてると言ってきた


私が年上の人を引っかけて援交してると言う噂が…



正直笑ってしまった

その友達に『そんな訳ないじゃん』と言い
その友達も「だよね」と言って噂を信じてない様子だった


でも興味本位でだれが言ってたか聞いてしまった


それが間違いだったんだ…


その友達から
「○○辺りが言い始めたらしいよ」と返ってきた


噂以上に○○が関わっていた事にショックを隠しきれなかった…


クラスは違うし部活も○○はほとんど来ない、それに噂流されて周りに何を言われても別にいい身近な友達だけ信じてくれていれば。
だから学校には行けるはず…なのに


行けなくなった…




はじめて私を認めてくれた人に裏切られたから




そんな時お父さんの転勤が決まった
いつも断ってきたらしいけど私が今の学校に行きづらいならと受け入れてくれたらしい


話しはとんとん拍子に転入先の学校も新居も決まり最後だからと今まで仲の良かった友達に挨拶するために登校した



噂を信じて私に懐疑的な目を向けた生徒もいたがどうでも良かった○○にさえ会わなければ


そうして1日も終わり私のいない間に荷物をすべて運び出した家に帰った…


親達は先に新居にいて私は最後に鍵を渡すために何もない家に1人不動産屋が来るの待っている



ピンポーン



不動産屋かと思いインターフォンのカメラを見ると



○○だった



動揺して応答出来なかった…


そんな彼は手に持っていたモノを既に表札の外されたポストに入れてその前でお辞儀をして帰っていった。



なんで来たのか分からない…

でも、ポストの中のものを見なきゃ始まらない…
そう思って中身を見ると手紙が入っていた。



そして全てを知った



○○が悪い訳じゃない…
私が周りからどう見られてるか知っていたのに自分の事しか考えずに○○の世界を壊そうとしてた




皆んなに思われる自分を演じなかった…


だから…○○は私が転校した後


いじめられたんだ…




そんな事を涙を浮かべながら目を開けると…



美月:ヤバ!



目的地はとっくに過ぎていて折り返しの電車に乗り換えたのは秘密








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山下とは連絡先を交換したがほとんどやり取りはしない


『明日いつものところで!』


と言うLINEが来る以外は


今月で6回目


呑みでのほとんどの会話が愚痴と演技の話し


そんな山下から呑み以外の理由でLINEが来た


『今日会いたい』


休みの日の真っ昼間に
いきなりの誘いは同僚や友達相手でもいつも断っている俺は…






美月:きた〜!

○○:いきなり連絡するなよ。

美月:暇だから遊び行こ



いつも連絡が来ない人からのLINEだから心配になったから来たのに呼んだ理由が幼くて呆れてしまった




○○:そんな理由かよ…それなら帰る。

美月:嘘だよ…ただ○○の顔見たかったから。



恋人かよ!と心で突っ込んだが冗談を言ってると思い冗談で返した



○○:だったら自撮りして送れば済んだな笑

美月:そう言う意味じゃない!

○○:だったらなんだよ、俺にとって貴重な1日休みなんだよ。

美月:そうだよね…




山下は俺の休みが貴重な事を知っている
いつも、仕事に追われその休みすら返上してるのを以前の呑みの席で話したことがあるから。




美月:私…明日最終オーディションなの。

○○:最終!?

美月:そう!
ある大きい舞台の脇役なんだけど…名前付きの役でセリフも多いの!

○○:スゲ〜じゃん!

美月:でも…自信はあるんだけどオーディションが迫って不安になっちゃって…

○○:それで俺に会いたくなったと?

美月:うん///



顔を少しピンクに染めた山下に女子の耐性が強くない○○は動揺しながら



○○:…仕方ねえな…今日だけだぞ苦笑

美月:やった。

○○:どこ行きたい?

美月:買い物!って言いたいけど金欠だから
公園でゆっくりしたい。



最初に出た買い物が1番したい事だろう
女子なら当たり前だ…



そんな山下へ応援の意味も込めて
金欠な俺でも、出来る限りの事をしてあげたかった



○○:分かった。
じゃあ電車乗るぞ。

美月:そこの公園でいいよ。

○○:いいから乗るぞ。



その後○○が連れて行ったのは古着屋さんだった。



○○:ここ家近いからたまに来るんだよね

美月:え…私もたまに来る!

○○:だったらしれっと通り過ぎた事あるかもな笑

美月:かもね笑
それでここに何しに?

○○:俺の買い物。

美月:え〜!

○○:お礼になんか買ってあげるから。

美月:本当に!?

○○:好きなだけ…は無理だけど1.2点ならいいよ。

美月:やった!



この後、目星の物をカゴに入れ会計へ行こうと山下に声をかけると



美月:どっちが良い?



山下はワンピース2着で悩んでいた



○○:女子の好みなんて分かんねえ…

美月:そんな事言ってるとモテないぞ!

○○:…だったら…


○○はその2つとも自分のカゴに突っ込んだ


○○:こうすりゃいいだろ。

美月:ワォ金持ち!

○○:俺の給料知ってるだろ苦笑

美月:私よりって意味。笑



会計を済まし山下の分の袋を手渡す



美月:ありがとう!

○○:いえいえ




山下の分の袋を渡すと下を向きながら




美月:…ここ来たのって私の為でしょ?

○○:そんな訳ないだろ暇人に暇人の予定付き合ってもらっただけだから…

美月:…嘘つき…ボソ





その後流れでご飯を食べ明日は俺は平日だし山下はオーディションだからと早めに解散した。

そこでも山下から



美月:真面目!



と言われて心がズキンとしたが言い返さなかった。

いや言えなかった…







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朝になると外は雨そして仕事

いつもなら憂鬱だ

それでも今日はウキウキしていた


スマホを開いて


「今日オーディション頑張って」


自分からはじめて山下にLINEを送った

するとすぐに既読になり


『ありがとう!!○○も仕事頑張って!』


と返ってきた。


そのLINEを誰にも見せられない顔をしながら満員の電車に乗る為

傘を持ち家を出る




その日の俺はいつも以上にテキパキ動いて数人分の仕事をやった。
嫌味しか言わない上司にも褒められるほどだ


あいつも頑張ってるからと言うのが心にあったから…


そんな働きのおかげか数ヶ月ぶりに定時で帰る事ができた


その日のうちに合否は分かると言ってたから
家に着いてもチラチラとスマホを覗いた


だが何も通知は来てない。


冷静に考えて受かっても受からなくても俺に1番に送ってくる訳はない…
でも送って来ない訳も無い


そうしてる間に日にちを跨ぐ寸前になった


○○:なにかあったのか…ボソ


そんな思いから電話をかけると


美月:……もしもし


声だけで分かる山下の表情


○○:どうした?落ちたか笑



そう茶化して元気を出させようとした

そんな俺を山下は無視した



美月:…会いたい…

○○:明日仕事だから他の人に頼め。

美月:○○に会いたいの!

○○:!


怒りなのか悲しみなのか分からない声で俺の心をかき乱してきた


美月:お願い…

○○:分かった。今どこいる

美月:前に行こうって言った公園…

○○:向かうから動くなよ!




朝なら分かるが夜中にダッシュで電車に乗る人は見たことないだろう


電車の中で焦る思いを傘にぶつけながら目的の駅で降りると
いると言っていた公園へと向かう


そこには朝から降り続く雨の夜に1人
傘を指さずにベンチに座る山下がいた

いつもの俺ならお尻が塗れるからとベンチには座らないだろうそれでも傘を山下の頭に指して何も言わずに隣に座る



美月:……○○

○○:なにしてんだよ苦笑

美月:ごめん…

○○:傘は?

美月:壊れちゃった笑


その笑顔は今にも崩れそうな笑顔だった


美月:それに服もごめん…

○○:それって…



山下の着ていた服は昨日買った服だった



美月:濡らしちゃった苦笑

○○:…もう…笑うな…

美月:え?

○○:自分では笑えてると思ってるだろうけど笑えてないぞ…

美月:…私の演技…まだまだだな
そりゃ落ちるよね。


○○:そっかダメだったか…

美月:ダメなのはいいんだ…

○○:?


山下はベンチから立ち上がり俺の傘から雨の中へと自ら飛び込んだ

それは涙を隠すために…


美月:審査員の人にね。
「君の目力は邪魔」って言われたの…

○○に昔褒めて貰った私の唯一の長所…否定されちゃった苦笑




泣きながらも笑った山下を俺は放っておけなかった…



ギュ



美月: ……私びしょ濡れだから……

○○:そんなのどうでもいい
無理に笑うな…泣け

美月:……うん…




山下は○○の胸の中で泣き続けた




○○:落ち着いた?

美月:…うん。

○○:よかった。

美月:…○○の心拍すごい早かった笑

○○:笑うなよ。
抱きしめるなんて大学以来なんだから…

美月:へぇ〜
その割に自然だった。

○○:茶化すな苦笑

美月:真面目な○○にそんな度胸があったなんて知らなかったな〜

○○:…俺は真面目じゃないボソ

美月:え?

○○:だから…俺は真面目じゃない!

美月:いや…真面目だよ。
だって…手紙くれたから…

○○:手紙?
そんなの書いた記憶……(ある…でもあれは)

美月:あの手紙ちゃんと届いてたから。

○○:そんな訳…ないだろ…あの日既に引っ越してたんだから。

美月:私はまだ家にいたよ?
出る勇気はなかっけど…

○○:……それなら俺が山下にした事知ってるだろ。

美月:うん。

○○:だったらなんで駅で声かけたんだよ。
いじめの原因は…俺なのに。

美月:勘違いしてる…

○○:?

美月:○○は違うクラスだったから知らないだろうけど私はイジメられてない。

○○:でも、学校来なくなったじゃんか。

美月:うん。

○○:だったら…

美月:私は○○に会うのが辛くて行けなかったの。

○○:俺?

美月:私の演技を初めて認めてくれた人が
噂を流して、影で実は嫌ってるなんて…信じたくなかったから

○○:それは…

美月:手紙読んだから知ってる…○○のせいじゃない。

○○:でも…

美月:○○の方が大変だったんでしょ?
私を転校に追いやったって噂が流れてイジメられて。

○○:なんでそれを。

美月:転校しても友達とは連絡取ってたから。

○○:ただの自業自得だよ。

美月:私が逃げたから…○○はイジメられたんだよね。
本当にごめん!

○○:俺の方こそ…

美月:謝らないで!
手紙であれだけ謝ってたんだから。

○○:それでも、口に出さなきゃ意味がない…
あの手紙はただ謝るきっかけが欲しかっただけだから。


○○は背筋を正して頭を下げた


○○:山下美月さん本当ごめんなさい。

美月:いいよ。許すよ。

○○美月:フフフッ



2人で過去を水に流しながら笑い合った


真実を知るためには1人で悩む必要があった
最初から2人で解決すれば簡単だ…
でも悩んだからこそ今隣にいる気がするから




美月:あ!

○○:今度はなに?

美月:終電逃した!

○○:気づくの遅いな笑



最終列車は1時間前に出ていた



美月:それにちょっと寒い…

○○:急いで来たから上着もって来なかったわ。

美月:服も濡れてるし店入れないな〜

○○:……山下…何が言いたい…

美月:ホテル行こ!

○○:却下!

美月:なんでよ。
こんな可愛い子とイチャイチャできるんだぞ笑

○○:自分で可愛いって言っちゃうのかよ笑
それに俺、考え方古いかもしれないけど彼女以外とそういう所行かないから。

美月:じゃあ彼女にして///

○○:じゃあってなんだよ。

美月:○○が好きなの。

○○:!

美月:○○と最初に駅で会った時
実は年齢とか親とかに言われたりとかで
女優諦めようか悩んでて上の空で歩いてたの…そんな時に○○の顔を見て

○○は私が悩んでる時にいつも出てきてくれるヒーローだと思った。


○○:そんなカッコいい登場じゃなかっただろ

美月:確かに笑
でも、ヒーローだよ。

好きって気持ちは正直…まだ曖昧…でも日に日に大きくなってるの。

だから私と一緒になって///


○○:ホテルの誘いの次はプロポーズかよ苦笑

美月:お嫁に貰う?それともホテル行く?

それとも…両方?



この答えは決まってる今まで合理的に生きてきた俺に衝動的な行動をさせたんだから



○○:もちろん…両方で…苦笑
美月俺のお嫁さんになって下さい!

美月:やった!って名前!

○○:一応形から入ろうかと…

美月:それに…実は思ったけど○○って
昔僕っ子じゃなかったっけ俺って言うの違和感ある。

○○:それも…美月に真面目じゃないって思って欲しくて形から…

美月:可愛い///

○○:やめろ〜!





○○は美月に連れられホテルで朝を迎えるまで愛を育んだ



そして○○は次の日はじめて仕事をズル休みした。


愛とは恐ろしい笑





その後




○○はブラック企業を辞めて給料は同じぐらいだが定時で帰れる会社に転職した

理由は小さい家ながらに待ってくれてる人がいるからだ




美月といえば女優を目指すのを諦めた

女優を目指し続けられたのは○○に声をかけてもらったから…
それなら○○が隣にいる今は女優を目指さなくても幸せになれるそう思ったかららしい


今は劇団所属してた経験からボイトレの講師をしている。





この2人の物語はどちらも世間から見ればどこにでもある一片だ



片方は普通の男、片方は夢破れた女…



そんな人達がこの世の中の大半



でも夢を叶えた人だけの物語などつまらない



成功する以外が間違いの選択などではないんだから



僕たちの人生が駄作だと馬鹿にされようと幸せがここにあるならそれでいい





君と描き続けたい物語がここにあるから

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