【産学連携イベントレポート】アニメーション制作現場のリアルと必要な人材は?
デジタルハリウッド大学(以下:DHU)では、デジタルコミュニケーションを専門的に学ぶ大学として「プロの現場とつながる教育」に力をいれています。
その取り組みのひとつが「産学連携」です。現場で働くプロを講師として招いた授業や、企業でのインターンを通して、現場の生の声を聞き、体感しながら学びを深めることができます。
2021年度はアニメ制作会社「Production I.G」が監修する「アニメ制作概論」を開講します。アニメ制作に関する産学連携授業を開講するのは、開学以来初の試みです。
2021年4月28日には開講を記念して、Production I.Gの現役社員による特別講義「アニメ制作会社に本当に必要な人材とは?」をオンラインで開催しました。
本noteでは、DHU在学生90名と一般参加者48名が聴講した1時間半に渡る特別講義をダイジェストをお届けします。
<登壇者プロフィール>
森下 勝司(もりした かつじ):アニメプロデューサー
1972年うまれ。株式会社シグナル・エムディ代表取締役社長兼株式会社プロダクション・アイジー取締役。
関連作品:「バンパイヤン・キッズ」、「お伽草子」「xxxHolic 真夏ノ夜ノ夢」など
藤咲 淳一(ふじさく じゅんいち):脚本・演出・小説家
1967生まれ。株式会社プロダクション・アイジー企画室室長、DHU特任教授。1996年Production I.G入社。
関連作品:TVアニメ「攻殻機動隊S.A.C」シリーズ、「ポケットモンスター」、「ガル学。〜聖ガールズ・スクエア学院」など
Production I.G(プロダクション・アイジー):内容・映像・音楽ともにハイクオリティなアニメーション作品の企画から制作までを一貫して行い、世界中のマーケットに向けてコンテンツを提供していく企業。アニメーション作品に加え、CG、ゲームソフトの企画制作、クリエイターマネジメント、著作権の取得、管理、販売などを行っている。
関連作品:「銀河英雄伝説 Die Neue These」、「PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR」、「攻殻機動隊 SAC_2045」など多数
Production I.Gは「なんでも任される普通の会社」
Production I.Gには、アニメを作るセクション、アニメを動かすセクション、会社を動かすセクションの大きく3つが存在しています。そして「アニメを作るセクション」の中には制作1部、2部、3部という部署があり、部署ごとに担当作品が決まっています。
「アニメ制作会社」というそのカテゴリから、一見特殊な組織にも思えるProduction I.G。しかし藤咲さんは、実態は「普通の会社」と何ら変わらないと語ります。
藤咲:珍しいのはアニメーションを作っているということだけで、お金の動きを見たり、会社全体を円滑に動かしたりする部署はどの会社にも必要不可欠。どこが欠けてもProduction I.Gにはなりません。
多くの課やセクションから成り立っているProduction I.Gでは、入社後のキャリアパスもさまざま。藤咲さんも森下さんも「流されるままに、今の立場になっちゃったようなところもある」と笑います。
▲森下さん、藤咲さんがこれまでに携わってきたお仕事
森下:僕はもともと他の会社の社員で、Production I.Gのグループ会社に出向したんですよね。はじめは「スパイが来た!」みたいなことを言われて(笑)警戒されていたんだけど、そのうち「何やってるの、暇そうだね」と言われるようになり、制作進行の仕事を任されることに。『BLOOD THE LAST VAMPIRE』のアシスタントプロデューサーを務めたのがキッカケで、Production I.Gに正式に入社しました。
今のProduction I.Gにもその流れは若干残っていて、「これをやりなさい」とひとつの仕事を渡されるのではなく、別の仕事もどんどん振られれる。右も左もわからないままに何かに取り組める環境があるというのは、Production I.Gらしさですね。わたしも新参ものだったけれど、その文化のおかげでチャンスをもらえたと思っています。
藤咲:そうそう、うちの会社って入社してから本当にいろんなことをやらされるんですよ。その上で、向き不向きを考えながらまた次の場所を与えられる。自発的にいろんなことを身につけていくことで実績とスキルが積みあがって行くから、自信にもつながります。
音楽朗読劇『MARS RED』はどのようにアニメになったのか
特別講義の後半では、Production I.Gにおいて「原作アニメ」(原作がマンガやゲームではない作品)の作品制作がどのように進んでいくのかに迫ります。
▲原作アニメの企画の流れを表した図
原作アニメの起点となるのは、読者の「好き!」や市場の反応です。人気の原作があれば、制作会社は、出版社や原作者に掛け合ったりコンペで競ったりして、制作の権利を獲得します。近年は「この作品を制作することでどのくらいの規模のビジネスになるのか」「類似の作品が海外ではどのくらい売れているのか」といった部分も考慮しながら作品を動かすことが多いといいます。
Production I.Gが手掛けたアニメ『MARS RED』にも原作が存在しますが、作品の元になっているのはライトノベルやマンガではなく「音楽朗読劇」。シリーズ構成と脚本を担当した藤咲さんは、もともと映像がない音楽朗読劇にどのように映像の要素を加えるかに苦心したと語ります。
藤咲:朗読劇って、「絵がないのに絵が浮かぶ」というところが魅力ですよね。それなのに、アニメ化することで絵を「つけてしまう」。それが本当に難しく、画面設計をどうするかというところを現場のスタッフと相談して悩みながら進めていきました。大切にしたのは、セリフや映像でディテールを足しすぎない、説明しすぎないこと。悩みに悩んだ結果、全脚本を書くのに1年もかかってしまいました(笑)。
藤咲さん曰く、「耳で感情を揺さぶる」ことも、こだわりのひとつ。主演声優陣には、原作の音楽朗読劇でキャストを務めたメンバーを採用しました。また、通常は先に作って後からアニメに当てはめていく劇中歌も、アニメーションを作った後に作曲したそうです。
藤咲:アニメが舞台化されるケースは多いですが、その逆は珍しいもの。原作の魅力を失わせないためには、原作の声優陣にご協力いただくことが必要だと考えました。
森下:我々の中では「声優陣を絶対に変えてはいけない」という気持ちがありましたよね。そこが一番重要だろうと。制作期間に緊急事態宣言が出てしまい、当時はすごく混乱もしましたが、こだわってよかったなと思います。
藤咲:脚本に1年かけて、アフレコも音楽もとことんこだわった。だから、仕上がった作品を見たときは自然と泣けました。実際に見てみて、手ごたえを感じたというか。
森下:そうですね。できあがったアニメの1話、2話をみたとき、朗読劇を見ているような感覚になって、「あ、これは成功したな」と。
アニメーション制作現場に必要な人材とは
『MERS RED』の制作過程が説明される中で、プロデューサー、監督、アニメーター、声優……と、たくさんの人の協力があったことが明らかになっていきました。これは他の作品の場合でも同様で、アニメーション制作の現場では、社内外のさまざまな人が関わってひとつの作品を創り上げていきます。
では、その現場には、どのような人材が求められているのでしょうか。
まずは、創造性。イメージを膨らますための想像力に加え、クリエイターとして最低限の「創造力」も必要です。
そして、アニメーションは共同作業でできあがるもの。コミュニケーション力と調整力、冷静にその場の状況と優先順位を判断する分析力、ときには臨機応変に動く柔軟性も求められます。
つぎに、モラル。作品には作り手のモラルが宿ります。作中でやって良いこと、悪いことを判断できる最低限のモラルもなくてはなりません。
最後に、個性。自分自身に何ができるのか、自分自身の武器とは何かを知っておくこと。絵が描ける、話が上手い、関わるすべての人の誕生日を覚えられる……なんでもいいから、そんな風に誰かに覚えてもらえる個性があると良い、と森下さんは結びました。
今回特別にムービーで出演してくださったProduction I.Gの石川光久代表取締役社長は、現場に求められる人材についてこう言及しました。
石川:アニメ業界にぜひ来てほしい人材は、まずは笑顔が素敵な人ですね。どんなに話が上手い人も、笑顔が素敵な人には敵いません。そして、仕事が好きになれる人。さらに、多様性について柔軟に考えられる人はアニメ業界に限らずどこにも必要です。
アニメ業界を目指す学生へ「幅広くアニメに興味を持ってほしい」
講義の終盤には、講師からアニメ業界を目指す学生に向けてメッセージが送られました。
森下:今はテレビや動画配信サービスなどでたくさんのアニメが観られます。Production I.Gの作品だけではなく、いろんな会社が作っているアニメを見て、興味を持っている人に入社してもらえたら嬉しいです。
藤咲:監督になりたい、脚本家になりたいといった肩書への野望を持つのもいいですが、肩書に囚われすぎるのはよくありません。目の前の仕事をきちんとこなして実績を積み上げると、自然となりたい肩書がついてきます。僕たちも気づいたらこの位置にいたので、とにかくなんでもやってみてほしいです。
Production I.G監修の「アニメ制作概論」は2021年度後期(4Q)に開講予定。プロデューサーの石井光久氏やアニメーター・作画監督の後藤隆幸氏など毎回の授業のテーマに合わせて現場のプロを招聘する予定です。Production I.Gの制作フローを元に、現場で活躍するクリエイターの生の声を聞きながら、アニメ制作を学んでみませんか?
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今後もDHUでは産学連携の取り組みを続けていきます。本取り組みは、クリエイティブの現場で働くプロから技術や働き方、心構えなど実践的に学べる貴重な機会。DHU生のみなさんは学びのチャンスを生かしてください。
DHUでの学びに興味がある高校生のみなさんは、2021年7月18日(日)、8月22日開催の夏のオープンキャンパスにもぜひ参加してみてください!
https://www.dhw.ac.jp/opencampus/summeroc2021/
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