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僕たちはあの日家族になった 5









5








机の引き出しの奥底
そこに眠るルーズリーフには持ち主の理想の人生がシャーペンで書いてあった




高1になったら○○先輩と普通に喋れるようになる



高2になったら○○先輩と友達になる



高3になったら○○先輩と付き合う





そんな文章の最後には…



○○先輩と………でオリンピック出場!!




ここには夢が詰まっている




でもそれは後に上書きされた油性のマジックのバッテンがその夢を黒く塗り潰していた…








ガチャ





遥香:学校行ってくるね。

??:…毎日来るな……出てけ…

遥香:ごめん……お兄ちゃん…




ガチャ







私の兄は○○に壊された









-------------------









さく:かっきー!おはよう。

蓮加:おは!

遥香:2人ともおはよう。

柚菜:おっはよ〜!

蓮加:…変態…来た……

柚菜:酷い!

遥香:柚菜おはよ。

柚菜:おはよ。
サッカー部の試合結果聞いた?

さく:知ってるよ。
なんだったら蓮加と2人で観に行ってた。

柚菜:…なんで誘ってくれないの!?

さく:誘うもなにも…次の日ママと出かけるって言ってたじゃん。

柚菜:……言った…けど…

蓮加:お兄ちゃんが点取った所なら動画撮ったけど見る?

柚菜:見る見る!




蓮加がスマホを取り出すと何故か柚菜と蓮加で取り合いになっていた





遥香:朝でも柚菜は元気だね。苦笑

さく:うん。笑
そうだ、かっきーってサッカー詳しい?

遥香:どうして?

さく:次、試合観に行くまでにサッカーのルール知っておきたいんだけどスマホで調べてもよく分からなくて…

遥香:お兄さんの為?

さく:ち…違うよ!
ただルールさえ分かれば観るのがもっと楽しくなるかな〜って

遥香:本当に好きだね…お兄さんが 笑

さく:///

遥香:詳しくはないけどさくちゃんの為なら少しは教えられるよ。

さく:本当!?ありがとう!!

蓮加:どうしたの?



動画を見終わった2人が会話に戻ってきた



さく:かっきーがサッカーのルール教えてくるって。

蓮加:良かったじゃん。

さく:蓮加は教わらなくていいの?

蓮加:私は…お兄ちゃんだけ見れればいいから///

柚菜:蓮ちゃん可愛い!!
けどお兄さんは譲らないからね!

蓮加:この前やっとお兄ちゃんに名前覚えられた人と競ってもないから。笑

柚菜:ムキッ

遥香:まぁまぁ 苦笑

蓮加:それにしてもかっきーってサッカーまで知ってるとか凄いね。

柚菜:当たり前じゃん!
中学の時サッカー部のマネージャーやってたんだから。

さく:!?

遥香:柚菜…

蓮加:そっか2人は中学から一緒だっけ?

柚菜:そうだよ。

遥香:…………

柚菜:あれ…言っちゃダメだった?

遥香:ううん…大丈夫。

さく:それならかっきーさえ良かったら今度試合観ながら教えて欲しいな!

遥香:……それは嫌…ボソ

さく:え…

柚菜:先生来たよ。

蓮加:本当だ!

さく:…………





遥香:……嫌い…サッカーなんて…ボソ







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○○:ねえ〜 颯斗。

颯斗:ん?

○○:この前さ、家に妹が友達連れて来ててさ

颯斗:女子?

○○:そう。

颯斗:ハーレムだな。笑

○○:まぁな、んで…その中にいた遥香ちゃんって子がね…少し気になるんだよ…

颯斗:…おい具合でも悪いのか!?


冗談半分だが颯斗は手を○○の額にあてる


○○:なんでそうなるんだよ 笑

美月:颯斗は○○が女子の事で悩む世界線がある事にビックリしてるんだよね〜

○○:お、美月おはよ。
この前のデートサンキューな。

美月:こちらこそ助けてくれてありがと///

颯斗:デートで何があったんだ!

美月:秘密!

○○:美月は遥香ちゃんって知ってる?

美月:知ってるけど、なんでそんなに気になってるの?

○○:なんで……誰かに似てるんだよあの子。

颯斗:苗字は?

○○:………なんだっけ?

美月:賀喜、賀喜遥香ちゃんだよ。

颯斗:賀喜!?

○○:ん?

颯斗:覚えてないか?賀喜って。

○○:覚えてない!

颯斗:返事早いな〜
1個下にいただろウチのサッカー部に賀喜って苗字の男子、もっと思い出せよ。

○○:……スパイクで教えて。

颯斗:確か…

美月:ミズノのモレリアネオ2の黒。

颯斗:さすが美月。

○○:モレリア……
いた〜!あのめっちゃ上手い奴!

でもその子って部活で見かけないよね?

美月颯斗:……………

○○:ん?なんか俺、変な事言った?

美月:その子サッカー部"だった"からね。













部活も終わりすり減ったスタッドを買う為スポーツショップに来た○○




○○:これでいいか。


以前使ってたものと同じものを手に取ると横から声を掛けられた


??:○○先輩!

○○:えーと…遥香ちゃん…だよね?

遥香:名前覚えてくれたんですね!

○○:妹の友達だしね。
遥香ちゃんはこんなところで何してたの?

遥香:さくちゃんがサッカーのルール知りたいみたいで、分かりやすく教えられる本を見に来たんです

お兄さんに聞けば手っ取り早いんですけど…知られたくないみたいで。苦笑

○○:可愛い妹だね。

遥香:……はい。




買い物も終わり途中まで一緒に帰る事になった2人


話した事のほとんどない2人に会話はない

でも、いつも使う通学路が見えたところで遥香が話し出す




遥香:…先輩は私の苗字覚えてますか?

○○:賀喜でしょ?

遥香:……それなら…賀喜翔太って名前はどうですか?

○○:遥香ちゃんの双子のお兄ちゃんだろ?

遥香:!!

○○:たまたま今日その遥香ちゃんのお兄ちゃんの話題になってさ。
サッカー上手かったよねって。

遥香:……嘘です。

○○:本当だよ?

遥香:嘘です!!
サッカーが上手かったなんて…

○○:それ言ったの俺なんだけどな…苦笑

遥香:だったらなんでお兄ちゃんからサッカーを奪ったんですか!

あなたのせいでお兄ちゃんは…





ちょうど会話中の2人の横を車が通る



ドンッ



○○:おッ



○○は遥香の手に押され車の方へと体が飛ばされる



車の速度はあまり出ていない
でも轢かれるのは確実という所にもう1つの影が近づく






颯斗:おっと、大丈夫か?

○○:フラついたみたいで助かった。

運転手:どこ見てんだ!

○○:すみませ〜ん!よろけちゃって。

運転手:気をつけろよ!

○○:はい!本当にすみませんでした!





車は去っていった






颯斗:お前何しようとした!!

遥香:………

○○:ただ、俺がつまづいただけだから怒んないであげて。苦笑

颯斗: コイツが突き飛ばした所、俺は全部見てたの!

○○:そっか…
そういえばなんで颯斗がいるの?

颯斗:付けてたんだよ。

○○:キャ〜!ストーカー!

颯斗:お前のじゃねぇ!遥香ちゃんの方だよ。
キミ、最近部活終わりの○○の跡をつけてたよね?

遥香:……気づかれてましたか…

颯斗:それだけだったら○○のファンなんだろうなって別に気にしないだろうけど、それが賀喜翔太の妹ってのが引っかかったんだよ。

サッカー部に入ってすぐに退部した、俺たちの次の代の全中優勝校キャプテンの妹ってのがね。

遥香:そこまで知ってるんですね…

○○:俺たちが3年時に決勝で当たった学校にいた2年のボランチの子だよね。

颯斗:でも、部活どころかサッカーまで辞めたって聞いたから残念だよ。

遥香:辞めた? 辞めさせられたんですよ。
コイツに!



遥香は○○を指さした




颯斗:そこが俺たちとキミとで認識が違うんだよ。

遥香:何が違うんですか!?




この押し問答になっている会話に○○が間に入る




○○:…遥香ちゃん?

遥香:なんですか!?

○○:良かったら遥香ちゃんから見たお兄ちゃんの姿を教えてくれないかな?




自分のされた事など棚にあげて

問い詰めるでもなく優しい声で聞く○○に遥香も落ち着きを取り戻し、兄の事を話しだした




遥香:お兄ちゃんはずっと○○先輩に憧れてたんです。
プレーが読めないから見てて面白いって。
自分もあんな選手になりたいし一緒にプレーしたいって…

その夢がやっと叶ったのが中3の時でした。

中学の全国大会の決勝。
結果は負けちゃいましたけどここまで来るのにどれほどお兄ちゃんが頑張ってたか知ってる私からしたら誇らしかった。

○○:その試合すげーやりづらかったの覚えてる。

遥香:それもその筈です。
ずっと先輩の動画を観て、癖とか目のやりどころとか研究してたんで。

颯斗:この前の試合とどっちがやりづらい?

○○:確実に遥香ちゃんの兄だね

遥香:!!

○○:前の試合はどちらかと言えばシステムの話しじゃん?
でも、翔太は個人で抑え込もうって感じ。

どっちが嫌かって話しになったら周りに影響出してない後者の方でしょ。


遥香:でも先輩を追ってこの高校に入学してすぐにお兄ちゃんはサッカーを辞めました。

それからなんで辞めたのかお兄ちゃんに何度聞いても教えてくれなかった、だからサッカー部の人に聞いたら○○先輩に挑んでコテンパンにやられて、下手くそって言われてたって…

颯斗:遥香ちゃんに嘘ついたサッカー部のバカは誰だよ…ボソ

遥香:先輩のせいでお兄ちゃんは壊れたんです

○○:俺…そんな事言った覚えないけどな…

颯斗:そりゃそうだろ、言ってないんだから。

○○:じゃあ噂とか抜きにして翔太に直接思った事言いに行こっか?

遥香:何する気ですか!?

○○:行ってからのお楽しみ!

遥香:…………

○○:大丈夫、悪いようにはしないから。
俺を信じてくれないかな?

遥香:………はい…










コンコン   


翔太:うるせえよ。


コンコン


翔太:だから…



ガチャ



○○:入っちゃお。

翔太:!!

○○:よ!久しぶり。賀喜翔太くん。

翔太:○○…先輩…?

○○:そうで〜す!○○先輩です!

翔太:………遥香ですか?

○○:自主的!笑
それにしても部屋が散らかってますね〜 苦笑

翔太:…すみません。

○○:いいの いいの。
勝手に押し掛けたのこっちだし 笑


○○:ってかあれって。



○○が中学の全国大会の決勝で来ていたユニフォームが飾られていた



○○:本当に飾ってくれてるんだ 笑

翔太:はい!
もう着ないからってくれたやつです。

○○:あの時の対戦相手で1番上手かったからあげたかったんだよね。

翔太:嬉しいです!




その後も中学の思い出を2人で語り合った




○○:それでここからが本題…
遥香ちゃんから聞いたけど引きこもってるんだって?

翔太:はい…

○○:俺に負けたから?

翔太:それもあります…
俺は最後の試合から1年経った今の自分がどれだけ先輩に近づけたか確かめたくて…勝負挑んだんです。

心の中では勝てないまでも五分五分の自信があって。
でも完全に力の差を見せつけられて…心が折れちゃって。

○○:ふ〜ん。

翔太:…先輩からしたら…その程度ですよね…

○○:いや…その勝負に負けたからなんなの?

翔太:!?

○○:1対1での勝敗とかサッカーで意味なくない?

翔太:それは…分かってますけど…

○○:俺が翔太の事1番評価したのは視野の広さと相手のパスだろうとミドルだろうと諦めず最後の一歩脚を出してコースを切れるところ。

その他の事は追々身に付ければ良いでしょ?

翔太:……………

○○:翔太は自分の理想を高く設定し過ぎたんだよ。

翔太:ハハッ   ですね。

○○:それではここで問題です!


ジャジャン  


○○:今俺が部活で困ってる事はなんでしょう

1 今のボランチ陣が心配

2 今のスタメンボランチが不安定

3 翔太並みのボランチがチームにいない


さあどれだ?


翔太:!?

○○:チームを支えるのが颯斗みたいなディフェンス陣と翔太みたいなボランチの捌き、そのうち1つのピースが今のチームには抜けてるんだよ。

翔太:…それは○○先輩みたいな人がいれば。

○○:俺は前線へのヤジで手一杯 笑

翔太:……先輩の言いたい事は分かりました。
でも1年もブランクある俺にそのお手伝いは出来ないです。

○○:そっか〜 残念……
でもそのスパイク見たらまた誘いたくなっちゃうな。




部屋にはちゃんと管理してある一足のスパイクが棚に大事に保管されていた




○○:いきなり部活に来るのが嫌なら個人練習 夜の公園でしてるから遊びに来てよ。

引きこもりで暇なんだろ?

翔太:…俺なんかが行っていいんですか?

○○:もちのろん!笑

翔太:……考えてみます…

○○:楽しみにしてる。笑



○○は翔太と連絡先を交換して帰り支度を始めた



○○:それじゃいつでも連絡してね〜
返信するかは気分だけど!笑

翔太:はい!ありがとうございます。

○○:またね!



ガチャ






部屋を出ると遥香が玄関先まで送る


すると唐突に遥香は頭を下げた




遥香:本当にごめんなさい!

○○:自分の思った事喋っただけだからそんな頭下げないでよ。笑

遥香:私…先輩にひどい事を……

○○:何もなかったんだから気にしてないよ。

遥香:でも…

○○:じゃあ、1つのお願い聞いてくれる?

遥香:はい!なんでも。

○○:…妹とこれからも仲良くしてあげて。

遥香:…………

○○:疑問だったんだ遥香ちゃんが転校してきた妹達とどうしてあそこまで仲良くなったのか。

遥香:…それは……

○○:まぁ知ろうとも思わないから答えなくていいよ?

でも、さくらも蓮加も遥香ちゃんの事、信頼してる。
だから今回の事なんか気にせず今のまま2人の親友でいて欲しいんだ。

遥香:…分かりました。約束します。

○○:ありがとう。
よーし、それじゃ帰るね。

遥香:……待ってください…

○○:ん?

遥香:もう…これで先輩の前から消えます…

だから…






遥香の手はさっき道路に押し出そうとした方向とは反対の方向に○○を動かした








チュ




○○:!?



唇の同士が触れ合うだけのキスをした



○○の目はビックリして見開いていたが遥香の目を瞑る目尻から流れるモノを見た









遥香:ハァ…ハァ…図々しくてすみません……ウルウル

○○: …正直 遥香ちゃんには嫌われてると思ってたからビックリしてる。苦笑

遥香:私…お兄ちゃんの件で勝手に先輩を恨んで…ウルウル

でも先輩はお兄ちゃんだけじゃなくて私の憧れでもあって…だから…
こんな私を苦しめた先輩の大事なもの最後に奪ってやりました…///

○○:その気持ち嬉しいよ。

遥香:先輩の人生めちゃくちゃにしてやろうとか思ってたヤツが何言ってんだ…って思うかもしれないけど…本当にこれで…

○○:最後?
そんな事したら俺との約束果たすの大変でしょ、兄妹で同じ家に住んでんだから。笑

だから今まで通りで構わないよ。

遥香:…はい///

○○:じゃあまた。

遥香:ありがとうございます///








○○:お待たせ。

颯斗:モテ男はやっぱり違うな。
あんなの美月に見られたら殺されてるぞ?

○○:…何を?

颯斗:遥香ちゃんとのキス

○○:キ…ス…///

颯斗:高3にもなってまだ初心か!!

○○:う…ぶ…

颯斗:お前ワザとやってんな。

○○:笑

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