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広報にまつわる知的財産権について考えてみた

私が広報として書いているプレスリリースや企業紹介文は、言うなれば転載・引用されてなんぼのものです。そのため、メディアやパートナー企業に対しては、「むしろコピペしてもらった方が誤解が起こらず、ありがたい」くらいに考えてきました。

ところが少し考えさせられる出来事があり、企業の広報文そのものについての著作権についてもあらためて考えてみました。

そもそも知的財産権って?

特許庁のHPによる知的財産権制度の定義は次の通りです。

知的財産権制度とは、知的創造活動によって生み出されたものを、創作した人の財産として保護するための制度です。

何をもって知的財産とするのかというと、これは知的財産基本法の第二条に記載があります。大雑把にいうと、人間が創造したもの全般です。(逆に言えば、GANなどのAIが創造したものの著作権は、この法律では定義されていないとも言えます。)

この法律で「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう。

知的財産権を法律の目的(産業活動の保護 or  文化の発展)で分類すると、ざっくりと下図のようになります。

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ビジネスシーンでサービス・製品名称、ロゴなどに注意を払うのは、商標権や意匠権が存在するからです。また、製品の技術やアイディア、産業デザインは、特許権や実用新案によって保護されています。

特許権・商標権・実用新案・意匠権の4つは産業財産権と呼ばれ、これらは特許庁に出願して登録されることで一定期間の保護を受けることができる権利です。

一方で、著作権は著作物が創造された時点で自動的に発生する権利です。著作物は絵画、音楽、文章など、即興的な演奏のように形に残らないものも含めて「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法 第二条)を指します。

著作権は「権利の束」とも称され、著作者の権利や著者隣接権に含まれる権利を詳細にあげていくと非常に複雑になります。
一般に「著作権」として話題にあがる際に考慮されているのは、著作を公開展示する権利や、他の制作物へ使用する権利、これらの使用権を貸し出したり、売ったりできる権利など、大きくまとめると財産権です。
著者人格権は著作者だけが持つ権利であり、売り買いの対象とはならず、著作者の名誉を保護するものです。

プレスリリースは著作物か?

知的財産の定義は、人間が創造したもの全般とも言える広いものでしたが、著作物では定義の範囲がいくぶん狭められています。

著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。(著作権法 第2条)

著作物として認められるためには、思想または感情が表現されていなければならず、それも「創作的」つまりオリジナリティがなければならないということです。

この部分について、さらに詳しく例示しているのが著作権法 第10条なのですが、その第2号にこんな条文があります。

事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない。(著作権法 第10条第2号)

事実の伝達にすぎない雑報…。例えば「東京は日本の首都です」などは、事実の伝達にすぎないので、著作物にはならないでしょう。
地震速報のように、ほぼ定型が存在しており、事実のみをいち早く伝える文章も著作物ではありません。

では、プレスリリースはどうでしょうか。

プレスリリースの本文は、客観的な事実情報やデータに基づいて記述されるものです。この点だけを見ると、プレスリリースは著作物ではないとも思えます。

しかし、プレスリリースの作成にあたっては、社内から情報を収集し、伝えるべきメッセージを決めて、読みやすい文章構成を検討するというプロセスがあります。ここには、企業としてのビジョンが当然含まれますし、いかに自社情報をわかりやすく伝えるかという創意工夫も存在しています。

これらのことから、最近注目を集めている「ナラティブ」なPR文章にまで至らなくとも、プレスリリース文は著作物としての要件は満たすのではないかと思うのです。

もちろん、プレスリリースの中に写真や図、バナーなどが含まれていれば、これはそれぞれが独立した著作物です。

マーケティング企画と知的財産権

では、プレスリリースの中身に相当する、製品・サービスやマーケティング企画については知財を主張できるのでしょうか?

結論からすると、残念ながら企画そのものについては知的財産権を主張するのは難しそうです。

製品・サービスに関わる技術は、特許権や実用新案の対象です。名称やロゴを決めて登録した場合は、商標や意匠権を主張できるでしょう。
顧客リストなど、営業活動に関わる情報は営業秘密として不正競争防止法の対象です。企画書にはもちろん著作権が発生します。

だけど、ビジネスのアイディアそのものは知的財産ではありません。

そのため、例えば、お店での気遣い的なサービスや、新メニュー、割引キャンペーンなどは容易に真似されてしまいますし、こうしたアイディアの後追いを制限することは難しいことです。

しかし、ビジネスのアイディアを産み出して実行に移すには、通常、多方面への調整と人・資金の確保、オペレーションの組み立てなどが必要です。
こうした部分で競合と差を積み重ねていくことで、模倣困難性が成立し、競争力の源泉となっていきます。

顧客にしてみれば、表面上は同じサービスを受けられるのであれば、一時的には後追い戦略をとるお店・企業からサービスを受けるのに、なんらの支障はないかもしれません。

ただし、長期的には企画力・提案力がサービスのクオリティにつながっていく可能性は大いにあると思いますし、企業の広報・マーケティング担当としては、そうありたいものだと思うのです。

広報担当者と企業とメディアと著作権

広報担当者は、プレスリリースやコーポレートサイトへの掲載文を業務上作成します。こうして作られた文章は、「職務上作成する著作物」(著作権法 第15条)にあたり、著作権は企業・法人のものとなります。

コーポレートサイトや、PR Timesなどに掲載され、メディア向けに配信されたプレスリリースは、その性質上、メディアに対して報道の目的に関しては転載・引用などを明示的・暗黙的に許諾している状態かと思います。(この辺りは、私も正確に把握しきれていません。)

しかし、あくまでも著作権はプレスリリースを発行した企業・法人のものになります。

また著者人格権は依然として、文章を作成した広報担当者のものであるはずです。

したがって報道目的ではない、第三者がプレスリリースを無断で借用・転載した場合は、著作権違反になる可能性があるということになります。

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<ご注意>

私は法律の専門家ではありません。知的財産権の考え方や著作権法については、福井健策「著作権とは何か〜文化と創造のゆくえ」のほか、特許庁、文化庁のHP、および知的財産基本法の条文を参照していますが、私の理解不足などによる誤りなどもあるかもしれません。
以上、ご承知おきの上、お読みいただければ幸いです。

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<参考>

著作権の基本的な考え方は、福井健策氏の「著作権とは何か」で学ばせてもらいました。2005年発行と少し古い本となってしまっていますが、技術進歩による新たな課題や、著作権の根幹にある「創造性」とは何かという議論にも及んでおり、読みやすくも深い内容です。

※ 改訂版が出ているようなので、読んでみようと思います。


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